021 ギルド試験2~二連戦~

 場所:冒険者ギルド

 語り:シンソニー・バーフォールド

 *************



「あの、このままC級試験、受けれたりしますか?」


「いいですよ! C級試験は四万ダールですが、魔物が無事だし、エサ代も浮いたので、いまなら三万ダールにまけておきます」


「わぁっ! 試験官さん、優しいんですね! それじゃぁ、お願いします!」



 C級試験の対象は、膝下くらいまでの大きさの凶暴化した動物、もしくは初級魔法を使う魔物だ。


 ごくまれに、中級魔法を使うこともあるらしい。


 D級に比べると、かなりランクアップしている。


 エサを食べていたダークマウスたちが回収され、新しいビーストケージがなぜか二つ、広場に運ばれてきた。



「C級試験は二連戦になりますので注意してくださいね~」


「えっ……。二連戦ですか?」


「はいはい~! では魔物を解放します! 用意、はじめっ」


「はっ、はいっ!」



 試験官の合図で、ケージから魔物が飛び出してきた。


 一戦目は赤い花弁をフリルのようにヒラヒラさせた、花の魔物だ。名前はスパイトフルフラワーだね。


 地面から生えた太い茎、緑の葉は手のように広げられている。



――あー、これ、エサ食べないやつだっ。



 うねうね伸びてきた触手を、僕はリジェクトウィンドで押し戻す。だけど細いから、あんまり有効じゃないみたいだ。



「いっけー! シンソニー! 攻撃だよー!」

――ピーーーー!――



 また笛の音が鳴って、僕は攻撃モードに変更された。もう少しで触手の棘にやられそうだったから、よかったよ。



――風よ、渦巻き斬りつけろ!



 鋭い刃交じりのつむじ風が、緑の触手を切り刻む。これは、中級魔法のトルネードカッターだよ。


 そのまま風を魔物本体にぶつけると、スパイトフルフラワーの花弁が細かくなって舞い散った。


 怒った魔物から、黄色い花粉がまき散らされている。あれは吸い込むと喉が痛くなって、しばらく呪文が唱えられなくなるやつだ。


 まぁ僕、もともと無詠唱なんだけど、喉が痛いのはちょっと嫌かな。


 リジェクトウィングで吹き返すとこかもしれないけど、僕はいま攻撃モードだから、できるのは攻撃のみ!



――風の刃よ吹き荒れろ!



 もう一度トルネードカッターを今度は本体に直接吹き付ける。さっきより威力をあげて、竜巻のように強烈に。



「ゲホゴホッ」

――花粉すいこんじゃった!



 だけど、スパイトフルフラワーはすっかりボロボロになって、しおれた茎だけになっていた。


 そして端から霧のように、フワッと消えてなくなっていく。



「ゲホッ、ごめんね。ちょっと無茶だったかな? のど飴食べる? フルーツ味だよ」


――ありがとう!

「ケホッ」



 ミラナにもらったのど飴を食べると、喉が痛いのはすぐに治った。



「うー! めちゃくちゃ美味しい!」


「でしょでしょ? メージョーさんのお店で買ったんだよ」



 すっごくニコニコしてるミラナ。学校に通ってたころのミラナは、こんなに笑わなかったから、なんだかほわっとするよ。


 いまでもミラナはがんばり屋さんだけど、僕にもすごく頼ってくれる。


 ミラナと向かいあってニコニコしていると、試験官さんが声をあげた。



「二戦目はじまりまーす! 二戦目の魔物はこちら! ヘルキノスです!」


「「はい!」」



 ニコニコ顔をやめて、真剣な顔で身構える僕たち。


 今度はビーストケージから、カニみたいな魔物が三匹飛び出してきた。


 両手が大きなハサミになっていて、身体は硬い鱗で覆われている。


 カニだけど身体は青色で、水の魔力を放出しながら淡く輝いているよ。



「ギギギギ……! ピチュピチュ!」


「わ、いたたっ。なんか飛ばしてきた」


「ウォーターボールだね。地味に痛いっ!」



 ヘルキノスが水の球を次々に投げつけてくる。


 ケガするほどじゃないけど、顔を狙ってくるから、普通なら防御体制をとるとこかもしれない。


 だけど、僕はいま攻撃モードだ!



――硬き甲羅を打ち砕け!



 僕は、またトルネードカッターを放った。


 細かい刃まじりの竜巻に、ヘルキノスの甲羅がカチカチ音を立てている。


 だけどやっぱり、かなり硬いらしくて、あんまり効いているように見えない。


「打ち砕け!」は少し、無理があったみたいだ。



「シンソニー! 解放レベル3!」

――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――



 またミラナの笛が鳴り響いて、僕の解放レベルがあがった。


 ミラナの腰のビーストケージから、風の魔力が噴き出して、僕の体が変化していく。



「ピーーー!」



 大きなワシの姿になった僕は、バサッと空に舞いあがった。


 僕はミラナが調教魔法を習ったレーマ村で、レベル3まで調教されて、戦闘の訓練も受けたんだ。


 だから、この姿で戦うのは、結構慣れてるよ。


 白くて大きな翼で、空を飛ぶのが気持ちよくて、かなり気に入ってる姿でもある。



「ピチュピチュ! ギギギギギ……!」



 ヘルキノスが撃ってくるウォーターボールを受けながらも急降下し、頭を狙ってクチバシでガスッと突き刺す。


 頭を刺されたヘルキノスは、泡を吹いてひっくり返った。


 横からもう一匹がハサミを広げてカニ歩きしてくる。


 僕はそれを、鋭い足の鉤爪で思い切り蹴っ飛ばした。ヘルキノスはまた泡を吹いて、今度は縮こまって動かなくなった。



「ピチュ!」


「ピーーー!」



 怒った三匹目のヘルキノスが、ハサミで殴りかかってくる。


 僕はそれをギリギリで避けながら、もう一度空に飛び上がって、翼を大きく広げてからバサッと閉じた。



――これはどう? ウィングバレット!



 緑の風の魔力が溢れ出し、羽根の形をした弾丸が翼から大量に飛び出した。


 それが、ポカンと僕を見あげていたヘルキノスに、寸鉄のように突き刺さる。



「ピチュ……ン」



 三匹目も泡を吹いてパタッと倒れ、それっきり動かなくなった。



「ピーーー!」


「やったね! シンソニー!」



 試験官さんが立ち上がり、合格の札をあげてくれる。



「ミラナさん、C級試験、合格でーす!」


「やったぁ! ありがとうございました!」



 観客席からも、パチパチと拍手が起こって、歓声が上がった。



「思ってたよりだんぜんすげーな! やるじゃねーか!」


「魔物って、調教すると変身できるの?」


「ていうか、二人とも可愛い!」



 色んな声が飛び交う中、僕はミラナの頭上を旋回した。ミラナが誇らしげな顔で僕を見上げて笑ってくれる。



「シンソニー! すごくいい戦いぶりだったよ! 頑張ってくれてありがとう」


「えへへ。合格できてよかったね」



 なんだかちょっと、照れくさいけど、ミラナに褒めてもらうのは、すごくうれしい。


 本当に、頑張ってよかったって思うんだ。戦いの疲れも吹き飛んじゃうよ。


 現れる魔物によって、かなり難易度が違いそうだけど、試験も運よく合格できてほっとした。



「すごいですね。まさか、このままB級試験受けたりしますか?」


「いえっ! 今日はこれで十分です!」


「それじゃぁ、受付で冒険者証を発行してもらってくださいね」


「はい!」



 ミラナはまるで、新兵のようにハキハキと返事をして、僕を人間の姿に戻すと、ニコニコしながら会場を出た。


 そして、パタパタと走ってオルフェを迎えに行く。


 ミラナは子犬のオルフェを抱き上げると、また幸せそうに頬ずりをした。



「やったよぉ、オルフェル! 見ててくれた?」


「きゃうっ」



――あはは。オルフェあれ、嬉しいんだろうな。尻尾めちゃくちゃふってるよ。



 ミラナは前より、ずいぶんオルフェにも優しいみたいだ。


 まぁもともと、ミラナもオルフェが好きだったんじゃないかなって、僕は思ってるんだけど、違うかなぁ。



 そんなことを考えながら、僕は冒険者証を受け取りに行くミラナについて、受付に移動した。



*************

<後書き>


 C級のギルド試験に挑むミラナとシンソニー。予想外の二連戦でしたが、シンソニーの解放レベルをあげ、無事にクリアできました!


 そして、防御モードのときは防御、攻撃モードのときには攻撃しかできない様子のシンソニー。


 この謎の制限は、いったいなんなんでしょうね。


 次回、第二十二話 魔物の衝動~覚えてるならよかった~をお楽しみに!



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