020 ギルド試験1~ダークマウス~

 場所:冒険者ギルド

 語り:シンソニー・バーフォールド

 *************



 僕はシンソニー・バーフォールド。


 この間まで、イニシス王国にある国立カタレア魔法学園で、魔導師を目指して勉強していた学生だよ。


 だけど気が付くと、僕はミラナにテイムされて、イニシス王国の隣国の、クラスタルにいた。あれからもう、二ヶ月くらいはたつのかな?


 クラスタルで魔物使いになる訓練をしていたミラナは、鳥になった僕にあれこれと調教してきた。


 ミラナに笛で命令されると、なかなかあらがえないんだよね。


 ミラナの師匠のナダンさんは、調教魔法って言ってたけど、たぶん闇属性の暗示系魔法の一種だと思う。


 だけど、久しぶりに会ったミラナは、前より少し大人になってて優しいし、いまも友達だよ。


 僕を飼ってるのにも、なにか理由があると思うんだ。僕が人間の姿になったときは、すごく喜んでくれてたからね。


 僕がある程度戦えるようになると、ミラナは僕を連れ、ここ、ベルガノンにやってきた。


 冒険者ギルドに入るのが目的なのかな。魔物捕獲用のケージが近くで買えるっていうのもあるのかもしれない。


 こっちに来てから、ミラナはさらにオルフェをテイムした。あれにはびっくりしたなぁ。


 オルフェがすごい強い魔獣になってたからさ。頭なんて三つもあって、火を吐いてきてさ。


 だけど、ミラナにテイムされると、オルフェは小さい子犬になってしまった。もしかすると僕も、最初は大きい魔獣だったのかな?


 よくわからないけど、とにかくいまは、冒険者ギルド試験だ。あんまりお金を持ってないはずのミラナが、奮発して二万ダールも払ってたからね。頑張らなきゃ!


 試験場という場所に行ってみると、そこは、円形の闘技場だった。そんなに大きくないけど、広場を囲むようにぐるっと観客席もある。


 今日の観客は十五人くらいだから席はスカスカだよ。


 そして、広場の中央には、大きめのビーストケージがひとつ置かれていた。


 これは捕獲した魔物を小さくして封印しておける魔道具だよ。なかから出てくる魔物の数や大きさは、出てこないとわからない。


 試験用に、ギルドの人が捕獲してきた魔物が入っているらしい。


 だけど、そこまで身構える必要はないかな?


 D級試験に出る魔物は、初級魔法を少し使える程度の魔物か、もしくは闇に当てられて、凶暴化した小動物らしいから。


 ミラナに連れられ広場に入ると、試験官のおじさんらしき人が、建物のなかから声をかけてきた。



「それではぁ、冒険者ギルドD級登録試験、はじめまぁす! 魔物を倒すか、戦意喪失させれば合格です! 準備はいいですかぁ?」


「あ、ちょっと待ってください。準備、まだですっ」


「ピピ!」



 慌てた様子で腰に下げていた笛を手に取って構えるミラナ。



「シンソニー解放レベル2」

――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――



 小鳥だった僕が魔導師の姿になって、少ない観客からざわめきが起こった。



「え? 小鳥が、人間に……?」



 試験官もすごく目を丸くしてるよ。鳩みたいな顔でちょっと面白いな。


 だけど普通、魔物使いの魔物は変身なんてしないから、びっくりするのは当然だよね。


 そもそも、魔物使い自体が、隣国クラスタルで最近できた新しい戦い方だから、ベルガノンの人達にとっては珍しいんだと思う。



「準備できました!」


「あっ、はい、では魔物を解放します! 用意、はじめっ」



 試験官のかけ声とともに、ケージから魔物たちが飛び出してきた。


 魔物化して凶暴になった、ネズミの魔獣が六匹だ。あれはダークマウスだね。前にも何度か戦ったことがあるよ。


 大きさは、ネズミっていうより猫って感じかな。黒ずんだ緑の体に、不気味な赤い目が光っていて、尻尾も異様に長いんだ。



「ヂューーーー!」



 ダークマウスは耳障りな鳴き声をあげながら、するどいキバをむき出しにして、一斉に飛びかかってきた。



「シンソニー防御だよ!」

――ピピピピピ―!――



 ミラナの笛の音で、僕は防御モードになる。



――大風よ吹き返せ!



 僕の風魔法リジェクトウィンドで、ジャンプしていたダークマウスたちが後方に吹き飛ばされ、背中を地面に打ち付けた。


 僕の魔法の杖はネースさんにもらったもので、ウイングワンドとよばれている。


 僕が魔法を使うのにあわせて、杖の先に付けられた羽根の飾りが、風の魔力でパタパタと動くんだ。


 本当は、いろいろと効果音も鳴るんだけど、恥ずかしいし気が散るから、音が鳴らないように音量を下げてるよ。



「ほら! 美味しいおやつだよ!」



 ミラナが腰に下げた袋から、今朝せっせと作っていた撒き餌を広場にまき散らした。



「ヂューーーー!?」



 起きあがったダークマウスたちは、一瞬だけ僕とミラナの方を見たけれど、くるっと方向を変え、必死になってエサを食べはじめた。


 僕たちに背中を向けて、完全に戦意を失っちゃったみたいだ。



――ミラナのエサ、美味しいんだよね……。なにか魔法もかかってるっぽいし、抗えないんだな……。



「これ、合格でいいですか? それとも、倒します?」


「あっ、そのままで大丈夫です。合格です!」


「おぉー! すごい威力だな、あのエサっ」


「小鳥が魔導師になるとは思わなかったよ」


「リジェクトウィンドは無詠唱だったぞ!?」



 試験官が慌てた様子で合格の札をあげると、観客席から、ザワザワと、驚きの声があがった。



*************

<後書き>


 冒険者ギルドのランク試験に挑むミラナとシンソニー。


 D級試験を難なくクリアした二人ですが、どうやらシンソニーは、ミラナの魔法がかかったエサで手懐けられており、笛の命令にも抗えないようです。


 そして、このシンソニーがかけられた防御モードには、とんでもない制約があるのでした。


 次回、第二十一話 ギルド試験2~二連戦~をお楽しみに!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る