015 理不尽な追放~残念でならないのだが~

 場所:国立カタレア魔法学園

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 俺たちがカタ学に入学してから一年半がたち、二年生も半ばに差しかかった。


 最初はただの田舎者だった俺たちだけど、そのころになると、カタ学でかなり目立つ存在になっていた。


 ミラナは座学の試験で学年一位を連発して注目を集め、その後自ら立候補して、高等部の生徒会長になった。


 彼女が立候補したときは、俺も慌てて副会長に立候補した。


 なぜなら、副会長は、生徒会室でべったりミラナとすごせる、おいしい役職だからだ。


 ほかのやつに譲ることはできない。


 ミラナは想像どおり、堂々のダントツ当選だった。美しくて優秀な憧れの生徒会長として、彼女はいまやときの人だ。


 で、お調子者の俺が副会長になれたのかだって?


 それが意外と、余裕でなれた。


 信じられないような話だけど、そのころの俺は女子たちに死ぬほどキャーキャー言われていたし、男たちからも一目置かれていたのだ。


 座学の成績学年十位以内をキープしつつ、魔法や剣術の授業で、目立ちに目立っていたのが原因のようだった。



「「オルフェ君! こっち向いてー! キャー! カッコいいー!」」



 黄色い歓声が飛び交い、俺はまるで、スターのようだ。



「ははは! きみたち、ついに俺のかっこよさに気づいてしまったようだな! 本当にもう、遅いぞ☆ 俺、一年前からカッコいいポーズで待機してたんだけどな? まったく、だれも気づいてくれねーから、腰がつるかと思ったぜ!」


「おぉう、みんな! おっまたせ~☆ 会いに来てくれてうれしいぜ☆ 俺がみんなの、生徒会副会長だぜ!」


「え? 俺の赤毛がステキだって? まぁ、俺、毎朝トマトジュース六杯は飲んでますんで」


「あ、ちょ、お触りはやめてくれよなっ。あ、だめ、そこ、敏感なんで、やめてっ」



 当然調子に乗った俺は、集まってきた女子相手に、くだらない冗談を言いまくった。


 ミラナに言ったら冷たい目で見られ、エニーやシンソニーでさえ、「はは」と乾いた笑いを漏らすやつだ。


 だけど、女子の反応は、まさかの「キャー!」だった。ついに、俺の時代が来てしまったようだ。


 そしてエニーの可愛さも、いつしか学校中に知れ渡っていた。


 いつのまにか親衛隊ができ、朝から学生寮の前に、エニーのファンがつめかける。



「みんな、おっまたせ~! 今日もニニに会いにきてくれて、ありがとう☆ うれしいょ♪ だけど迷惑になるから、明日からはみんなで話しあって、五人までにしてね☆」


「「了解! ニーニーちゃん!」」



 エニーはさすがに、慣れた対応だ。今気付いたやつもいるだろうけど、俺の女子たちへの対応は、一部エニーの指導によるものだ。


 そして、二年になって急に背が伸びたシンソニーもまた、すっかり王子様扱いされるようになっていた。


 中性的な顔立ちと、優しい性格が人気をよんでいるようだ。


 俺たちが並んで歩くと、あちこちから悲鳴とため息が聞こえてくる。花の四人組というわけだ。


 だけど、俺が必死に成績を維持しているのは、エリート騎士になり、ミラナと恋人になるためだ。


 キャーキャー言われたからと、浮つくことはできない。


 俺は群がる女子たちをなんとかまいて、いつものように、ミラナといちゃつくため、生徒会室に行くのだった。



      △



「ふぅ。今日もまた、こんなにラブレターをもらっちまったぜ。見てくれ、ミラナ。今週はもう二十五枚目だ。モテる男はつらいな」


「そうだね」


「反応うっす! なぁ、ミラナさんよぉ。しっかり捕まえとかねーと、このままじゃ、オルフェル君がほかの女の子に取られちまうぜ? いいのか? なぁ~、いいの?」



 俺は生徒会長のご立派なデスクに顎を乗せ、ミラナを下から覗き込んでいた。そうでもしないと、最近は彼女の顔が見られない。



「オルフェル、うるさいから、生徒会室までじゃましにこないで。部外者立ち入り禁止にするよ?」


「まって、ミラナさん! 俺、副会長だからぁっっ」


「そうだっけ」



 ちょっとくらいモテたところで、ミラナの俺への対応はいつもどおりだった。


 いや、前よりちょっと、厳しくなってるくらいかもしれない。


 生徒会長として、みなの前に立つ彼女は、凛々りりしくて、頼もしくて、なんだかすごく、余裕があるように見える。


 だけど実際の彼女は、いつだって眉間に皺を寄せ、書類と睨めっこなのだ。俺なんかかまっている余裕もないらしい。



「なぁ、ミラナさん。そんなにたいへんなら、なんか手伝わせてくれよ」


「えー、だって、オルフェルがやるとなんか雑なんだもん。あとで結局たいへんになるから」


「俺だってきっちりやるからさぁ」


「えー、いいよ。大丈夫」



 そんな彼女を、俺は笑わせたくて仕方がない。俺の手で彼女の眉間の皺を揉みほぐし、下がった口角を持ちあげてやりたい。


 だけど、俺のくだらない話や心遣いは、まったく彼女のお気に召さないようだ。



「へいへい。邪魔してすんませんでした」



 俺がいったん引こうと立ちあがったとき、不意にレンドル先生が生徒会室に入ってきた。


 いつも怖い顔で、魔王みたいなレンドル先生だけど、このときの先生は少し青い顔をしていた。



「ミラナ・レニーウェイン。残念な知らせだ」


「はい、な、なんでしょうか?」



 レンドル先生の低い声が震え、ミラナは慌てた顔で立ちあがった。そんな彼女を見た先生の表情に苦悶の色が浮かぶ。



「……きみは、優秀で、私も非常に期待をかけている生徒だった。だから、こんなことになって、本当に残念でならないのだがね……」


「は、はい……?」


「ミラナ・レニーウェイン。きみは、退学だ。荷物をまとめて、三日以内にオルンデニアを出なさい」


「はぁぁ!?」



 ミラナより先に、俺は大声をあげた。こんなに優秀で、いまだって、顔をあげる暇もないくらい頑張っている彼女だ。


 退学になる理由がまったくわからなかった。



「ど、どういうことですか?」



 後ろから、ミラナの怯えた声が響く。



「国王陛下からのお達しだ。闇属性魔導師は全員、オルンデニアから出ていけと。国の機関や学校に、所属させてはならないと……」


「あの、先生……。冗談は、言っていいのと悪いのがあると思うんっすけど……」



 我慢できず口を挟む俺。こんなのは、なにか悪い冗談だとしか思えなかった。だけど、レンドル先生は、無念そうに首を横に振る。



「冗談ではない……。あのイザゲルとかいう闇属性魔導師のせいだ。彼女は、イコロ村の出身だったらしいな。まったく、たいへんなことをしてくれたものだ。彼女はずっと、幻術で王妃様が回復しているように見せかけていたのだ。そして、昨晩、王妃様はご逝去せいきょされた」


「ま、まさか……。でも、そんなの、ミラナには関係ねーじゃねーっすか……」


「国王陛下は激しくご立腹だ。ミラナ・レニーウェイン、きみだけではない。王都中の闇属性魔導師たちが職を失い、都を追われるのだ」


「そんな……」



 あまりに急で、理不尽な宣告に、俺たちは、立ち尽くした。



*************

<後書き>


 二年生になったオルフェル君は、エリート騎士になるため、メキメキ成績をあげながら順調な学生生活を送っていました。


 しかし、そんなさなか、肝心のミラナが突然退学になってしまいます。


 原因は同郷の闇魔導師イザゲルが起こした、とんでもない事件でした。


「そんなのミラナには関係ない」と、憤るオルフェル君ですが……。


 次回、第一章第十六話 デモンクーズ~頭整理していい?~をお楽しみに!




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