035 ビーストケージ2~親子の店主~


 場所:リヴィーバリー

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 こんな高級そうなビーストケージを、ミラナはどうやって手に入れたのだろうか。


 俺のその疑問は、店主とミラナの会話で、そのあとすぐに解消された。



「ベルからたいへんなテイムだったと聞いているよ。無事に終わってよかったね」


「はい! ベルさんがいなかったら、とても無理でした。手伝ってもらえて本当によかったです。ケージまでプレゼントしてもらって……」


「いやいや、モルン山で暴れていた三頭犬には、ベルも頭を悩ませていたからな。きみが捕獲してくれて助かったはずだ」



――あ、俺、暴れてたの? ごめんなさい。



 てっきり封印されて眠っていたのかと思っていたら、俺は怪物姿で暴れていたらしい。


 それをミラナがベルという人の協力を得て沈静化し、この店主がつくったケージに捕らえたようだ。



――全然覚えがないけど、ご迷惑おかけしました。



 俺が冷や汗をかいていると、『元気出して』というようにシンソニーが俺の肩に手を乗せた。


 もしかするとシンソニーも双頭鳥の姿になって、どこかで暴れていたのかもしれない。


 あの巨体が理性を失い、暴れまわるところを想像すると、俺の冷や汗が止まらない。



「それで、今日はなにかご入用かな」


「いえ、今日は買い取りをお願いしたくて……」



 ミラナがそう言いかけたとき、店の奥からメージョーの店主が出てきた。


 今日はこの間の青いエプロン姿ではなく、ローズデメールの店主と同じ白衣姿だ。


 二人が親子だというのは確からしい。並んでいると顔が少し似ている気がする。



「あれ? メージョーさん。こんにちは!」


「あ、ミラナちゃん。今日はこっちにきてくれたんだね」


「今日はお休みですか?」


「いや、オルフェル君のトリガーブレードを修理しにきてるんだよ。この店、奥が研究室と工房になってるからね」


「なるほど! 修理よろしくお願いします!」


「よろしくっす!」



 俺が声をあげると、親子の店主が目を丸くした。同じ表情をするとますます似ている。



「「しゃべった」」


「うっす。しゃべれるっす」


「そういえば、シンソニー君も話せるもんね。でも、この間はキャンキャンって吠えてたから驚いちゃったよ」


「それは言わないでほしいっす。こう見えても俺、繊細なんで」


「ご、ごめん」



 メージョーの店主が気まずそうに頭を掻いている。


 俺はとりあえず、この間のことを謝罪しておかなくてはならないだろう。


 魔物になったばかりで気が立っていたのか、必要以上に吠えてしまった。



「俺のほうこそ、吠えてすんませんっす」


「え? いやいや。気にしないで」


「もらったクッションも気に入ってるっす。雲のうえみたいに夢見ごごちっす」


「それはよかったよ」



 ニコニコと優しい笑顔を見せてくれるメージョーの店主に、俺はホッと胸を撫でおろした。


 ミラナが嬉しそうに、俺の頭を撫でてくる。小さい子供にでもなった気分だ。


 俺がそんなことを考えていると、ミラナがカウンターの上に、バッグから魔石を取り出し並べはじめた。


 俺たちは五十匹ほどのゴブリンを倒したけど、取れた魔石は二十個だ。ほかは脆くて砕けたか、俺の炎で燃えてしまった。


 残った魔石もこの店で売るには少し粗悪な気がする。輝きが鈍いし、小さくていびつだ。



「これ、買い取りしてもらえるって、ギルドで聞いたんですけど……」



 ミラナもそんな気がしていたのか、少し遠慮がちなものいいだ。



「あ、魔石だね。僕のほうで買い取るよ」



 やはりローズデメールで買い取るには粗悪品だったらしく、親父さんが渋い顔をしていると、メージョーの店主が声をあげてくれた。



「ひとつ二千五百ダールで二十個だから五万ダール。どうかな?」


「お願いします! これでまた、ビーストケージに一歩近づきました」


 ニコニコしているミラナ。だけど五万ダール稼いで喜んでいるようでは、なかなか先が長そうな気がする。



「ビーストケージって、いったいいくらなんすか」



 俺が質問すると、親父さんが店のショーケースから、ミラナのものと同じビーストケージを取り出した。



「前に注文をもらってから、いくつか新しいのを作ったのだよ。出力調整できるビーストケージっていう発想が面白かったからね。これから先需要があがるかもしれんと思ってな」


「わぁー、すごい! お金が溜まったらすぐ買えるのはうれしいです」



 目を輝かせたミラナだったけど、俺はその値札を見て震えていた。



――ひとつ六百万ダールか……。武器に比べれば安いけど、本当に先が長いな。



 俺がげんなりしていると、親父さんがニコニコしながら値下げしてきた。



「まー、店にはこの値段でおいてるが、百万でいいよ。アイデア貰ってるから」


「ほ、ほんとですか!? 助かります!」


「驚異的な値引き率っすね! それでも高いっすけど!」


「そういうときは九十八万ダールにするんですよ」


「私はそんな変な値引きは嫌いだ」



 親子が二万ダールのことで妙な言い争いをはじめている。



「百万ダールたまったら買いに来ます! ほかにも買い取ってほしい魔導書と魔道具があるので、またメージョーさんのほうにも行かせてもらっていいですか?」


「あ、また封印された遺跡の魔導書があるの? うれしいな! 待ってるよ」


「トリガーブレードの修理が終わったころにお伺いしますね」



 ミラナは魔石を買い取ってもらい、メージョーさんに店先で手を振られて店を出た。


 それから俺たちは、新しいビーストケージを手に入れるため、がむしゃらにC級冒険者の依頼をこなしたのだった。



*************

<後書き>


 どうやらミラナは、モルン山に住むベルさんという人に、オルフェルたちのテイムを手伝ってもらい、ビーストケージもプレゼントしてもらったようです。


 自分が三頭犬の姿で暴れていたことを知り、冷や汗をかくオルフェル君でした。


 ビーストケージも値引きしてもらい、魔石も買い取ってもらって、ミラナはごきげんです。


 ローズデメールの店主さんは、「ターク様が心配です!」にも出てくるあのパパさんなのですが、老後の道楽モードに入ったのかゆるゆるです笑


 次回、第三十六話 封印の檻~そりゃカッコイイよなっ!~をお楽しみに!


 

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