018 魔玩具~俺のトリガーブレード~
場所:雑貨店メージョー
語り:オルフェル・セルティンガー
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ミラナは俺をクッションの上に寝かせると、背中に担いでいた細長い荷物をおろした。
「今日は、これを修理できるか聞きたくて……」
荷物は全体が布で巻かれていたけど、店主が座っていたテーブルの上に置くと、ゴトンと重量感のある音がした。
――あれって、もしかして……。
布を取りはずす様子を眺めていると、思ったとおり、なかから俺のトリガーブレードが出てきた。
ネースさんがカタ学合格の祝いに作ってくれた、赤いトリガーのついた剣だ。
だけど、トリガーブレードは驚くほど風化し、かなり茶色くなっている。いったいどこに置いておけば、あんなに錆びてしまうのだろうか。
「わぁ、またずいぶん
メージョーの店主が鞘から剣を抜く様子を、俺はワクワクしながら眺めていた。
俺のトリガーブレードは、鞘から抜くときに、少年心をくすぐる『ジャキーーン!』というかっこいい効果音が鳴るのだ。
――久々にあの音が聞ける!
期待して耳を澄ませていた俺だったけど、剣からはなにも音がしなかった。
「なんか、壊れてるみたいなんですよね。この剣、音が鳴ったり、赤く光ったりしてたんですけど」
「なんか、おもちゃみたいな剣だね。きみの笛も、ボタンを押すとシャボン玉が出るもんね」
「そうなんですよ。作ってくれた人の、遊び心がすごくて……。でも、オルフェルが気に入ってたので、できたら修理できないかと思いまして」
――ぐはぁ、俺のトリガーブレード、壊れたのかぁっ!?
錆びたこと以上に、音が出ないことにショックを受ける俺。
あの剣をネースさんから受け取ったときの感動は、いまも俺の心に鮮明に記憶されているというのに。
メージョーの店主は「ふーむ」と唸りながら、トリガーブレードを眺めている。
「ところで、このトリガーはなんなのかな?」
「それはたしか、剣先が光るんです。ブーンって音が鳴って、赤い光りが点滅してた気がします」
「え……? そう、なんだ……」
――なんだその微妙な反応っ。かっこいいじゃねーかよ!
店主の顔に、『絶対その機能いらんだろ。こんな大袈裟なトリガーつけて光るだけ?』みたいな表情が浮かんでいて、俺は不満に口を
だけど、あのトリガーをただの剣先が光るスイッチだと思ったら大間違いだ。
あのトリガーを引いた俺は、テンションが爆あがりする。そしてテンションがあがった俺は、恐ろしく強くなるのだ!
――まぁ、正確には、そんな気分になるだけだけどな……。
「んー、でもなんか、面白そうだね! わかった! 任せてよ。でも、見た目よりかなり高度な技術で作られてるみたいだからね、ちょっと時間かかると思うけど、いいかな?」
「わ、ありがとうございます。おいくらでしょうか?」
「前と同じで、十万ダールになります」
「助かります!」
ミラナは喜んで、トリガーブレードをメージョーの店主に渡した。
俺の剣を修理してくれるということは、やはり俺も、そのうち人間に戻れるということだろう。
――よかった。早く人間に戻してくんねーかな。
ミラナはそのままメージョーの店内を見て周り、いくつかの商品を手に取った。
鍋や食器などの調理器具に、箒やはたきなどの掃除道具、タオルや布巾、トレーなんかと一緒に、子犬用の皿を手に取るミラナ。
どうやら俺が、ミラナから手でドッグフードを差し出されることはもうないようだ。なぜだか少し、後悔している俺がいる。
――てか、なに屋なんだこの店は。
あらためて店内を見回してみても、やっぱりよくわからない。
ただ、武器や防具よりは、魔道具や生活雑貨が多いかもしれない。
この、明らかに一等地にある高級店の並びに出ているとは思えない店だ。
金の単位がよくわからないけど、ミラナの反応を見るに、よそよりかなり安いらしい。
代金を払ったミラナが、また俺を抱きあげる。
「このクッション、サービスしとくよ。オルフェル君にプレゼント」
「え? 本当ですか!? というか、商品だったんですね? ごめんなさい。ありがとうございます!」
「気にしないでいいよ」
店主はニコニコしながら俺が寝ていたクッションを袋に詰め、ミラナに渡した。またミラナの気を引こうとしているようだ。
――でもなかなか、座り心地がよかったぞ。もらっておくぜ!
「きゅーん」
店から出るミラナを、店主が店先まで見送って、商品を渡しながら丁寧に頭を下げている。
どう考えても、丁寧すぎる対応だ。やはり、ミラナに気があるのかもしれない。
だけど、俺はいま、またミラナの腕のなかだ。
――あ、ここ幸せすぎて俺、もう犬でいいかも。
沈静化の影響もあるのか、俺はすぐに、どうでもよくなってしまった。
*************
<後書き>
おもちゃ好きのネースさんがオルフェルのために作ってくれたトリガーブレードは、なんと、トリガーを引くと剣先が光るみたいです笑
お気に入りの剣を修理に出してもらい、自分も人間になれると確信したオルフェル君は、沈静化で動けないながらもご機嫌です。
次回、第十九話 冒険者ギルド~俺の餌代か?~をお楽しみに!
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