018 魔玩具~俺のトリガーブレード~

 場所:雑貨店メージョー

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 ミラナは俺をクッションの上に寝かせると、背中に担いでいた細長い荷物をおろした。



「今日は、これを修理できるか聞きたくて……」



 荷物は全体が布で巻かれていたけど、店主が座っていたテーブルの上に置くと、ゴトンと重量感のある音がした。



――あれって、もしかして……。



 布を取りはずす様子を眺めていると、思ったとおり、なかから俺のトリガーブレードが出てきた。


 ネースさんがカタ学合格の祝いに作ってくれた、赤いトリガーのついた剣だ。


 だけど、トリガーブレードは驚くほど風化し、かなり茶色くなっている。いったいどこに置いておけば、あんなに錆びてしまうのだろうか。



「わぁ、またずいぶんさやが錆びてるね。なかも錆びてるのかな」



 メージョーの店主が鞘から剣を抜く様子を、俺はワクワクしながら眺めていた。


 俺のトリガーブレードは、鞘から抜くときに、少年心をくすぐる『ジャキーーン!』というかっこいい効果音が鳴るのだ。



――久々にあの音が聞ける!



 期待して耳を澄ませていた俺だったけど、剣からはなにも音がしなかった。



「なんか、壊れてるみたいなんですよね。この剣、音が鳴ったり、赤く光ったりしてたんですけど」


「なんか、おもちゃみたいな剣だね。きみの笛も、ボタンを押すとシャボン玉が出るもんね」


「そうなんですよ。作ってくれた人の、遊び心がすごくて……。でも、オルフェルが気に入ってたので、できたら修理できないかと思いまして」



――ぐはぁ、俺のトリガーブレード、壊れたのかぁっ!?



 錆びたこと以上に、音が出ないことにショックを受ける俺。


 あの剣をネースさんから受け取ったときの感動は、いまも俺の心に鮮明に記憶されているというのに。


 メージョーの店主は「ふーむ」と唸りながら、トリガーブレードを眺めている。



「ところで、このトリガーはなんなのかな?」


「それはたしか、剣先が光るんです。ブーンって音が鳴って、赤い光りが点滅してた気がします」


「え……? そう、なんだ……」



――なんだその微妙な反応っ。かっこいいじゃねーかよ!



 店主の顔に、『絶対その機能いらんだろ。こんな大袈裟なトリガーつけて光るだけ?』みたいな表情が浮かんでいて、俺は不満に口をすぼめた。


 だけど、あのトリガーをただの剣先が光るスイッチだと思ったら大間違いだ。


 あのトリガーを引いた俺は、テンションが爆あがりする。そしてテンションがあがった俺は、恐ろしく強くなるのだ!



――まぁ、正確には、そんな気分になるだけだけどな……。



「んー、でもなんか、面白そうだね! わかった! 任せてよ。でも、見た目よりかなり高度な技術で作られてるみたいだからね、ちょっと時間かかると思うけど、いいかな?」


「わ、ありがとうございます。おいくらでしょうか?」


「前と同じで、十万ダールになります」


「助かります!」



 ミラナは喜んで、トリガーブレードをメージョーの店主に渡した。


 俺の剣を修理してくれるということは、やはり俺も、そのうち人間に戻れるということだろう。



――よかった。早く人間に戻してくんねーかな。



 ミラナはそのままメージョーの店内を見て周り、いくつかの商品を手に取った。


 鍋や食器などの調理器具に、箒やはたきなどの掃除道具、タオルや布巾、トレーなんかと一緒に、子犬用の皿を手に取るミラナ。


 どうやら俺が、ミラナから手でドッグフードを差し出されることはもうないようだ。なぜだか少し、後悔している俺がいる。



――てか、なに屋なんだこの店は。



 あらためて店内を見回してみても、やっぱりよくわからない。


 ただ、武器や防具よりは、魔道具や生活雑貨が多いかもしれない。


 この、明らかに一等地にある高級店の並びに出ているとは思えない店だ。


 金の単位がよくわからないけど、ミラナの反応を見るに、よそよりかなり安いらしい。


 代金を払ったミラナが、また俺を抱きあげる。



「このクッション、サービスしとくよ。オルフェル君にプレゼント」


「え? 本当ですか!? というか、商品だったんですね? ごめんなさい。ありがとうございます!」


「気にしないでいいよ」



 店主はニコニコしながら俺が寝ていたクッションを袋に詰め、ミラナに渡した。またミラナの気を引こうとしているようだ。



――でもなかなか、座り心地がよかったぞ。もらっておくぜ!

「きゅーん」



 店から出るミラナを、店主が店先まで見送って、商品を渡しながら丁寧に頭を下げている。


 どう考えても、丁寧すぎる対応だ。やはり、ミラナに気があるのかもしれない。


 だけど、俺はいま、またミラナの腕のなかだ。



――あ、ここ幸せすぎて俺、もう犬でいいかも。



 沈静化の影響もあるのか、俺はすぐに、どうでもよくなってしまった。



*************

<後書き>


 おもちゃ好きのネースさんがオルフェルのために作ってくれたトリガーブレードは、なんと、トリガーを引くと剣先が光るみたいです笑


 お気に入りの剣を修理に出してもらい、自分も人間になれると確信したオルフェル君は、沈静化で動けないながらもご機嫌です。


 次回、第十九話 冒険者ギルド~俺の餌代か?~をお楽しみに!



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