050 帰省準備~ウーロのお守り~

 場所:国立カタレア魔法学園

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 カタ学が長期休暇に入り、俺は学生寮の自分の部屋で、イコロ村に帰る準備をしていた。


 革のバッグに着替えや携帯用の食事などを詰めこみ、イコロ村の皆への土産も忘れずに押し込んだ。


 それは、オルンデニアで人気の、火で炙るとポンポンと音を立てて膨らむ、不思議な豆菓子、ポップンビーンズだった。


 ミラナがカタ学にいたころ、気に入ってよく食べていたものだ。



「ミラナ、喜ぶかな?」


「それ、好きだったよね。きっと喜ぶよ。早く会いたいね」


「あぁ。四ヶ月も会えないのははじめてだったからな。つらすぎたぜ」


「あはは。オルフェ、泣いてる? だけど本当に、きみは頑張ったよ!」



 シンソニーが力強く誉めてくれて、俺は自分のこの四ヶ月を走馬灯のように振り返った。


 学校行事のたび、鬼のようにふりかかる生徒会の仕事や、覚えることが多すぎる座学の授業。


 それから、女子たちにキラキラの瞳で見詰められながらの魔法訓練だって、俺は本当によく頑張った。


 ミラナがいないにも関わらず、毎日頑張りすぎて、なにも覚えてないくらいだ。



「ありがとう、シンソニー」


「あはは。オルフェ、最近冗談すら言わないんだよね。真面目すぎ」


「余裕ねーって」



 俺はバッグを背中に背負うと、勉強机のうえに置かれていた学生証を手に取り、シンソニーとともに部屋を出た。



「装備を引き換えてもらいにいこう」



 俺たちは、寮の管理人さんに預けている武器を返してもらうため、寮の入り口にある管理室を目指した。


 寮の廊下は、久しぶりに生家へ帰ろうとする学生たちが、慌ただしく動きまわり、ごった返している。


 だけど、俺とシンソニーが歩くと、皆が廊下の両脇に並び、道を開けてくれた。



「きゃっ! オル様だわっっ。お疲れ様です!」 


「はぁ〜ん、今日もカッコいいっ」


「きゃー! シン様よ! 私服もステキだわ!」



 いつのまにか俺たちのファンのなかには、俺とシンソニーを様付けするものまで現れていた。



――爽やかなシンソニーはわからなくもねーけど、俺、柄じゃねーんだよな……。



 いくらお調子者の俺でも、さすがにこれは、少しむず痒い。


 だけど女子たちは、ミラナがいなくなって以来、いくらか寡黙になってしまった俺が、謎めいていてカッコいいのだという。


 ここのところ、単に忙しすぎて、ふざける余裕がなかっただけなんだけど。


 あまりに寡黙に考え込んでいるせいか、俺がミラナに失恋したと勘違いする女子たちも現れている。


 本気を出して迫ってくる子が増えてしまい、対応がなかなかたいへんだ。


 たとえ、どんなに可愛い子が言い寄ってきたとしても、俺はミラナ一筋なのだ。



「みんな、ありがとう。しばらく会えねーけど元気でな!」


「「「いやん! さみしー!」」」


「あぁ。俺も寂しいぜ。魔物が増えてるから気をつけて帰れよ」


「きゃー!」


「土産買ってくならポップンビーンズがおすすめだぜ」


「きゃーん! 一緒にたべたーい!」



 なにを言っても「きゃー」がかえってくる状況に首を傾げながら、俺はみなに手を振り武器の返却の列に並んだ。


「お先にどうぞ!」と、みなが順番を譲ってくれるため、すぐに俺の番がくる。


 受付に座っている管理人のウーロさんは、いつもニコニコしている優しいおじいさんだ。だけど、その日は忙しくて、さすがに少し大変そうに見えた。



「ウーロさん、百八番の剣をお願いします。赤いトリガーのついた両手剣です」


「おぉ、生徒会長君。今日もすごい人気じゃのぉ。剣はこれであっとるかに?」


「あってるっす。あ、あってます。いろいろ尖ってるんで、ケガしないよう気をつけてください」



 生徒会長になってから、敬語の使い方をレンドル先生に注意されるようになった俺は、正しい敬語の練習中だった。


 言葉を正す俺に、ウーロさんが優しい笑顔を向けてくれる。



「大丈夫じゃよ。ほれ。お前こそきぃつけて帰るんじゃぞ。これは魔物よけのお守りじゃ。孫と一緒に生徒全員分作ったからに。好きな色をもっていくんじゃ」



 そう言ってウーロさんが見せてくれたお守りは、カラフルな糸で小さな魔物よけの魔石が編み込まれていた。



「わ、こんな凝ったものを生徒全員分作ったんっす……ですか?」


「そうじゃ、わしゃ、孫がぁ三十七人おるからに。みなで作ったんじゃ」


「すごっ……!」



 毎年、里帰りする生徒のなかに、新学期に姿を見せない生徒がいることを、ウーロさんは、気に病んでいるようだった。


 特にここ数ヶ月は急激に魔物が増えているらしい。生徒たちのなかには、里帰りを断念するものもいた。



「うれしいです。赤にします」



 装備と魔除けを受け取って、シンソニーの手続きが終わるのを待つ。


 シンソニーも自分の魔法の杖を受け取った。ネースさんが作った、動く羽根の飾りがついた、おしゃれな杖だ。


 風の魔力を高める魔道具が埋め込まれており、その威力はかなり強力だ。


 しかも、なんとこの杖には、強くふると鳩が飛び出すという、楽しい仕掛けがついているらしい。


 だけど残念なことに、俺はまだその鳩を見たことがなかった。


 なぜかシンソニーは、うっかり鳩を出さないように、ものすごく気を付けて扱っているのだ。


 ウーロさんから、杖を受け取るシンソニーを、俺は期待を込めて眺めていたけど、やっぱり鳩は出なかった。


 そして、彼は緑の魔除けを選んだようだ。俺と同じように、自分の髪の色にあわせたらしい。



「僕……、僕、かならず無事に戻ってきます! またね、ウーロさん!」



 大切そうに魔除けを握りしめ、涙を浮かべるシンソニーが可愛くて、思わずとしてしまう俺。


 周りを見ると、並んでいるほかの生徒たちや、ウーロさんまで、みんなシンソニーを見て、ホワホワと笑顔を浮かべていた。



*************

<後書き>


 カタ学の生徒会長としてかつてないほど頑張っていたオルフェル君。


 ミラナがいなくなってしまったことで、少し寡黙になってしまった彼は、ますます人気者になっていましたが、あいかわらずミラナ一筋です。


 ウーロさんに魔物よけのお守りをもらい、二人は寮を出ます。


 実はこの第五十話は、もともと第一話だったんです。最初は次話の「ドギュン」から始まるお話でした。ここから始まっていたら、オルフェルはもう少しカッコいい系のキャラになってたかも?笑


 次回、第五十一話 ドギュン~逃げ出した俺たち~をお楽しみに!


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