第48話 最終決戦

「くっ!」


 無数の漆黒が、光線となり王の手から放たれている。

 

「どうした。逃げるだけか?」


 ギリギリでかわし続ける俺をあざ笑う国王。

 何というか、もはや俺よりよっぽど魔王っぽい。


「ええい、ままよッ!」


 俺は炎熱魔法フレアを唱える。

 王の前方を起点とし、玉座の間にすさまじい爆炎が広がっていく。


 しかし王は、


「無能め」


 腕を一振りし、炎熱魔法フレアの幻影を振り払った。


「幻影は我に通じぬぞ」


「……てめえも『真眼しんがん』持ちか」


真眼しんがん』は幻影を見破れるスキルである。

 怖気ついてくれるという淡い期待に賭けてみたが叶わなかった。


「貴様、さしづめ創世の賢者にでも加護を貰ったのだろう?」


「な!?」


「安心しろ。魔族側にスパイがいる訳ではない。部下の報告から見当をつけたまでよ」


 王は雷撃魔法サンデルを落としながら語る。


「創世の賢者とは、王族にも伝わるこの国の黎明期に活躍した賢人。攻撃魔法を一切使えなかった代わりに、あらゆる補助魔法を駆使したという伝説のな。

 ――死後となった今も時折この世界に干渉してくると言うが……迷惑なものよ」


 言いながら剣を抜いてこちらへ迫る。

 俺は振るわれた王の大剣を防御魔法で防いだ。


「そこまで知られてちゃあ俺もおしまいかもなあ」


「だからとっととひざまずけと言っている」


 剣と防御魔法がつばぜり合いのように火花を散らす。


 パリン!


「ちっ!」


 先に砕けたのは俺の防壁だ。

 急いで後方に跳び敵の剣から逃れる。


「でも引けねえんだよなあ」


 これまで積み重ねてきた日々が脳裏によぎる。

 仲間の努力も仕事も、ここで水の泡になんてできっこない。


「ならばどうする? 貴様が今できるのはひれ伏すか、我を殺すかのどちらかしかない。大した魔力も無い貴様に後者はほぼ不可能だろうがな」


 ヤツは俺の力を見極めたでそう言っているのだろう。


 だとすればすべて


「さっき、俺には攻撃魔法が使えないと言ったよな?」


「ああ」

  

 俺はマントの下から杖を取り出す。


「この世界には魔道具っていう便利な道具があってだな?」


「――ッ!」


 その杖の先から青白い光を放つ。


 しかし光は王の長い白髪をかすめただけ。――不意打ちを避けるとはさすがだな。


「さすがに無策ではないらしい」


「自分の弱さは自覚してるんでね」


 非魔法使い用の魔道具『祝福されない者の杖ロッド・オブ・ザ・アンブレスド』。


 ネネから受け取った魔道具の一つであり、非魔法使いでも攻撃魔法が使えるという代物。


「まあ、この杖一本で使える魔法の回数は五回が限度なんだけどな」


 それ以上は使えない。

 五回魔法を使うと杖が粉々に壊れて灰になる。


「関係ない。貴様はそれでも弱い」


 スシャアアアア!!


 王が剣を振るうと、無数の氷刃が地面から突き出した。

 

「うわっ、えぐい!?」


 一つ、二つと避けて、三つ目は攻撃魔法で砕いた。


 しのいだかと思えば、


「うおっ、熱っつっ!」


 無数の火球に周囲を包囲され、身動きが取れない。


「――!」


 王に目をやると、ヤツの手から黒い稲妻が放たれようとしていた。

 防御魔法では防げないタイプの魔法だろう。


「くそが!」


 俺は『祝福されない者の杖ロッド・オブ・ザ・アンブレスド』で水魔法を放ち、周囲の炎を消火。移動可能なスペースに動き黒い稲妻を避ける。


「食らえっ!」


 切り返すように青白い光を放つ。高威力の雷撃魔法だ。


「効かん」


「なあっ!?」


 王は容易く剣でそれを受け流した。

 ――次で最後の一発か。


「貴様は魔族ではない。愚かな人間だ」


 指先から黒い光球をピストルの玉のようにして撃ちこんできた。


「いきさつは知らんが、前魔王を本当に倒したのか?

 ……あまりにも弱いな」


 逃げ回る俺の力を推し量る。


 


「ちょこまかとかわしおって」


「!」


 今度は無数の光の剣が俺を取り囲む。


「とどめだ」


 身動きができない俺に、王は黒い閃光を放った。


「――ほう」


 俺は爆発魔法でそれらを振り払う。

 回数制限となり、『祝福されない者の杖ロッド・オブ・ザ・アンブレスド』が灰になって手元から消えた。


「万策尽きたようだな」


「いや、まんまとハマってくれてありがとう」


「?」


 俺は懐から取り出したルーペ越しにヤツを見る。


「アンタももう、魔法は使えないはずだ」


「魔力探知か。小賢しい」


 魔道具、『残量ルーペ』。

 こいつを通して見ると、残り魔力が可視化される。


「しかし魔道具に頼るということは、貴様も同じなのだろう?」


「うっ……」


 察しがいいやつだ。

 本来、ルーペなんて使わなくても探知魔法を使えば相手の魔力残量は分かる。


「強化魔法と防御魔法の繰り返しで俺の魔力もすっからかんだよ。

 でも、これでお互いに五分五分だろ?」


「……やはり愚かだな」


 王は突然鎧を脱ぎ捨て、軽装となった。


「我はかつて前魔王とである」


「!」


 つまり総合力は前魔王より上――


「そんな奴に勝てるわけ――ぐはっ」


 王の強烈な蹴りがボディに入り、壁際に吹き飛ばされる俺。


「魔王ニト。最後にもう一度聞こう」


 壁際にへたり込む俺に王がかつかつと歩きながら迫る。


「我と手を組め。さすれば、かりそめでも平和な世界を簡単に作れるはずだ」


「……」


 俺の目の前で彼は回答を待つ。

 

「ははっ……断る」


 俺は笑顔でそう言った。


「……本当に残念だ」


 次の瞬間、最後の剣の一撃が放たれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る