第2話 エンドロールは流れない 

 はー、終わった。

 何が終わったかって?

 俺の異世界冒険譚が、だよ!


 ダリルの話を聞いた後、魔王らしき魔物を倒したって話をしたんだ。

 そんで、魔物の燃えカスをポケットから出したら、


『このおぞましい魔力の残り香は、ほぼ確実に魔王のものだろう』


 と、村長。


 つまるところ、これでこの世界は救われたってこと。


 俺の勇姿を描いた物語『転生したら最強でした。~美少女パーティで異世界チート~』はこれにてあっけなく終了。


 すごい魔法やら、美少女ヒロイン達とのチョメチョメシーンは一切なし。


 以下、エンドロール。


 出演者

 俺

 魔王

 村長

 ダリル


 ……俺、まだ名乗っても無いじゃん!

 名前分かってるの、村人のダリルだけ……って何コレ?

 そんな異世界モノがどこにあんだよちくしょー。


 でも、村長は優しい。


『魔王を倒した勇者を、村を上げてもてなしたい』


 彼はそう言うと、家の無い俺に空き部屋を貸してくれた。

 準備にはしばらくかかるからゆっくり休んでいけとのこと。


 ……よくよく考えると、そうだ。

 俺、魔王倒したんだ。

 ということは、アレだ。これからちやほやされるパターンじゃね?

 世界最強の勇者様、バンザイ!

 ――みたいな感じで国中から称賛される。


 ああ、やっぱり異世界サイコ―。


 せっかく異世界に来たのにワクワクできない、なんて悲観してたけど、本当のワクワクはこれから始まるんだ。

 そして、世界各地から選りすぐりの美女たちが、俺を楽しませてくれる日常が始まるのだ――。


 コンコン


 借り部屋の扉を叩くノック音で現実に引き戻される。

 お祝いの準備ができたのだろう。


「はいはーい!」


 そう言って俺が勢いよく扉を開けると。


「放てッ!」


 ごおおおおおおおおおん!!


 激しい熱と光、それから爆風。

 これまでに感じたことの無い衝撃を受けながら、俺の身体は後方にあるガラス窓を突き破り、家の外へふっとばされた。


「いったた……」


 ぐわんぐわんと視界が揺れる。

 二階の部屋から地上に叩きつけられたので、たぶん、けっこうな重症だ。

 今にも意識が飛んじゃいそう。


「ん、んん……?」


 頭部の右側、ちょうど右目のあたりに強い痛みを感じ、そこに触れると、柔らかい何かがぷちゅり、と手のひらに落ちた。


「あ、ああ……」


 ぼやけていた左目の視界だけが徐々にクリアになり、それがなんなのか明確になっていく。


「ああ、あ、あ、ああああああっ!?」


 手のひらの上にあったのは、俺の右目だった。


「ひひいいいいい! ひ、ひひ、治癒ヒール!」


 必死で自らに回復魔法を施す。

 手のひらにあった眼球は元の位置――俺の右目――に戻り、正常な視界を取り戻した。


 それはさておき、なんだよこの状況。

 まったく理解が追いつかない。


 呼吸が荒くなり、心臓は早鐘を打つ。

 全身から吹き出す汗が止まらない。


「あそこに居たぞ、取り囲め!」


 俺に向かって魔法をぶちまけてきたと思われるヤツらの声がする。

 とにかく、逃げなければ。

 混濁する思考をそのままに、俺は村近くの森の中へ走り出していた。

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