第1章 チュートリアル編

第1話 チュートリアル

「ん……んん……」


 視界が徐々にはっきりとしていく。


「ここは……?」


 立ち上がり、見回すと森の中らしい。


「えっ?」


 違和感を感じ、身にまとう衣服に目をやる。

 この中世ヨーロッパ風の服の感じ、これは。


「異世界……!?」


 まだ街並みを見ているわけではないから断言できない。

 が、この感覚はどう考えても異世界である。


 小さい頃から暇さえあれば読んでいた、ファンタジー小説の中の世界。


「あー、あー」


 改めて声を出したところ発声に違和感はない。

 身体は十八歳くらいの男性のもの。

 転生前とそう変わらない。


「……ああ、そうだ」


 ここに来る前のことをうっすらと思い出す。


 ぼんやりとした空間で、女神を自称する赤い髪の美しい女性と話したのだった。


 彼女は、


『この世界を救ってほしい』


 と言っていた。


 なぜ俺が選ばれたのか? と問うと、


『あなたは、どうやらこの世界に来たがっていたようでしたので』


 なんて言っていた。

 それが、俺を呼び寄せた理由である、と。


 ……特別な何かがあったわけではなさそうだ。

 それもそのはず、俺はただの高校三年生。

 しかもどちらかというとコミュ障気味の。


「……でも、この世界じゃそうはいかねぇ」


 素晴らしい能力を授けた、という説明を受けている。


「きっと大活躍できるはずだ」


 素晴らしい能力、すなわちチートスキルのことだ。

 早くそのスキルを試してみたい。


「魔物、魔物……あっ!」


 練習台の魔物を探していると、すぐに発見した。


 その魔物は、二本の角を頭に生やした老人のような姿をしていた。

 魔法使いのようなローブを身にまとっている。

 どことなく漂わせる禍々しい空気から、それなりの強さであることがうかがい知れた。


 されどただの住民に見えなくもない。

 敵意も無さそうだし……これ、攻撃して良いの?


「そこの者……我は魔物である……我を攻撃するがよい……」


 迷っていると突然、魔物は言葉を発した。


 チュートリアルみたいで親切だな――


 そう思った俺はその言葉に従うことに。


「よーし、やったるぜ!」


 右手を突き出し、詠唱を始める。


「火よ、熱よ。この世界を生み出した、大いなる原初の炎よ。その威光を示し、今一度我ら下々の者へ畏怖の念をお与えください。――炎熱魔法フレア!!」


 チートスキル『創世の賢者の加護』。

 女神曰く、これにより特定の魔法を除く大概の魔法を使うことが可能……らしい。


「ぐああああ!」


 魔物の身体が激しい光に包まれ、断末魔と同時に爆風が吹き荒れる。


 しばらくしてそれが収まると、魔物の消し炭だけが地面に残った。

 焼け焦げたような匂いが一帯に広がる。

 異世界初勝利の戦果として、ちょっとだけその燃えカスをポケットに入れた。


「よっ……しゃああああ!!!!」


 俺は天に向けてガッツポーズをした。


 もう弱い自分とは違う。


 強くて優しくて誰からも愛される自分になったんだ。


 そして……たくさん無双して、ちやほやされて、美女とイチャイチャできる人生が、この先に待っているんだ!!


 そうと決まればさっそく、魔王を倒す旅へ出よう。

 

 女神はこの世界を救ってほしいと言っていた。

 ならば、平和を脅かす魔王がいるはずだ。


 *


 まずは近くの村にて情報収集。魔王がどんな姿か聞いてみることにした。


 第一村人はっけーん! ……と、初老の男性にたずねる。


「はい、二本の角を頭に生やした老人の姿をしております」


 二本の角を頭に生やした老人……?

 はて、どこかで見たような。


「それ以外に何か特徴は?」

「魔法使いが着用するようなローブを身にまとっております」


 魔法使いが着用するようなローブ。


「それから?」

「どことなく禍々しい空気を漂わせています」


 嘘だ!


 さっき倒したヤツと特徴が一致し過ぎだろ。

 さっきのが魔王?

 だとしたら俺の冒険これで終わり?


 チートスキルで大活躍も、美女だらけのハーレムパーティも、ドラゴンに乗って空を飛ぶのも無し!?


 いやいやいや、絶望するのはまだ早い。


 まだ近似のモンスターだった可能性が残っている。

 特徴だって今上げたので全部ではない。


「他には――」

「村長! 大変です!」


 更に聞き出そうとすると慌ただしい足音が。

 駆け寄ってきたのは若い男性。


「何事だ、ダリル」

「そ、それが……」


 ダリルと呼ばれた彼は、しばし息を整えると。


「魔王城の結界が解けました。これは、事実上の魔王の死を意味します!」

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