チュートリアルで魔王を倒してしまった~代わりに魔王になって世界征服します。ただし、無双するのは俺以外~
こばなし
第0章 現世編
プロローグ
「きゃあああああ!!」
もうろうとする意識の中、脳内に女性の悲鳴が突き刺さる。
「なんだ、なんだ?」
「誰か、救急車!」
「男の人が倒れてるぞ?」
徐々に集まりつつある野次馬。
何にそんなに驚いているのだろう?
「大丈夫ですか!? ……ダメだ、反応がない」
「そんな、そんなあ!」
見知った顔がぼんやりとした視界に飛び込む。
最近仲良くなったバイト先の後輩の女の子だ。
「先輩、先輩……! こんなのっ……嫌だよ……」
ああ、そうだった。
俺は信号無視のトラックからこの子をかばって跳ねられたんだ……
「先輩、しっかりしてください!!」
悲痛な顔で俺を見つめる彼女。
……そんな顔をしないでおくれ。
君は、笑った顔が素敵だよ。
最後に好きな女の子を守ることができて良かった。
ああ、なんだか昔の記憶がフラッシュバックしていく。
これが、走馬灯ってやつか――
*
小さい頃から読書好き。
何を読んでたのかって?
小説だよ、しょ・う・せ・つ!
特にファンタジーの世界で主人公が大活躍するような、そんなお話が大好きだった。
学校からの帰り道で、読書しながら歩いて帰るくらいに。
「……いてっ」
そんな俺に、石を投げて来るクラスの連中。
「またエロ本読んでる!」
「二宮エロ次郎じゃん! きっしょー!」
ふん、二宮金次郎の時代にエロ本なんてねえよ!
……などと言い返せることも無く。
なんとか早歩きでやつらのちょっかいから逃げる。
根暗な俺はやんちゃなやつらにいじめられることもしょっちゅうで。
やり返す気力も力も無く、弱いままに少年時代を過ごしていった。
*
高校入学後、書店でバイトを始めた。
「今日から新しいアルバイトの子が来る。
面倒は……お前が見ろ」
「俺が、ですか!?」
高三になった頃。
唐突に店長から与えられた後輩指導の役割。
「……はぁ、後輩の指導とか、めんど……」
人とのコミュニケーションは苦手で、この書店だって人があまり来ないから選んだってのが大きい。
そんな俺に後輩の指導だと?
まったく、人を見る目が無い――
「……ん?」
と、脳内でぶつくさ文句を垂れていると、控室にふんわりとした風が吹く。
「あ、あの――ここで合ってます?」
扉を開けて中に入ってきたのは何とも可愛らしい女の子。
美少女と言っても過言ではない。
こんな子が、こんなうす暗い書店にいて良いのか?
良いはずがない!
「君、今日からのバイトの子?」
「え!? は、はい……」
自分だってバイトのくせに先輩風を吹かして言ってしまう。
「ここで働く俺が言うのもなんだけど……こんなとこで良いの?」
こんな美少女ならば、カフェとか、アパレルとかで働いた方が楽しそうだ。
それにその方がちやほやされそうだし、人気店員なんて呼ばれてお店の売上にも貢献できるのではないだろうか?
親切心からそう伝えたが――
「……ここだからいいんです」
彼女は控えめな声で言う。
「どうしてだい?」
「私、人とのコミュニケーションが苦手で」
お?
「ここで働く先輩にこう言ってはなんですが……あんまりここ、人来ませんし」
おお!?
「でも、本は好きなんです! だから新刊とかチェックしやすいし、バイト終わりに本を買って帰ったりとか」
「採用」
「……え?」
既に採用されたからここにいるんだが……という、彼女の視線によるツッコミは無視。
「気が合うね。僕も全く同じ理由でここを選んだんだよ」
「そうなんですか? それは……ふふっ。なんだか嬉しいです!」
彼女が控えめに笑うと、ふんわりとした笑顔がうす暗い控室の空気を明るくした……ような気がした。
*
それからというもの彼女とのバイトの日々は続く。
「先輩、この本入口の目に入るとこに置きません?」
「先輩! 今週の売上ランキング見ました!?」
「先輩~、ちょっとはお洒落とかしてみたらいいんじゃないですか? 素材は良いんだから」
そんな風に話しかけてくる彼女は、存外人好きがする性格らしい。
コミュ障気味な俺でも、こんな風に話かけられるのはやぶさかでは無かった。
「先輩……もし三十歳までに結婚できなかったら、貰ってあげます♡」
だなんて言われたこともあったなあ。
もうね、脈ありを疑わなかったよ。
*
そうして『会わせたい人がいる』と彼女に誘われた今日。
「なんだろう、顔合わせ的な?」
親に紹介したいとか、そういうイベントかな!?
うきうきわくわくする気持ちを押さえつつ、待ち合わせ場所で彼女を待っていた。
しばし待っていると、
「せんぱーい!」
手を振りながら横断歩道を駆けてくる彼女が。
「や――」
手を振り返そうとする俺。
「――!?」
そして……信号無視のトラック!?
「危ない!」
「きゃあ!?」
次の瞬間、俺の身体に強い衝撃が走る。
*
そうして今まさに、冷たいコンクリートの床の上で、俺の身体は息絶えようとしている。
「せんぱぁい、いやだ……嫌だよぉ……」
彼女の涙が俺の顔に落ちていく。
もうその涙の熱すら感じられない。
「おい、どうしたんだ!?」
そこに駆け寄ってくる、たくましい身体の青年。
なんだか後輩ちゃんとやたら親しそうだ。
お兄ちゃんかな?
「この人が先輩か?」
「うん。すごいお世話になってる人……」
青年は後輩ちゃんの肩を優しく支える。
ふふ……仲の良い兄妹なんだな。
「先輩、彼女がお世話になってます。
まだ、死んではいけません……!!」
ん?
「先輩、私、先輩に彼氏できたこと、伝えたくって……でも私が誘わなければ、先輩はこんなことに……うっ、うう……」
え?
「大丈夫だ。悪いのは君じゃない。大丈夫……先輩は助かるよ」
「そうだよね……助かるよね……うん、絶対……」
その様子を虚ろな目で見る俺は――
「がはあっ!!」
と、大量に吐血した。
彼女らのいちゃつきが俺に致死量のダメージを与えたらしい。
無論、『尊い!!』とかそういうのじゃない。
好きな子に彼氏がいたことに対してのショックである。
「えっ!? 先輩!?」
「口から血が!!」
「救急車はまだなの!? いや、先輩? せんぱあああああああい!!」
ああ、なんて日だ。
こんな最期なんてあんまりだよ。
……いや、逆に俺の人生としては集大成だったかもしれない。
典型的なラノベ主人公みたいな死に方だな……笑っちまうぜ……。
願わくは、来世で異世界に転生して、特別な最強スキルを与えられて、美少女たちとハーレムできる人生になったらいいなあ。
ふふ。そんな小説みたいな話、ある訳ないか――。
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