第4章 賢者の図書館編
第33話 賢者の図書館
「うわあ……」
広がる壮観にため息が漏れる。
上下左右、東西南北。
視界にあらん限りの、本、本、本。
「すごいでしょう? これが自慢の我が家っす!」
街で声をかけてきたベレー帽の少女。彼女に連れられ俺とラヴが立つのは。
「王国随一の図書館、
――図書館というよりも本の国である。
「ラヴ、見てみろよ。上なんて何階まであるか分かんねえ……って、おーい?」
呼びかけるも愕然として反応がない。
どうやら突然広がった景色に感動しているらしい。
「さっきの転移魔法といい、人間の技術や建造物には驚かされるわ……」
転移魔法。
ここに来る時にベレー帽の少女――ネネ・キュリオスの魔道具で行使された魔法である。
行ったことのある場所ならどこにでも転移できるとのことだったので、新魔王城へリンを置いてきた。ついでに皆の無事も確認できて一安心といったところ。
数週間ぶりにリンと再会したアルギルドの嬉しそうな顔ったら無かったな……。
「驚くのはまだ早いっすよ?」
にい、と白い歯を見せて自慢するネネ。
「魔導書、詩本、図鑑……更には漫画や小説、週刊誌まで、ここにはあらゆるジャンルの本や資料が存在してるっす!」
漫画!? この世界にもあるのか……!
「す、すげーな」
「はい。それから、ニトさんが好きそうなのもあるっすよ?」
にしし、と意味深に笑うベレー帽の少女。
まさか、あるのか? エッチなお姉さんが載っている本!
「でも、お隣のお姉さまが怖いので、読みたいときはおひとりで来るのがいいと思うっす」
「ひえ……」
下衆な話を展開しようとした俺を、冷めた目で見下ろす深紅の瞳。
なんか以前にも増して怖いんだが!?
「別にいいけど。……私の裸じゃ満足できないってことかしら……」
「ん?」
「何でも無いわ。さておき、あなた我が家って言ってたけど。ここに住んでるってこと?」
軽い自己紹介は聞いたが、俺たちは少女――ネネ・キュリオスについてまだよく知らない。
「そうっす。小さい頃家が焼けて、ここの館長をしてる祖父にお世話になってるっす」
「家が焼けた!?」
「そうなんすよ。私、記者やってるんですけど、ちょっと激しめな記事を書いたら家が燃やされました。てへへ!」
笑って話せる内容じゃねえ!
まあ恐らく、あまり空気が重くならないよう気をつかってくれているのだろう。
「んで、ここで住み込みさせてもらいながら記者もやってるんす。くわえて賢者の図書館には小さい頃から通ってるっすから、どこに何があるかは全部熟知してるっすよ」
「へえ。本が好きなのか?」
「そうっす! 色んな事を知ることができるっすから」
好奇心旺盛。
いかにも記者らしい特性だ。
「活発でありながらも博識。素敵ね。どんなことを知っているの?」
「そうっすね……」
言うやベレー帽の下、深緑の双眸が俺たちを注意深く見つめる。
「この国の黎明期のこと……たとえば魔族が忌み嫌われる理由や、創世の賢者について、とか」
「!」「へえ」
こいつ……。
訳知りな雰囲気に、俺とラヴの警戒心が高まる。
いかにも”俺たちが知りたい情報”について知っているかのような。
「あー、いやいや! すいませんっす!」
慌てたネネは敵意は無い、といった様子で両手をひらひらさせる。
「実は白銀の勇者さんと戦ってる時、聞いてたんすよね」
彼女はそういうと、オーバーオールのポケットから小型の球体を取り出した。
小さな手のひらの上にそれが浮遊する。
「飛行追尾型の魔道具っす。録音機能をつけた特別製っすよ。他にも――」
多様な魔道具を持っているらしく、あれこれと紹介してくれた。
「沢山あるんで分けてあげてもいいっす」
「つまるところ、交渉ってことか?」
「お察しの通りっす」
あっけらかんとした表情で、幼げな口元の口角を上げる。
「さて、そろそろ本題に入るっすよ」
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