第32話 彼の強さの根源は
時間はちょっと前にさかのぼる。
「俺が色男?」
リンたちがルルを足止めしている最中、ラヴの発言の真意を問うた。
「そう。モテ男ってことよ」
素直に言い切る魔王令嬢。
名誉のために言っておくが、決して仲間が命懸けで戦っているときに、隠れてイチャコラしていたわけではない。
「つまるところ、あの変態銀髪勇者は魔王……あなたしか見ていない。
私やリン、ギルド仲間がはばかろうとも、目標は絶対的にニトの首よ」
ラヴの言う通りだ。
ルルの話によれば、彼女は魔王を倒すことに異様なこだわりを持っていた。
「それから、ニトの攻撃魔法は通用しない……念のためもう一度試してみて?」
狙うのは私で良いわよ、とラヴ。
彼女へ向かって氷柱魔法を放つ。
氷柱はラヴの身体へ飛んで行ったが、ぶつかると氷の粒のようになって消えた。
「……驚いたわ、ぜんぜん痛くない」
エフェクトはあるのに攻撃判定にならないバグ……といった感じだろうか?
「あまりにもリアルで、感触すら錯覚しそうだけれど……
まるでダメージは無いわ」
やはり幻影なのだろうか。
「あなたは加護を貰って魔法が使えるようになったって言ってたわね」
「ああ」
女神からもらったチート能力『創世の賢者の加護』。
曰く、特定の魔法以外の大概の魔法が使える。
「創世の賢者……建国史に名前が出てくるわ。なんでも人を傷つける魔法を忌み嫌い、使用できなかったとか。加護は付与者の特性を引き継ぐから、同様に、ということは充分ありうる話よ」
「はぁ、そっかぁ……」
攻撃魔法と言えば異世界転生モノの華。
なのにそれが使えないなんてッ……泣
「まあ、いいよ。できることをしよう」
今はできないことを嘆くより、この状況をどう切り抜けるかだ。
「攻撃魔法は通じなくとも、ニトには立派な魔法が使えるでしょ? ……私を喜ばせてくれるような」
「あ……」
なるほど。
ラヴの言わんとしていることが見えた。
「
「そう!」
俺そっくりの自立式人形を作れば
「それでそのまま、俺の人形ごと迷いの森へ誘導してやれば……」
「出口のない森の中で、半永久的にニトの分身と戦い続けることになるわね」
封印魔法みたいな便利な代物が仕えない中、それが次善策。
「迷いの森が本当に出られない森なのか検証しようもないが……やってみるしかねえな」
意を決し、俺は自らの
*
数分後。
「何よこれ! ぜんっぜん似てないじゃない!」
激怒するラヴ。
「私の身体はあんなところからこんなところまで忠実に再現出来ていたのに」
魔王令嬢は俺の
モデル本人の目の前で、
「やり直し」
「は、はい……」
その後、「ここはもっとこう」「そこはそうじゃない」といった、かなり細かい修正指示を受けながらも俺の土人形が完成。
「……なんかかっこ悪くね?」
「何言ってるの。すっごくかっこいいわよ! ……あ」
言うや顔を赤らめるラヴ姉さん。
「に、
必死の言い分を聞きながら俺は感慨深いものを覚えた。
これぞツンデレ……。
今まで恥ずかしげもなく全裸で交尾を迫ってきた色物ヒロインも、ついにここまで成長してくれたか……!
「ねえ、バカニト? これ、まだ動かなくない?」
感慨にふける俺はそっちのけで、俺の
「まだ魔力と魂を吹き込んでないからな……っと」
すぐさま魔力を吹き込む。それから、魂も。
「……」
儀式を終えると、俺の分身は意志を持つかのように歩きだした。
「私が監修しただけあって、素晴らしい出来栄えね。でも、アイツと戦うには覇気とか戦闘力とか足りなくない?」
「ああ、確かに。このままじゃ頼りねえなあ……」
「あっ、そうよ! ニトの人形のことだから、ちょっとエッチな目標を設定してあげたら強くなるんじゃない!?」
「俺には別にエッチなご褒美で戦闘力が上がる設定なんて無いが?」
どこのエロラノベ主人公だよ!
必然的にそういうことができるのは、ちょっとだけうらやましいけどさ。
「ものは試しでやってみましょうよ……ニトの分身さん?」
ラヴに反応し、俺の姿の
「ルルを引き止めてくれたら、私の身体を好きにしていいわよ」
はいはい、そういう欲望になびく俺では――
「……!!」
めちゃくちゃ生き生きした顔になりやがった……。
「ふふ、イイ子ね。じゃ、これは前払いよ……ちゅっ♡」
ラヴは俺の
何、今の可愛いチュウ!?
ふん、お前なんか一瞬だろ? 俺なんか
「うおっ!?」
すごい勢いで魔力と魂を持っていかれるのを感じた。
「えっ、本当に強くなっちゃった!?」
マジで強くなってしまったらしい俺の分身体は、強烈な赤黒いオーラを発し、颯爽とリンの前へ躍り出ていった。
おかげで俺の魔力と魂は総量の四分の一ほどに減って枯渇状態だがな……。
**
「ってなからくりなわけよ」
翌日の朝、街の片づけを手伝いながらリンに語る。
「……つまりニト様はエッチなご褒美があれば無制限に強くなれると」
「すまん、そういう話がしたかったわけじゃないんだが」
しかし今の俺の話を要約するとそういうことになってしまう。
俺の『そういうところ』だけがあの
「では、ラヴ様には恋人としてお身体を張って頂かないといけませんね?」
にやにやとこちらを見るリン。
からかうような目つきにくすぐったい気分になる。
「いや、まだ恋人ってわけじゃ」
「え? 恋人じゃないのに裸にさせて同じベッドで寝させているのですか!?」
なんで知ってんだー!
しかも俺がそうさせてるみたいになってるんだけど!?
「あ、でもまだということは、これからそういうご予定があるということなのですね!?」
「恋バナをしてたわけでもないんだがな……」
両手で頬を挟み、むふふとした表情を浮かべる赤髪の少女。
この状態のリンに何を言っても強制的に恋愛話に変換されてしまうので諦めた。
「ニト、リン。街の人がお昼ご飯を作ってくれるらしいわ」
ウワサをすれば何とやら。
豪然たる魔王令嬢が声をかけてきた。
ラヴもリンも、今は正体を隠してはいない。
街の人たちは俺たちに感謝こそすれど、怨みや憎しみといった感情は無いらしい。
経緯を色々と話したところ、
「今まで魔族を敬遠していたよ」
「良く知ろうともせずに差別していた」
と、驚くほどに考えを改めてくれた。この街での彼女らの活動を見てくれていたからだろう。
「良かったわ。やれば変わるものなのね」
「ああ。まあ、色々と予想外の展開ではあったがな……」
迷いの森へ向かった俺の
周囲から魔力を自動供給できるようにしているので、ルルの気が済まない限りは延々と戦い続けるだろう。
あの変態勇者のおかげで魔族のイメージアップができたとも言えるなあ。
そんな具合に感慨にふけっていると。
「あの、お兄さん!」
聞き慣れない声。
愛嬌のある、はつらつとした声だ。
「アナタが新しい魔王ってマジっすか?」
その問いかけに、身体をやや強張らせつつ振り向くと。
白シャツにオーバーオール。頭にはベレー帽。栗色のポニーテールをぴょこぴょこと揺らす小柄な少女が、マイクのようなものを俺に向けていた。
「私のインタビューを受けて欲しいっす!」
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