第34話 【緊急取材】新しい魔王の正体とは!?年齢は?恋人は?調べてみた!
通されたのは来客用の応接間。
ここも四方を囲む本棚に本がぎっしりだ。
机の前のソファに腰かけた俺たちに、紅茶を出しながらネネが。
「単刀直入に言うっす。新しい魔王について詳しく教えて欲しいっす」
本題。
つまり、インタビューのこと。
「一応渡しておくっすね」
「……頂戴いたします」
対面に腰かけたネネから名刺が差し出される。
学校の授業で習ったビジネスマナーを思い出し、丁重に受け取った。
名刺には『フリーライター ネネ・キュリオス』と書かれてある。
「改めてっすけど、私は記者っす」
「ああ」
「何としても特ダネが欲しいんすよ、大金ががっぽがっぽ入るような」
そういうと小さな手の指でお金のジェスチャーをした。
「そんなにお金が欲しそうには見えないけれど?」
ラヴが問うと、ベレー帽の少女はてへへ、と頭を掻く。
「稼いではいるんすけど、それをほとんど情報や魔道具に費やしてしまうので、いつもすっからかんなんすよね」
「なるほどなあ」
好奇心旺盛な彼女らしい。
つーかこれだけの本が身近にあってもまだ足りねーのか……。
「まあ、君の言いたいことは分かった。
要するに面白い記事を書いて売りたい、と」
「そういうことっす」
うむ、しかし売れる記事というのは――
「だとすれば、私たち魔族の立ち位置が不利になる記事を書くということ?」
口を開いたのはラヴ。
「売れる記事、すなわち王国が販売を認め、多くの人の支持を稼げる記事よね?」
大多数の人が支持する、それすなわち。
「いまだ魔族を敵視する人の方が多い現状、売れる記事ならそういう方向性で書くしかないんじゃないかしら?」
そう。気になっているところはそこだ。
魔族が嫌われる要因になると俺たち魔族サイドは困る。
「あとは、そうだな。金欠で困ってるならゴシップネタを取り扱った方が身になるんじゃないか? 王族のゴシップとか」
「いやいや、それこそもみ消されるっすよ。王族のゴシップ書くくらいなら新しい魔王のゴシップ書くっす」
「……例えば?」
「身長、体重、年齢、恋人の有無とか。『【緊急取材!】新しい魔王の正体とは!? 年齢は? 恋人は? 調べてみた!』みたいなタイトルで」
ネットでよく見る釣りタイトルかよ!
「身長は一七〇センチ、体重はゴブリン四体分、年齢は十八歳。好きな食べ物は断崖ひつじの丸焼き。三度の飯よりエロが好き……新しい魔王の正体、こんなもんかしらね」
「最後のは違っていて欲しいんだが」
つーか身長も体重も年齢も教えてないのに詳しすぎるんだよなあ、この変態魔族。
「恋人は……どうなのか知らないけれど、毎晩女を部屋に呼び、全裸で添い寝させるという性癖があるらしいわ」
「いやいやいや!?」
呼んでないし、勝手に添い寝するのも全裸になるのもあなたですからね?
「ふむ、性豪、と」
「メモすんな」
閑話休題。
「でもさ、魔王に直接交渉しに来るって危険すぎないか?」
よくよく考えればそうなのだ。
売れる記事を書くくらいなら、でっち上げでも何でもして、魔族の悪行に関する記事を書けばそれでよいはず。
「もしも俺たちが、人間の大多数が考える通りの大悪党ならどうするつもりだったんだよ」
金のためにしても命懸けすぎると思う。
「確かにそうかもっす。でも――」
深緑の瞳が力強く光り、語調を強めてネネが言う。
「真実は、違う」
それはまるで、俺たちが何者か、どのような意志を持って行動しているのか、全て見透かしたかのような瞳。
「私、実は前魔王とも面識があるっすよ」
「!」
なんと……。
「彼に直接会ってるから分かるっす。魔族に敵対の意思はない」
そうか、この子は既に。
「『魔王特需』の裏側を知っているのね?」
「はいっす」
数少ない知る側の人間ということか。
「本音を言うっす。私、真実を伝えたいんすよ」
膝に置かれた拳が強く握られる。
「お金なんて本当は要らない。むしろ、払ってでも本当のことを伝えたい」
「……そこまでするのは、どうしてかしら?」
「それが、私の存在意義だからっす」
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