第16話 最終戦

「さあ、新魔王と魔族の『殺し合い手合わせ』も大詰め。いよいよ最終戦です」


 いつの間にか観客席に設置された解説席からアナウンスがかかる。


「実況は私、ライラックがお送りします」


 誰かと思えば一試合目の相手だったライラックじゃねーか。

 もう回復したんだな。


 ……そうだ。実況がつくのなら、解説もつくのだろうか?


「解説はこの方、前魔王の御令嬢、ラヴ・ドラゴハート様です」

「よろしく頼むわ」


 お前かよ!


「さて、ユニークな戦い方で勝利を収めてきたニト・ドラゴハートですが、いかが見られますか?」

「そうね。戦闘慣れしていない感は否めないものの、突飛な発想を織り交ぜていて面白いと思う」


 おお、ちゃんと真面目に解説してくれてる。


「ただ、次の相手は魔族で私の次に強い男。どう戦うのか見ものね」


 ラヴの次に強い――

 聞いただけで冷や汗が出てくる。


 改めて最終戦の相手アルギルドを見つめると。


「全力で行かせてもらうぞ……」


 うわあ、めっちゃ黒いオーラ出してるんだが!?

 なにこれラスボス?


 ……普通に考えて今の俺では勝てなさそうだ。


 しかしこの戦い、俺は絶対に負けない。

 そのための秘策ならちゃんと用意している。


「それでは、最終戦を始めます。両者、準備はよろしいでしょうか?」


「ああ」

「うむ」


 闘技場の中央、審判の確認に俺とアルギルドが同時にうなずく。


「頑張れー、新魔王様!」

「次はどんなせこい手で勝つんだ!?」


 観客席から上がる声援。

 俺への応援も増えている……応援、だよな?


「それでは最終戦――はじめっ!」


 審判の合図と同時に、アルギルドが敵意むき出しで迫ってきた――が、それをひらりとかわして背後に回り込む。


 が、


「読んでいるぞ」


 振り向きながらの回転蹴りが俺の腹を穿つ。


「がはあッ!?」


 例のごとく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられると土埃が舞い上がる。


「ふん……これで前魔王を倒した? 大ぼら吹きにもほどがある」


 土埃の向こう、アルギルドは呆れた顔をしているのだろう。しかし俺の作戦はこれからだ。


 準備ができた俺は、風魔法で土埃を吹き飛ばす。


「なッ!?」


 そしてアルギルドの目に浮かぶのは焦燥。


「な……ぜだ?」


 俺の右手側に、親子げんか中の彼の娘――リンの姿があったからだ。


「お父さん、怖い……助けて!」

「リン! 今助け――」

「おっと動くな」


 リンの肩を強く掴む。


「い……痛いっ!」


 少女の悲鳴が漏れる。


「リン!!」

「動いたら、この娘の命はない」

「くそっ、どうすれば……」


 頭を抱えるアルギルド。


「負けを認めれば娘を離してやる」

「汚い真似を……こんなの、反則だろ」

「人質をとって降参を促してはいけない、というルールがあったか?」


 俺の発言に黙り込むアルギルド。

 言うまでも無く、そんなルールはないからだ。


「……降参だ」


「二言は無いな? やっぱナシとか言わないよな?」


「降参する。この通りだ……頼むから娘には手を出さないでくれ」


 アルギルドは頼んでもいないのに、土下座までして負けを認めた。


「なんだなんだなんだ!? いったい何が起こっているんだ~!?」


 実況のライラックがハイテンションで驚く。


「なんで!?」

「あのプライドの塊のアルギルドに土下座させるだと!?」


 観客たちもざわめきたつ。


「審判、ジャッジを」

「は、はい……アルギルドが降参を認めたため、勝者……ニト・ドラゴハート!!」


「「「うおおおおおおお!!!!」」」


 一層の歓声に湧き上がる会場。


「なんか分かんないけどすげえ!」

「どうなってんだ~!?」

「誰か解説頼む!」


 そう、観客たちは一体何が起こっているか分かるはずもない。


「……?」


 魔族たちの不自然な反応に、やっと顔を上げるアルギルド。


「すまん、アルギルド」


 こちらを見た彼は目を点にした。

 先ほどまで俺の傍らにいたリンの姿が見当たらないからだ。


「む、娘は……?」


「私はここ!」


 リンの声にアルギルドが振り向いた先は――観客席。


「は? なぜそこに……?」


 状況を掴めていないアルギルドに近づき、小声で伝える。


「幻影魔法だよ。気分を悪くさせてすまなかったな」


 手のひらの上に、リンの姿を現わしたり消したりしながらネタ晴らし。


「お前と、リンにしか見えていない」

「なんだ、と……」

「二言は無い、と言ったよな?」

「貴様……」


 ひ、ひええええええ~!


 今にも殴りかかってきそうな、鬼気迫る表情でにらまれてるんですけど~!?


 やばい、このままじゃ美少女ハーレムの夢が叶わないまま死んでしまう――


「くそっ」


 かと思えば、彼は吐き捨てるように言って背を向ける。


 どうやら結果を甘んじて受け入れてくれたらしい。


 は~、良かった~。

 マジでまともにやったら勝てなさそうだったからなあ。


「あ、ああ、あ~」


 マヌケな声と同時にきい~ん、とハウリング音。

 マイク? いや、音魔法の応用か。


「それではセレモニーに移行します!」


 続いて響いたのはライラックの声。

 魔王認定の儀式的なヤツをやるのかな?


「みなさん準備を……ん? なんか、揺れてね~?」


 彼の言葉とほぼ同時、


「きゃあ!」

「なんだなんだ!?」

「揺れてる!!」


 魔族の拠点を襲ったのは大きな揺れ。

 壁は崩れ出し、天井から土やら岩やらがどかどかと落ちて来る。


「おい、あれ見ろ!」


 一人の魔族が指さした先、空を見上げると、


 ガアアアアアアア!!


 耳をつんざくような咆哮。


「嘘だろ……」


 天井に開いた穴から俺たちを見降ろしていたのは、外にいたはずの無数の召喚獣たちだった。

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