第15話 魔法の心得・真

 治癒ヒールで回復し立ち上がった俺は相手を見据え戦闘態勢をとる。


「ガリウス……お陰で目が覚めたよ」


「本気の目になったな」

「ああ。もう容赦しない」


 再び走力強化魔法ゲイルでスピードを底上げし、長距離射程ロングレンジを保つ。


「さっきと変わりないように見えるが?」


 無数の電撃魔法サンデルを先ほど同様にかわし続ける。


 変わるのは――ここからだッ!!


「大地の聖霊よ。幼子のたわむれに、お付き合いを――泥団子魔法マッドボール


 詠唱と同時に、右手に泥団子が生成された。

 先ほどの槍とは打って変わってまん丸の。


「できた。特製魔球、ニトスペシャル」


「……何だ? こんな状況で泥遊びか?」


 不可解な俺の行動に疑問符を浮かべつつも、電撃魔法サンデルによる攻撃をやめないガリウス。


「これが俺の……本気!」


 攻撃の隙を突き、泥団子を思いっきり投げつける。

 強化魔法による豪速球。メジャーリーグも夢じゃない!


「先ほどより速いが――かわすまでもない」

 

 ガリウスは素手で泥団子を払った。

 無惨にもはじける泥団子だが、


「なっ!?」


 同時にガリウスの前に大量の黒い砂が舞う。


「どうよ、特製魔球ニトスペシャル」


 泥団子の中に砂を混ぜていたのだ。


「魔王を名乗るくせに小賢しい!」


 目くらまし効果は充分のようで、ガリウスは目に砂が入らないようにまぶたを閉じている。


「だが、剣が通らねば意味は無いだろう? ――硬化魔法スチール


 ガリウスの肌が黒く変色する。黒鉄のようにつやを放って。

 

 その場で直立しているところを見るに、硬化中は動けないらしい。

 まぶたを閉じたままの硬化で恐らく視界も塞がれている。


「……リミットは砂埃が収まるまで、ね」


 それくらいの猶予があれば充分。


 ガリウスが硬化している間、俺はじっくりとそれを創り上げていく。

 音も立てず、何の声も発しないまま。


 そして十数秒後。


「もう目を開けてもいいんじゃないか?」


「……!!」


 俺の言葉が聞こえたらしく、硬化を解いたガリウスは視界に映った光景に呆れる。


「……そう来たか」


 今、彼の周囲は鉄格子で覆われていた。


 俺が作ったのは鋼鉄の檻。土魔法の応用である。

 無論、身体が通るほどの隙間は無い。


「風魔法で砂を払うべきだったな。

 出してあげてもいいぜ? 降参してくれるなら」


 *


「時間制限につき、勝者、ニト・ドラゴハート!」


「「「うおおおおおお!!」」」


「どもー」


 沸き立つ歓声に手を振って応える。


 あの後、すぐにガリウスが降参してくれると思ったが、最後まで出れそうな方法を試し続けたものだから驚いた。


 結局そのまま時間制限で俺の勝利となったが――彼の姿勢は見習いたい。


「次で最終戦となります。それまで十分間の休憩となります」


 審判の言葉で会場がリラックスムードになる。

 特に疲れてないので、相手の視察でもしておこうかな。


「もし、ニト殿。先ほどは手合わせ頂き感謝する」


 歩き出そうとしたところ、ガリウスが礼儀正しく話しかけてきた。


「なぜあのような戦法を思いついたのだ?」

「ああ、あれなんだが――」


 俺はガリウスに戦闘中のことを話した。


 蹴り飛ばされたとき、俺は魔法の心得について考え直した。

 ――魔法は、目的と用途をはっきり分かっていることで威力が増す。


 俺の目的は『誰もが自由に生きる世界の創造』。


 だとすれば、誰かを殺すために魔法を使おうとしても、魔法の精度は上がらない。

 人を生かし、あくまでもその場を切り抜けて先へ進むための魔法でなければ。


「――それで、あんな戦い方になったんだ」

「なるほど。やはり、常人では思いつかないようなことを考えられるのだな」


 ふむ、とガリウスは顎に手をやる。


「その調子で最後の相手――アルギルドにも勝利するところを見せて欲しいものだ」


 健闘を祈る、と言い残し、ガリウスは去った。


 *


 相手方の待機所近くへ足を運ぶと、最後の相手――アルギルドがそこにいた。

 傍らにはここに来た時に挨拶してくれた魔族の少女、リンの姿が。


「ニト様、めっちゃかっこよかったなあ」

「……なんだと? お前、あんな男が好きなのか。しかも人間の」

「いや、そういうんじゃないんだけど? なんですぐそういう方向に考えるの?」


 やはりあの二人は近しい仲の様子。

 ちょっと込み入ってる感じだから、遠目に眺めておこう。


「娘がどんな男を好きなのか気になるものなんだよ」


 娘?


「干渉してくる父親とか、マジでキモイんだけど」


 父親?


「親に向かってキモイとは! 小さい頃はお父さんと結婚するとうるさかったくせに……」


「は? バカじゃないの? そんな小さな頃のこと、今も覚えてるわけ? ……もういい。せいぜいニト様よりかっこいいとこ見せてよね」


 そう言い残してリンはアルギルドの元をすたすたと歩き去る。


 ……絶賛親子げんか中というところか。

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