第14話 魔法の心得

「が……ふッ……」


 口から赤い液体が吹き出る。内臓が逝ったっぽい。

 視界が赤く染まるのは、頭部からの流血のせいだろう。


「す、すまん、大丈夫か……!?」


 対戦相手のライラックすら俺の心配をしている。

 やはり魔族は優しいらしい。


「大丈夫だ」


 回復魔法を自らに施しながら立ち上がる。

 どうやら次の試合から本当に殺す気で行かないと、やばそうだな。


「それより、ライラック。お前の方こそ大丈夫か?」

「は? 何言ってん……だっ……て、あ……れ……?」


 対戦相手ライラックから徐々に威勢が失われていく。

 ふらり、ふらりとおぼつかない足取りとなる。

 終いには地面に膝をつき、両手をつき、


「ど……うな……って……」


 ばたり、と横たわった。

 審判が駆け寄り、試合続行の意志があるか確認する。


「う……ごけ……ねえ……無……理……だ」

 

 戦う意志の無いことを確認すると、審判の声が上がった。


「――ライラック、戦闘不能のため、勝者、ニト・ドラゴハート!」


 瞬間、観客たちが沸き立つ。


「今のどうやったの!?」

「すごい、何も見えなかった」

「ふっとばされる瞬間、刃物でライラックの身体を斬りつけたように見えたが」


 目のいいヤツが居たらしい。


 そいつの言う通り。俺はライラックが懐に飛び込んできた瞬間、ラヴからもらった『しびれ竜の短剣』で相手の身体を斬りつけた。


 かすめただけだが、短剣に施された『しびれ竜の加護』は充分に効果を発揮してくれたらしい。

 しばらくは麻痺して動けないだろう。

 よほど限られた場面でないと役に立たないと思っていたが、この短剣、案外役に立つのかもしれない。


 ただ、他の魔族にも手の内を見せたため、次はこう簡単にはいかないだろう。


 *


 5分程度の休憩をはさみ、二戦目が始まる。

 次の相手は白い長髪の男性。

 一戦目のライラックとは違い、落ち着いた大人の雰囲気だ。


「ガリウスだ。よろしく頼む、ニト殿」

「ああ、こちらこそ」


 ガリウスは挨拶こそ静かだが、今にも飲み込まれそうな圧倒的オーラを放っている。


「それでは、二戦目はじめ!」


 審判の合図と同時にガリウスは俺から距離をとった。

 先ほどの試合で俺が使った、『しびれ竜の短剣』を警戒しているのだろう。

 こうなると近接攻撃はしてこなさそうだ。


 至近距離射程クロスレンジではなく長距離射程ロングレンジでの魔法の撃ち合いとなる可能性が高い。


 いずれにせよ、まずは軟弱な俺の身体能力を何とかする必要がある。


「風の聖霊よ。疾風のごとき脚を与えたまえ――走力強化魔法ゲイル!」


 身体強化魔法でバフをかける。

 魔法以外はからっきしなら……補って余りある長所で、短所を補えばいい!


 ガリウスが手指をピストルのようにし、俺に向ける。


電撃魔法サンデル


 唱えたとたん、電撃が飛んでくる。

 一撃、二撃、三撃。

 しかし魔法で底上げしたスピードで全てかわしきった。


「速いな。しかしそれだけか?」


 ひっきりなしに飛んでくる電撃をかわすのにせいいっぱいだ。

 防戦一方では隙も生まれまい。

 ただ普通に魔法を飛ばしても当たらないことだろう。


 今こそ、拠点に来るまでにラヴから教わった魔法の心得を思い出すべきだ。


『魔法は、目的と用途をはっきり分かっていることで威力が増すのよ』


 今の状況においては、理想のために相手を倒すこと。

 俺の理想のために、今は相手に――ガリウスに犠牲になってもらわねば。


「大地の聖霊よ。敵を貫く槍を与えたまえ」


 詠唱すると、俺の周囲の空間に、先端がとがった三つの槍が形成された。


「――土槍魔法ソイル・ランス


 右手を射出方向に突き出し、ガリウス目がけて放つ。


「!」


 時間差で一発、二発と放ち、三発目を相手が避けたところで隙が生まれた。

 当たってくれれば一番良かったが……隙は見えた!

 一気に距離を詰め、短剣で斬りつけようとすると。


「!?」


 直撃の瞬間、ガリウスの肌が黒く変色し、斬撃を跳ね返した。


「いいセンスだが、惜しいな」


 硬化魔法の類を使ったらしく、傷ひとつない。

 刃をはじかれたことでがら空きになった俺のみぞおちに、ガリウスの容赦ない蹴りが入る。

 またしても壁際までふっとばされる俺。本日二回目である。


「くそ……」


 一戦目と同様に視界が赤く染まる。


「殺意の無い魔法では私を倒せないぞ」


 悠然とたたずむガリウス。

 今の攻撃パターン自体は悪くなかったはずだ。

 問題は魔法の質。


 もっとスピードが出るはずが、かわされてしまうほど遅かった。


 殺気は込めたはずだったが……いや、待てよ――。


「……そういうことか」


 俺はとんでもない間違いをしていたらしい。

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