第44話 四天王

 玄関扉を開くと広大な部屋が視界に飛び込んだ。

 いたるところに宝石があしらわれており、天井には豪華なシャンデリアが揺れている。


「仲間は置き去りかな? 魔王様」


 前方から嫌味ったらしい声が聞こえる。


「……セブルス」

「どうも」


 ヤツは部屋の最奥の扉の前に立っていた。


「十字架ごとラヴを担ぐなんて、とんだ怪力だな。そいつはけっこう重いはずだが?」


 俺が言うと後ろから鋭い視線を感じた。やべ、あとで謝っとこ……。


「くくッ。軽口を叩く余裕が出てきたか。もっと痛めつけないとだめかな? 

 ……こんなふうに」


「汚い手でそいつに触るんじゃねえ!!」


 手で触れ、感触を確かめようとするセブルスに殺気を飛ばす。


「おー、こわ。やはり魔王様はそうでなくてはなあ」

「く……」

「しかしまたノコノコと追ってきたか。そこのフード女と二人だけで大丈夫なのかな?」

「ふん。二対一だろ。立場が分かってねえな」

「誰が一人だと?」


 パチン


「なっ……!?」


 ヤツが指を鳴らすと周囲に四つの影が。

 それらは徐々に人型になり、やがて豪奢な鎧を身にまとう四騎士の姿となった。


「……こいつらが四天王か」


 四天王。

 魔族を人間の悪者に仕立て上げることに尽力した者たち。

 もとは名のある騎士だった彼らだが、金に目をくらませ王宮の悪事に手を染めた。


「四天王よ。王の名にかけ、魔王を成敗せよ!」


 セブルスの声に呼応するがごとく、やつらの目元を覆う防具バイザーの奥で妖しい眼光が光る。


「魔王よ」


 そのうち一人が口を開く。

 竜の口のような頭部――ヤツはセイリュウだな。


「我らは貴様に何の恨みも無い」

「なら、何で――」

「金のためだ」


 別の一人がかぎ爪を振りまわし、猛虎のごとく連撃をしかけてくる。こいつがビャッコか。


「あっぶねえな! 死んじまうだろ!」


 ひょい、ひょいとかわし続けていると――


「殺そうとしているからな」

「!?」


 先っぽに蛇の頭がついたムチが迫ってきた。ゲンブのムチか。


 ばちん、とそれがの手ではじかれる。


「助かった。すまん、エル」

「上」

「!」


 見上げるとシャンデリアに乗った不死鳥フェニックスの鎧をまとう騎士――スザクの姿が。

 ヤツは息を吸い込むと、次の瞬間には唯一露出している口元から火炎を吐き出した。


「こいつらめちゃくちゃ強ええじゃねえか!」


 防御魔法を展開して炎を防ぐ。


「魔王様も大したことは無いなあ?」


 離れた位置で戦いを眺めるセブルスが嗤う。


「うるせえ。てめえこそこいつらに頼らないと何も出来ねえのか?」

「くくく。せいぜいほざけ。悔しかったら追ってこい」

「なっ……おい、待――」

「ニト」


 途端、エルに引っ張られ体が浮く。数秒前に立っていた場所を風の刃がえぐり飛ばした。


「ちっ……」


 それから扉の方を見ると、セブルスの姿はもうなかった。


「お前ら、元騎士だろ!?」

「そうだが」

「いじめみたいなことしやがって! 騎士道精神とかねえのかよ!?」

「あるぞ」


 言うやセイリュウが手に持った長剣を構える。


「どんな者にでも手を抜かないという精神がな」


 長剣から風魔法が放たれる。渦を巻く風が刃となり迫りくる!


「くっ!」


 防御魔法でしのぐと――


「蛇よ、食らえ」

「!」


 ゲンブのムチが蛇のように地を這って来た。

 俺の足元を狙っている。


「エル!」


 パアン!


 彼女が無言で応じ蹴とばすと小気味よい音が響いた。

 その彼女にビャッコのかぎ爪が迫る。


「――単調」


 ひらりと回避しかぎ爪が俺の防御魔法にぶつかると、防御壁に亀裂が。


「やべ。ヒビが入っちまった」


 今の魔力では限界があるらしい。


「上。また来る」


 行きつく間もなく上空から火のブレスが降ってきた。

 まったくいやらしいやつらだ。


「セイリュウ! どうせならその技量、正義のために使おうぜ!? 俺らと手を組もう!」


 俺は炎を防ぎつつ、リーダー格っぽいセイリュウに交渉をもちかける。


「! ……それもいいかもしれない」

「おっ?」


 ぴたりと攻撃がやんだ。言ってみるもんだな。


「いくらで雇うおつもりか?」

「……」


 俺、ほとんどお金、モッテナイ。


「……成果報酬型(仕事に応じた支払)で」

「却下」

「うおああっ!?」


 お断りと同時に風の刃が飛んできた。


「前払い以外応じない。金こそ正義だ」

「くそっ、汚い大人になりやがって!」


 平和的解決の希望が断たれると同時に四天王の連撃が激しさを増していく。

 なんつー強さだ。

 攻撃に転ずる隙なんてこれっぽっちもねえ。


「ニト」

「ああ。頃合いだな」


 ここまで時間をかけて追い込まれれば良いだろう。

 致命的な傷以外はけっこう負っている。分かりやすく言うとボロボロだ。


 


「――解除」


 俺は小さな声で呟く。


 途端、すさまじいばかりの魔力が身体に湧き上がってきた。


 と、同時に。


 ――ソコニイルノネ……♡


「!?」


 かつてない寒気が体中を駆け抜ける。

 何かとんでもないヤツが……近づいてくる!!

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