第21話 西都ラビリエル

 人の倍はある大きさの地竜に乗り、平原を進む。


「まさかドラゴンと仲が良いとはな」

「当然でしょ。魔王の娘なんだから」


 地竜の背に座るのは、俺とラヴ、


「前魔王様も竜種とは懇意でしたものね」


 それからリン。

 三人でとある町を目指して進んでいる最中だ。


「にしても、勇者ってどんな奴なんだろうな」


「よくは知らないわ。分かっていることといえば、お父様以外の魔族には目もくれなかったことくらいかしら。あとはルル・バーサークという名前」


 破天荒勇者ルル・バーサーク。

 魔族よりも魔王に詳しいかもしれない存在。

 今から向かう町にいるというウワサだ。


 彼女に会いに行くことが、今回の大きな目的のひとつである。


「なんか、怖そうな名前だよな」

「大丈夫です! いざとなれば私が盾になりますから」


 えっへん、と胸を張るリン。

 彼女は自ら俺たちとの同行を希望した。


 アルギルドを連れて行こうかとも思ったが……彼には拠点の防衛を任せている。

 旅立つ際の寂しそうな顔ったらなかったなあ。

 まあ、一人娘が遠くに行くんだからそうなるわな。


「盾になんてしねーよ。死んでもしない」


 リンは絶対に無事で帰すとアルギルドと約束してるからな。


「かっこいいこと言う前に、まずは自分の身をちゃんと守りなさいよね?」

「そうだな……」


 ラヴの言葉に落ち込む俺。


 彼女らに鍛えてもらったとはいえ、攻撃魔法がほとんど使い物にならないのは変わりない。


 それは戦闘における大きなハンディキャップとなる。


 補って余りあるほど長所を伸ばせれば別なのだろうが――


 そうなると単騎無双みたいなやり方はできない。


 遠のく俺の異世界チート無双生活。


「……急に黙り込んでどうしちゃったの?」

「あ、ああ……いや、自分のふがいなさに情けなくなって」


「もう。ちょっと攻撃魔法が使えないくらいなんてことないわよ!

 大事なのはこれからでしょう?」


「あ、ああ……そうだな」


 そうだ、だから行くのだ。


「ニト様、ラヴ様。見えてきましたよ」


 勇者が潜むといわれる町、西都・ラビリエルへ。


 *


「うおー、これだよ、これ!」


 石畳の通路、行き交う馬車。

 西欧風の軒並みに大きな鐘の時計台。


「これぞ、まさに俺の求めていた景色!!」


 これぞ、異世界! ……な景色にテンションが上がる。


 ちなみに身バレ防止のため、俺たちは変化魔法で変装中。

 俺は普段降ろしている髪をオールバックにし、つり目がちな目元はたれ目にした。


「さっきとは見違えるテンションね」

「不思議ですね。まるで街に初めて来たみたいです。人間なのに」


 両隣のラヴとリンもいつもと違う姿をしている。


 具体的には魔族の特徴である頭の角と、背中の羽が見当たらない(リンに関しては長い耳も)。


 それから人間の町娘のような服装。

 魔族であることはひとまず隠さねばならない。


「……なによ、じろじろ見て」

「いや、新鮮で良いなと思って」

「へえ、こういうのが好きなのね。……ヤル気になった?」


 そう言うとラヴは、俺の右腕に腕を絡ませて、ぐっと身体を寄せてきた。


「ちょっ……やめろよ、人前だろ?」


「あら。人目とか気になるの? そういうの気にしない変態かと思ったら、気にする変態だったんだ?」


「なんで変態なのは確定なんだよ!」


 ラヴにもてあそばれる俺。


「……はっ!」


 それを見てなにか察したかのようなリン。


「……もしかして私、お邪魔でした!?」


「おい、ラヴ! お前のせいで変な勘違いされてるだろ!」


「リン。私とニトは、お互いに裸を見せ合った仲よ」


「えっ、もうそんなところまで……!?」


「俺のは不可抗力だっただろ。いきなり全裸になった変態と一緒にするな!」


「そう! リン、聞いて。この人、私の全裸を見て発情したくせに、種付けしてこないとんだ意気地なしなのよ?」


「んなあっ!? おい、ちがっ、そういうのじゃ――」


「なんと……! ラヴ様の魅力的なお身体を抱けるチャンスを、みすみす逃すなんて。

 もしやニト様はスレンダーな身体の方がタイプなのですか? 私めのような……」


 そう言うとリンも左腕に身体をぴたりとくっつけた。


「ちょっと待て」


「そうだ。リン、三人で交尾してみるのはどうかしら? それなら効率的に子孫を増やせるわ」


「ナイスアイデアですね、ラヴ様!」


「真昼間の街中で何てこと話してるんだよっ!! ……ん?」


 ほぼ猥談みたいな会話をしながら歩いていると、露天が並ぶ通りに出た。


 そこで目に留まったのは――


「魔王のフィギュア?」


 露天商が出品している小さな彫像フィギュアだった。

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