第3章 西都ラビリエル編

第20話 件の勇者 

 魔族の拠点が急襲された日から数日。


 拠点は崩壊し、召喚獣たちによる防壁も無くなったため、魔族たちは新しい場所に拠点を構えることを余儀なくされた。


 辿り着いた場所は何もない平原地帯。


『こんなところにどうやって拠点を構えるの?』なんて誰もが思っていたことだろう。


 それがなんということでしょう!


 この大魔法使いのニト様の手によって、あっと言う間に大きなお城と城下町を作ることに成功したのでした~。


 そのうえ常時発動型の結界を展開。防犯も完璧です!


 んで、今はなにしてるのかって?


「げ、げへぇ……」


 闘技場の真ん中で仰向けにぶっ倒れてまーっす(泣)


「よ、弱い……!?」


「でしょ? ほんと、どうやってお父様を倒したのかしら……」


 傍らにはアルギルドとラヴ。


 さすがに今のままでは戦い慣れしてなさ過ぎるので、武術の修行に付き合ってもらっているのだ。魔法と武術の組み合わせがオーソドックスな世界。いくら魔法で強化できようとも、基礎がなっていなければ苦戦はまぬがれない。


 先ほどまではアルギルドが俺の相手をしてくれていた。


「ニト様、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ」


 リンを助けたことに対しての恩義だとかで、彼の口調は敬語になっている。


 タメ口で良いと言っているのだが……本人がどうしてもと聞いてくれない。


「にしても、訓練のおかげで動きが見えるようになってきたよ」


 アルギルドへお礼を伝えると、


「へえ。それでは成長の程を確かめさせてもらおうかしら?」


 ラヴが横から入ってきた。


 ……嬉しそうな表情から察するに、俺をいたぶりたいのだろうか?


「じゃあ、頼むよ」

「任せて」


 対峙する俺たち。


「はじめ」


 アルギルドの合図で手合わせが始まる。

 初撃、視界の端――右下からの蹴りが迫る。


「!」


 が、ラヴの左脚は空を切る。

 彼女が驚いた表情を見せたのは、俺が綺麗に避けたからだ。


「この短期間で……どうやったの?」


 俺のあまりの成長速度に驚くラヴ。


「はっはっは! それは魔王様の内緒だがはぁッ!?」


 両手を腰にあて、ドヤ顔をかまそうとしたところ、セリフの途中で腹部に強烈な右ストレートが入った。


「私もあなたから学んだわ。こずるい作戦も必要だと」


「ご……ほっ……」


 腹を押さえ、その場に膝をつく俺。ぶざま~。


「でも、成長したのはほんとみたいね。今のパンチでも吹っ飛ばないなんて」


「よく見てやがる」


 その称賛に対し、治癒ヒールで回復しつつ秘密を披露する。


成長魔法グロウスだよ。戦いで得られる経験値が増えるんだ」


 これを手合わせのたびに発動していたため、俺の成長は爆発的に速い。


「へえ、そんな魔法あるんだ」


「私めも初めて耳にしました」


 ラヴもアルギルドも知らなかったらしい。


 そういった補助魔法が無いかと考えた時に自然に頭に浮かんだのだ。

 これも女神から授かった『創世の賢者の加護』の恩恵である。


「あなたって、そういう魔法はすごいわよね。直接攻撃する魔法はゴミだけど」


「辛辣~」


 されどその通り、回復魔法、強化魔法を初めとする『補助系魔法』は得意な気がするが、直接ダメージを与えるための『攻撃系魔法』があまりにも上手くいかない。


 こないだ女神に聞いた時もはぐらかされたんだよなあ……。


「ところで、お父様を倒したときはどんな魔法を使ったの?」


 ラヴが興味津々で聞いてくる。愛する父親の死因なんて聞きたくもなさそうなもんだが。


炎熱魔法フレアで一発だった」

「は?」「え?」


 ラヴとアルギルドの声が重なる。


「嘘よ、そんなの」

「いや、ホントだぜ?」

「なら試しに今やってごらんなさいな!」


 急かされるままに詠唱を開始する。


「火よ、熱よ。この世界を生み出した、大いなる原初の炎よ。その威光を示し、今一度我ら下々の者へ畏怖の念をお与えください。――炎熱魔法フレア


 かざした右手の先、数メートル先に爆炎が広がる。

 それを見つめるラヴは――


「ちょ!? おい!」


 勢いよく爆炎の中心点へ駆けていった。


 周囲を爆風が駆け抜ける中、静止も聞かずに。


 それでも俺が平静で居られたのは――


「マジか」


 ラヴが爆炎の中で悠然とたたずんでいたからだ。

 それも、まったくの無傷で。


「こんなの涼しいものよ。魔族、特に魔王には、炎や熱に対しての絶対的な耐性があるから」


 言うや否や、両翼をはためかせて風を起こし、爆炎を消し飛ばした。


「もちろん、魔王の娘の私にもね」


 そうなると俺が魔王を倒せたのはますますつじつまが合わない。


 大したことない攻撃魔法、魔族の絶対的な炎熱耐性……。


「なんで俺は魔王を倒せたんだ?」

「知らないわよ。本当に分からないわ。お父様が極端に弱ってたとか?」


 俺とラヴが疑問符を浮かべていると。


「かの勇者の仕業では?」


 しばらく会話の様子を見守っていたアルギルドが言った。


「勇者?」

「ああ、そう言えば、バカみたいに強いやつが一人いるって言ってたわね」


 勇者かあ。昔から憧れだったなあ。

 小説でも主人公の大概は勇者だったし。


「その勇者が前魔王様を極限まで弱らせた結果、通じないはずの炎熱系魔法が通じた、ということはないでしょうか?」


「なるほどな……」


 んー、でもなんか引っ掛かるんだよなあ。


 よく思い出せないけど、あの時魔王は『我を攻撃するがよい』みたいなこと言って、自分からチュートリアルで出てくる敵モンスターみたいな雰囲気出してたし。


「その勇者に直接聞いてみるしかねえかもな……」

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