第19話 とある王宮の玉座にて

 魔族の拠点での一件より数日後。


 ここは王宮内玉座の間。

 

 王の目の前に、一人の男がひざまずいている。


「王よ、報告いたします。魔族の拠点を急襲して参りました」


 男はにやりと笑い、成果を語る。


「拠点周りの獣たちを凶暴化させ、拠点の破壊、魔族一派を負傷させることに成功。

 しばらくはこちらの優勢です」


「そうか」


 王はそれだけ返すと、


「で?」


 と、家臣である男に冷たい視線を送る。


「魔王を名乗る若者は殺せたのか?」


 凍るようなその視線に、家臣の男はぞっとしたものを覚えた。


「……いえ」


 数秒ののち、やっと絞り出したのはそのひとこと。


「――まあよい」


 王の言葉にほっと安堵する男。


「監視は続けているのだろうな?」


「はっ。常に監視をつけております」


 家臣の男は続ける。


「現況としましては、魔族一派は新しい拠点を作り移り住んでいる模様。

 魔王を名乗る若者によるものなのか、この短期間で旧魔王城と比較しても遜色のない城や町が建造されております」


「ほう……」


 王は刹那、思考を巡らせる。


 ――そんな芸当ができたのは、かつて建国に関わったと言われる創世の賢者くらいだったか。


「今後も監視を怠るな」


「はっ。――やつらについては、どうされますか?」


 家臣の男の問いかけは、今後、魔族をどう扱うかという問いかけであった。


「貴様の急襲をしのいだのならば、それなりの手練れであることは間違いないだろう」


「と、いうことは……」


「ニト・ドラゴハートとやらを正式に魔王認定する。

 ヤツがなにを企んでいるのか知らぬが、魔王を名乗るのであれば遠慮なく魔王と呼ばせてもらおうじゃないか」


 王宮側の祈願はつまるところ、魔王特需の維持。


 魔王健在を国民にアピールすることこそ、経済安定のカギとなるのだ。


「しかし、やつらには人間を攻撃する意図がありません。

 魔族が人間に害を成す存在、というネガティブイメージはつきにくいかと思われますが……」


「それについてはおいおい考える。何とでもなるだろう。

 それより、先に号外記事をばらまかせろ。

 新しい魔王が現れた、というな」


「……はっ。仰せのままに」

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