第18話 禁忌魔法
「
リンの傷口に手をかざし、回復魔法を唱える。
じんわりと傷口が光るが回復は見られない。
その後、より強い魔力を込めて何度か試したものの――
「くそっ!!」
リンの身体は一向に回復してくれない。
それどころか傷口が黒くなっていき、徐々に魔族の死に際特有の『消し炭化』が始まっている。
回復魔法でだめなら、どうすれば……。
「……!」
そうだ、大概の魔法が使えるというならば――
「ニト、何をする気?」
俺の顔を見て思い立ったことに気付いたのか、ラヴが声をかける。
「蘇生魔法」
「なっ……あなた、ちょっと待ちなさ――」
「死をつかさどりし神よ、黄泉の国より彼の者の魂を呼び戻したまえ――
ラヴが何かを言いかけたが、一刻を争うと思った俺は彼女の話を待たずして詠唱。
すると、リンの身体がひときわまばゆい光に包まれていく。
ほんのりと温かみのある光は、まるで『神の祝福』と言わんばかりの美しさである。
しばらくしてその光が消えると、
「……お……父さん……?」
リンの口がわずかに動いた。
「……リン!?」
「お父さん、みんな……私、どうして――」
「リン!!」
困惑しながら上体を起こすリン。
その目に涙を浮かべながら、娘を抱きしめるアルギルド。
「さすが魔王様……!」
「蘇生魔法を使えるなんて」
「窮地を救ってくださりありがとうございます……」
魔族の面々の俺を見る目が変わる。
ああ、ちょっと気持ちいいなあ――
「ニト?」
これだよ、このちやほやこそ、俺が求めていた異世界――
「ニト? ちょっと、返事をして!!」
気持ち良すぎて……このまま――
*
「……あれ?」
気が付くと見覚えのある空間が視界に広がる。
……といっても、ただの真っ黒な空間である。
「魔王よ、死んでしまうとは情けない!」
背後からの声に振り向くと、
「女神さまじゃないっすか!」
「お久しぶりですね」
後光を輝かせながら長い赤髪に美しい容姿の女性が現れる。
どことなくラヴに似たその人は、異世界に来る前に俺にチート能力『創世の賢者の加護』を授けた女神さまであった。
ところで――
「今、死んでしまうとは情けないって……?」
「はい。あなたはさっき、死んでしまったのです」
なんだと!?
「あなたは蘇生魔法を使ったことで死んでしまいました」
「え? 蘇生魔法が原因なの?」
「はい。蘇生魔法は世界の調和を捻じ曲げる禁忌の魔法。誰かを生き返らせることはできますが、代わりに自分の命は引き換えとなるのです」
「そんな代償があったのか……」
知らなかった。
前世で遊んだゲームでは、MPを消費するくらいのものだったのだが、この世界では思った以上に大きな代償を要するらしい。
「こほん。今回は知らなかったとのことですので、特別サービスで生き返らせてさしあげます。……次はありませんから、どうかご慎重に」
そんなことできるのか!? 女神特権すごいな……。
あ、でもせっかく会えたんだし聞いておきたいことが。
「あの、『創世の賢者の加護』って、大概の魔法が使えるんですよね?
使えない『特定の魔法』って、『攻撃魔法全般』だったりしませんよね……?」
「……」
え? 黙った!?
「あのー」
「はやく行くのです! あなたの大好きなハーレムと無双とちやほやが待っています!! ほら、はやく!!」
言うや否や、女神はしっしと追い出すように手を払った。
露骨に話題逸らされたな……。
そんなことを思っていると、またもや意識が遠のいていく――
*
「――ト、ニト!」
目を開けると、眼前にラヴの鬼気迫る表情。見回せば魔族の面々。
元居た拠点に戻ったらしい。
「……すまん、寝てた」
「なにがよ、このバカ!!」
「ごほおっ!?」
ラヴの拳がみぞおちに入る。
あれ? これ、もっかい死ぬパターン?
そう思わせる程の激痛が全身に走る。
「人の話を最後まで聞きなさいっての!!」
豪然たる魔王令嬢は激昂している。
話……そうか、蘇生魔法の詠唱前に、彼女は何か言いかけていたな。
「蘇生魔法は禁忌と言われているのを知らないの? 下手したら死んじゃうって通説なんだからね!」
「……」
事実、死んでましたとは言わない方がよさそうだ……。
あ、でも蘇生魔法ができるってことは――
「さておき良かったわ。あなたのお陰で死人はゼロ。拠点は移動しなきゃだけど、とりあえずいったん休ん――」
「蘇生(リサシュテーション)」
ラヴの話を聞き終えぬまま、再び蘇生魔法を試みる。
「は、はあああああああ!? ちょ、ちょっと、話聞いてたわけ!?
ざッけんじゃないわよ!!」
彼女は激怒するが――
何の変化も起きない。
「……無理、なのか?」
魔力不足か?
それとも、他の原因が……
「……今、誰を生き返らせようとしたの?」
俺の思考をラヴの声が遮る。
「そりゃあ、君のお父さんを」
「……」
深紅の目を伏せ、怪訝そうにくちびるを噛む彼女。
現状、ラヴの父親……前魔王を生き返らせることができれば魔族の安寧が約束されると思ったのだが……。
何か、いけなかったのだろうか?
「自分を大切にしない人に、誰かを大切にはできないって、言ったのはあなたでしょう……」
ああ、そういう……。
「お父様が生き返るとしても、代わりにあなたが死んだら意味がないじゃない。
お父様を人殺しにするのは――やめて欲しいわ」
その言葉で、俺はハッとした。
彼女は本当に誇りを大切にしているのだと。
「……すまん、軽率だった」
「ふんっ。分かればよし」
さて、とラヴは表情を切り替える。
「ともあれ、あなたのおかげで急場をしのげたわ。
……本当に、ありがとう」
柔らかな表情で彼女は笑う。
その感謝を受け入れられるほどの活躍はできていないが、とりあえずはひと段落、なのだろうか。
しかし、あの時の人影は何者だったんだ……?
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