第22話 魔王とフィギュアと作戦会議

「フィギュア……?」


 現世でいうところのまさにそれだ。


 俺がこの世界に転生した直後に遭遇した魔族――前魔王ギグ・ドラゴハートにそっくりの彫像フィギュアが、目の前にある。


 俺の目線に気付いたのか、商人が語りかける。


「おやおや旦那さま、そちらに目がつくとはお目が高い。こちらは知る人ぞ知る魔王像作家、クサバールの作品でございやす」


「へえ……」


 羊のような巻き角、老人のような顔立ち、魔法使いのようなローブは前魔王そのもの。

 よく見ると顔のしわや、ローブの内側まで細密に作られている。


 商人曰く、魔族の像は魔よけとして人気があるのだそうな。


「いくらなんだ?」

「へへい。ざっと、十万ベルでございやす」


 一ベルが一円くらいの価値観らしいから、前世での月給半分が飛ぶくらいの値段だ。

 端的に言って高すぎ――


「こ……っ!」


 と思ったが、


「このクオリティで十万ベル? 安すぎるわ……!」


 価値観の合わないファザコン娘が隣にいた。


「商人さま、こちらの在庫は残りどれほどでしょう?」


 ラヴが目を輝かせているのを見て、リンが問う。


「へへい。残り三点でございやす。一週間前に十点仕入れましたが、瞬く間に売れてしまいまして」


「残り少ないじゃないの。今すぐ買うわ!」


「待て待て待て待て」


 えだろ、金が!

 と、鼻息のあらいファザコンにお金のジェスチャーと目線で教えてやると。


「予約……予約は? できるわよね!?」


「へ、へへい。できやすよ!」


「よっ……しゃあッ!!」


 うわあ、すげえ嬉しそう。


 喜び過ぎたあまり、ラヴの変化魔法が解けそうになったので、予約を済ませてひとまず立ち去った。


 彫像フィギュアって高価なんだな。つーか、どうやって金を稼げばいいんだ?


 ……ん? 高価……?

 しかも商人は『瞬く間に売れた』って言ってたよな……?

 そうだ、簡単じゃないか……!

 これなら大金持ちになるのも夢じゃねえ……!


「どうしたの、ニト? 気持ち悪い笑顔なんか浮かべちゃって」


「ラヴ様。先ほど前魔王様の彫像フィギュアを前にした、あなた様とそっくりな笑顔ですよ」



 *



 街での拠点として宿屋を借りた。


「ふ~、久々のベッド~」


 ぼふん、と音を立て大きなベッドにダイブする。


 格安の宿とはいえ、柔らけえな~。


 それにしても、大きなベッドだ。

 のびのびと身体を伸ばして気持ち良く眠れそうである。


 コンコン


 ベッドの柔らかさを堪能しているとノック音が響いた。


「入るわよ」

「失礼します」


 隣部屋の女性陣が入ってきた。


「よし、それでは始めよう」


 ラヴとリンには椅子に座ってもらい、俺はベッドに腰かけながら今後の打ち合わせをする。


「しばらくこの街で活動をするって話だったわよね?」

「その通り」


 街に滞在する理由はこんな感じ。


 その一、働きながら人々のことを知る。

 その二、勇者と会って魔王について詳しく聞く。

 その三、魔族のイメージアップにつながることをする。


「ニト様は、何かお考えがあるそうですね?」


「ああ。この三つをまとめてできる活動を思いついた」


「ふーん。どんなことするの?」


「ふ、二人には内緒かなあ」


 いいアイデアだと思うんだが、ちょっと言いづらいんだよな。

 特にラヴには。


「……まあいいわ。あなたのことだし、どうせ分かるでしょ。隠し事は下手だものね」


「ニト様、ラヴ様はあなた様のことを正直者だと言っておられます」


 リンがツンデレ翻訳機みたいになってる……。


「私はギルドでクエストをこなすわ」


「おお、やっぱそういうのあるんだ?」


「当然よ。人間のくせにとことん世間知らずね。引きこもって魔導書ばっかり読んでたのかしら?」


 はい、引きこもって本ばっかり読んでました。


「私めは街中で芸でもしようかと」


「芸? 何か特技でもあるのか?」


「特技、と胸を張って言うほどではありませんが……歌を、少々」


 へー、歌か。どんな歌声なのか気になるところだ。

 そのうち機会を作って聞いてみよう。


「よし、それぞれやることは決まったが、情報収集とイメージアップについては、無理のない範囲でやっていくぞ」


「そうね。派手なことして正体がバレたりするとリスクだものね」


 現状、魔族に対する人間のイメージは悪いままだ。

 身バレして人間たちから総攻撃とかされたらひとたまりもない。


「では、これにて今日は解散。一旦休んで疲れをとろう」

「分かったわ」

「承知しました。では、失礼いたします」


 リンが丁寧に一礼し、俺の部屋を出る。

 しかし、ラヴはその場を動かない。


「……行かないのか?」

「何を言っているの? 私の部屋はここよ」


 そう言ってラヴは、ベッドに――俺の隣に腰かけた。


「この大きなベッド、どう見ても二人用でしょ」

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