第41話 魔王令嬢さらわれる
「いたた……」
地面に打ち付けたケツをさする。
さすがに身体も頑丈になってきたのでこれくらいはへっちゃらだけど――
「一体何なんだよ。二階から俺を吹き飛ばすの流行ってるのか?」
異世界に来てから数か月。幾度となく吹き飛ばされてきたが中でも二階から吹き飛ばされたケースは多い。
次からは一階に住もう。
などと将来のことを考えながら元居た場所……俺の部屋があった新居の二階を見上げると。
「くっくっくっく……」
邪悪な笑みを浮かべる屈強な男の姿があった。
そいつが肩に担いでいるのは――
「ラヴ!!?」
俺は驚愕の表情で叫ぶ。
「ここに来るところを狙ったのか? それにしてもラヴがやられるなんて……お前、一体何者だ!?」
「くくっ、我は王宮からの刺客」
屈強な身体の男は正体を隠す気などみじんもなさそうだ。
堂々とした振る舞いのその理由は――
「コイツは貰っていく。返してほしくば王宮へ追ってこい!」
王宮に攻め入らせることで魔族の悪評をふたたび生み出すためだろう。言うまでもないことだ。
しかしそんなことをすればどうなる?
今までみんなで積み上げてきたことが全部水の泡になっちまう。
「卑怯者が……これでも食らえ!」
右手を敵へ突き出し
「ふむ、リアルな幻影だな」
「なっ!?」
敵はそれを避けようともしなかった。
「……『
そのスキルを持つ者は幻術を見破れる。
ラビリエルで戦った勇者ルルも、恐らく『
中には同じ効果を得られる魔道具もある。
「さよう。故に生ぬるいことは考えない方が良いぞ?」
「くっ!」
幻術魔法でびびらせて隙をつくことはできない、か。
とはいえ、残念ながら俺には攻撃魔法が使えない。
ネネによると、創世の賢者はやはり一切の攻撃魔法は使えなかったらしい。代わりに世の中の大抵の補助系魔法と、高度な幻影魔法は使えたのだという。
加護は付与者の特性をほとんどそのまま与えるから、俺も同様……という理屈。
攻撃魔法が使えないのはデカすぎるハンデだ。
だが、ここで屈するのはまだ早い。
「お前を今ここで捕えれば問題ない!」
俺は強化魔法を身体に施し敵の元へ跳ぶ。
「くっくっく。鬼さんこちら!」
「こいつ、速い!?」
対して、敵は圧倒的な速度で俺から距離を取る。
とてもじゃないが今の俺では追いつけそうにない。
いまだにラビリエル近郊の迷いの森で、力の大半を分け与えた俺の
「くそ、待ちやがれー!」
俺はぼろぼろの衣服もそのままに走り続ける。
「おい、魔王!! 追いつけないと、この女魔族がどうなるか分かっているのか?」
「……ラヴをどうするつもりだ?」
「ふむ、いい身体をしている……魔族というよりは美しい人間の娘といったところか。催眠で言いなりにして、楽しい玩具にしてやろうかなぁ?」
「てめえ!! ぶっ殺してやる!!」
殺意を込めた叫びもなんのその。いかにも宿敵といった笑顔でヤツは嗤った。
「はっはっはっは! いいぞ、不殺など魔王には似合わぬ。人を殺してこそ魔王。悪役であってこそ魔族だ。そうだろう!?」
「うるせえ! さっさと俺の大切な人を放せ。今ならまだ見逃してやる!」
威勢よく吠える俺の様子に満足気な敵。
「はっはっはっは! 放すわけが無いだろう?」
「畜生……! お前、絶対に許さん!!」
「いいぞいいぞ、もっと怒れ! 願わくば、戦争をしようじゃないか!!」
急加速し、走り去りながらヤツは叫ぶ。
「魔族と人間の、全面戦争を!!」
そう言い残し、ヤツは闇に消えた。
「はあ、はあ、はあ……」
俺は足を止め、呼吸を整えると。
「ちくしょおおおおお―――!!」
敵に声が届くように咆哮する。
しんとした闇の中に声は飲み込まれ、消えた。
しばらくして完全に静かになる。
――よし、こんなもんでいいだろう。
今夜は予定通り、眠れないらしい。
一世一代の最終決戦を始めるとしよう。
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