第42話 王宮へ

「――と、まあそういった具合だ」


 夜も更けた時間。

 新魔王城には俺の呼びかけで魔族の精鋭たちが集まっていた。


「まったく。気ィ抜き過ぎだぜ、魔王様」

「……すまん」


 敵襲の件について一通り話し終えた俺に、ライラックの容赦ない言葉が刺さる。


「これ、ライラック。今一番つらいのはニト殿ぞ? 少しは気をつかわんか」


 精鋭の中では年長のガリウスがフォローしてくれた。


「それにしてもラヴ様を行動不能にするなんて、よっぽどの手練れなのでしょうね」


 対して一番若いリンが言う。ラビリエルの一件から少し背が伸びたな。


「隙をついて襲い掛かったのだろう。王国側らしい汚い手だ……ニト様、どうされますか?」


「……」


 アルギルドの問いに少し思い悩む素振りをした俺をさしおき、


「待て」


 その場にいたもう一人が凛とした声で場を制す。

 魔族側唯一の人間の精鋭として知られている、エル・バレットだ。

 フード付きの外套、顔には仮面をしていて、その正体は俺しか知らない。


「ここでラヴ様を助けに行けば、王宮の者どもと戦闘になる。そうすれば私たち魔族の悪評が再び広がるだろう。これまでに積み上げたものが全て水の泡になるぞ。いいのか?」


 の発言で精鋭たちの間に沈黙が降りる。

 それからしばらく皆は互いの様子をうかがっていたが――


「私は、助けに行きたいです!」


 一番に声を上げたのはリンだった。


「俺もだ」

「同意」

「言うまでもありません」


 他の精鋭たちも続く。


「みんな……」


 俺が言えばみんな言うことを聞くことだろう。だからあえて黙っていたのだが、気持ちは一つらしい。こっそりと魔道具『愚者の独白(ウソ発見器)』を発動して真偽を確認したが無用な心配だったか。


「では、魔王より今回の作戦を告げる――」


 それから間も無く、俺たちは王宮へ向けて発った。


 ……ん? その前にエルについてもっと知りたい、って?

 紹介は要らないと思うぞ。

 ちなみに他の精鋭にも『人間ではあるが理解ある協力者』くらいにしか伝えていない。


 *


 満月の下、進むのは空の道。


「くぅ~~~っ! 飛竜さいこー!」


 巨大な飛竜の背に乗り、俺と精鋭たちは王宮へと向かっていた。


 ラヴと仲の良い飛竜だ。のつてで運よく協力を得られた。

 ドラゴンに乗って空を駆ける。夢が一つ叶ったぜ……。


「ニト様。敵がすでに王宮へ戻っていることはどうやって分かったのですか?」

「いい質問だ、リン。答えはコレだ」

「それは……魔道具?」


 差し出して見せたのはとても小さいブローチ型の魔道具。


「光年蛍という魔道具でな。2つで1セットになっていて、身に着ければいつでもどこでも相手の居場所を感じ取れる」


「戦闘の隙に敵に付けたのですね?」


「い、いや、違うんだ」


「……あっ、そういう! うふふ。ラヴ様とペアルック、ということでしたか」


「まあな」


 正確に言うとそれも違うが、今の時点で説明は不要だろう。


「リン、恋バナもいいけどよ~、作戦は頭に入ってんのか?」


 ライラックが後ろから声をかける。


「どっかの脳筋じゃあるまいし、しっかり把握してますけれど?」


「ああ!? じゃあ脳筋でも頭に入るように復習させてくれ~!」


 やけに素直な脳筋だ。


「まず、飛竜に乗って王宮正面に突っ込む。いきなり俺たちが来たことで、王宮のやつらは大慌て~!」


「そうです。なぜ彼らは慌てるのでしょう?」


「やつらはまず、魔族で一番強いラヴ様をさらったことで俺たちは急には動けないと考えている~!」


「その通り。それで、その後は?」


「成り行きに任せる~!」


「正解。これぞニト様の完璧な作戦なのです……はぁ」


 リンは半分、あきれ顔で俺を見る。


「ニト様……失礼ですがこれ、作戦って言います?」


「ああ。大丈夫だ」


 心配は無用とばかりに親指を立てた。

 作戦なら練ってある。ずいぶんと前からな――


「ニト様」


 アルギルドが眼下を見て知らせる。


「見えました――王宮です」


 ほう、どれどれと見てみると。


「おお、ははっ。たくさんいるなあ」


「ニ、ニト様、あれって……」


 完全武装した無数の兵士たちが入り口で待ち構えている。


「や、夜間演習じゃないかなあ?」


「いや~、どう見ても迎撃態勢だよな、ニト様ぁ?」


 意表を突くはずが、敵側は準備万端の様子。

 さすがにぬかりねえか。


「すまん皆。プランBで頼む」


「「「はァ~……」」」


 一同、ため息とともに頭を抱える中、ライラックだけが疑問符を浮かべた。


「プランBってなんだっけ~?」

「……そんなものありませんよ」


 リンが察しよく説明する。


「正面突破ということです」

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