第25話 ある魔王像作家の高揚

 ああ、こんな気持ちは久しぶり。

 私以外に、魔族の像を作っている人がいるなんて!


 しかも、あの彫像フィギュアはすごいクオリティ。

 魔族を側で見続けてでもいないと作れないのではないかしら?


 数週間前のあの日からずっと寂しかった。

 ずっと追いかけていたあの人がいなくなった、あの日から。


 何もしないでいると落ち込むばかり。

 こういう時は、趣味の魔王像づくりに没頭しようと、いつにも増して打ち込んだ。


 そうしていると、輝かしいあの日々を忘れずにいられる気がして。


 でも、今夜はそんなことをせずに済みそう。


 トニーと――同じ趣味の人と話せば、きっと寂しさを感じる必要は無いはずよ。


 *


「なんかいいこと、ありました?」


 身なりを整えようと美容室へ行くと、いつもの担当美容師さんに聞かれた。


「分かっちゃいます?」

「あ、やっぱりいいことあったんだ」


 うふふ、と笑い合う。

 そっか、私、今夜のことがそれだけ楽しみなのだわ。

 鏡に映る自分の顔を見て、嬉しさが増幅する。


 美容室を出て、いったん自宅に戻る。

 一応だけど……勝負下着とかも着とかなくちゃね。

 人生、何があるか分からないもの。


 さて、夜までは時間があるし、少し外の風にでも当たろうかしら――


「号外、号外!」


 ん? 何事かしら。


「号外読んだか? 新魔王だってよ」

「ええ? 何それ、物騒ねぇ」


 道行く人たちの会話に心がざわつく。

 新魔王?

 そんな……そんなことって……!?


「ひとつください!」


 新聞社の人から号外をぶんどり、目を通す。


 そこには新魔王ニト・ドラゴハートについての詳細と、似顔絵が。

 先ほど会った、トニーという魔族像作家に少し似ている。


 というか、たれ目と髪型が違うだけで他は一緒だ!


「変装ってところかしら……」


 ニト、トニー……ほぼひっくり返しただけじゃないの。

 うふふ、安直な偽名。


 まあ、人のことは言えないけれど。


「そういうことだったのね……!」


 それにしても、なんというめぐりあわせかしら!

 今夜は楽しくて、激しい一晩になりそうだわ……!!


「やっぱり今夜の勝負服は気合い入れなきゃ……♡」


 今度こそ、魔王の首を迷わず掻き切るために。

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