第46話 茶番 

 どっごおおおおおおん!!


「うおあっ!?」


 大広間の壁が大破した。

 もうもうと土埃が立ち込める。


「最高硬度のオリハルコンの壁では?」


「ああ、確かにそのはずだ」


 四天王たちがざわつく。


 視界が見えなくても分かる。

 今まで出会ってきた人物でオリハルコンの壁でも壊せそうな奴……。

 このヤバ過ぎる気配はアイツしかいねえ。


「来ちゃった♡」


 銀鈴の声と同時に吹き荒れる風。

 翼を羽ばたかせただけで土埃が吹き飛んだ。


 俺たちの前に姿を現わしたのは――


「……出たな変態勇者め」


 青銀の勇者ルル・バーサーク。


「魔王様♡ はやく次、やりましょ♡」


 土人形を解除してから1分と経たない。


 入ったら出れないはずの迷いの森を抜けただけでも恐ろしいが、あそこからここまで秒で来れるその体力……マジでどうなってんだ……。


 さておき。


「ルル! こいつらをどうにかしてくれ」


 俺は四天王を指して言う。


「その後は思う存分に相手してやるよ」


 ルルの登場は予想外だが、丁度良い。

 お陰でで先に進むことができる。


「言ったわね? 絶対よ?」


 ルルの瞳孔が竜のように獰猛に輝く。


「ああ。任せたぞ」


 俺は身体に湧き上がる魔力を抑え込みながら扉を抜ける。

 予定を上回る順調さだ。


 


 *


 しばらく王宮の通路を進み、奥へと辿り着くと。


「おやおや!? 四天王を倒されたのか、魔王様!」


「追いついたぞ、クソ野郎」


 十字架を地面に突き刺したセブルスの姿が。


「くくく。思った以上にやるようだが、ここから先へは進ませないぞ? 

 ……そこから動いたら、こうだ」


「セブルス! やめろ、やめてくれ!

 ラヴの身体にそれ以上傷を増やすな!!」


 もう見ていられない。

 もう……限界だ。


「ぷ……くくっ」


「……?」


 だ、駄目だ。

 まだ笑うな……。

 こらえるんだ……。

 し……しかし……。


「貴様、何を笑って」

「絶死獄炎(デスフレア)」


 俺が必死でこらえていると、隣から詠唱と共に爆炎が放たれた。


「ああ―――――っ!! 俺のがあああああああ!?」


 セブルスが触れようとしていたそれ――人形ゴーレムは木っ端みじんに爆発四散してしまった。


「ちょっとお前何してくれてんのーッ!?」


「ごめんなさい、ニト。我慢できなかったの」


 どうやら先に限界が来ていたのはの方だったらしい。


「貴……様……!? なぜッ!?」


 魔法のダメージを食らったらしいセブルスが驚愕に目を見開く。

 ヤツの目線の先で、がマスクを外し、フード付きの外套を脱ぎ去る。


「はあ。やっと思う存分に暴れられるわ!」


 そこに現れたのはさらわれていたはずの魔族最強戦力。

 豪然たる魔王令嬢、ラヴ・ドラゴハートだった。


「驚いているセブルス君に種明かしをしてあげよう」


 ***


 まずは今日の昼間、ラヴと喫茶店で会話をした時……の更に数十日前にさかのぼる。


『ニトさん、王宮の動きがあやしいっすよ』


 敵の動きを教えてくれたのは賢者の図書館ライブラリー・オブ・ワイズの新館長となったネネだった。


 王宮のやつらが俺らをはめるべく暗躍している、と。


『すでに城下町にも潜んでいるっぽいっす』


 ***


 それからというもの、俺とラヴの暗躍の日々が始まる。


 王宮側はラヴをさらうことで俺たちの戦力を削ぎ、更には人質とすることで魔族との交渉材料にしようとしていた。


 俺とラヴはそれを逆手に取り、まんまと手中にハマったように見せかけて今日を待っていた。


 そして今日――


『今夜、決行』


 毎日通っていた喫茶店にて、ラヴが俺の耳元でささやいた言葉。

 それは愛のささやきではなく、敵が作戦実行をするという合図だったのである。


 *


「他にもいろいろと悟られないように頑張ったよ」


 ラヴに”エル”という架空の人物を演じてもらったり、魔族側にスパイがいないか気を張ったり、隙だらけの魔王を演じたり……。


「お前が俺の作ったラヴの人形ゴーレムをさらっていった時は笑いをこらえるのに必死だったぜ」


「あれが人形ゴーレムだと!? いくらなんでも精巧過ぎるだろ……変態が!」


「お前にだけは変態と言われたくないが!?」


 まあその力作は先ほどラヴにより壊されてしまったのだけれど。

 傑作だったのに……残念だ。


「痛っ!」


 残念そうにうなだれていると、ラヴが俺の肩を強くたたく。


「もう! 人形ゴーレムなんてなくても、思う存分見ればいいし抱けばいいじゃない」


「いやあ、だからそれは」


「お互いに好きになってから、でしょう?」


「……」


 分かってるじゃねえか。


「……私はもう準備できてるけど」


「え?」


「さて。私はコイツを適当にのしておくから、あなたは最後の仕事をよろしくね!」


 ラヴはごまかすようにまくしたてると、俺の頬に軽く口づけた。


「なっ……おまっ……」


「よろしく頼むわよ、我らが魔王様」

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