第7話 子種をよこしなさい!
「おい、いきなりどうした!?」
俺はとっさに手で両目を覆い、見てはいけない部分は見ないように心がける。
……とはいえ、指の隙間から見える彼女の身体はひどく魅力的で、否応なしにちらちらと視線がいってしまう。
白雪のようななめらかな肌。胸元に実る豊かな二つの果実。くびれた腰に、引き締まったお腹。ハリのあるヒップ。そそられる健康的な美脚――
「遠慮しないで堂々と見ればいいじゃない」
「!?」
先ほどは自分の身体を見られるのを嫌そうにしていたくせに……
なんなの、この子。スイッチが入ると実はとんでもないビッチなの!?
「何よ、私じゃ不満だっていうの? さっきはいやらしい目つきで私の身体をまじまじと眺めていたくせに!」
「いや、不満とかそういう話じゃなくて! そういうのは好きな人とするもんだろ?」
「言いつけなのよ、お父様の。『魔王を倒すような強者が居れば、その者とまぐわり、子を成し、魔族の繁栄に努めよ』というね」
淡々と告げるラヴ。そこには自分の気持ちなどどうでもいい、といった諦観のようなものが滲んでいた。
「私は魔族が好きだから。魔族を守りたいし、魔族を生かしたい。それが、私の意志よ。好意がどうとかは二の次」
深紅の瞳に宿るは確固たる決意。
「それにあなた、私が嫌なわけじゃないんでしょ?
……身体は正直なようだけど」
ラヴは俺の股間を指さす。
俺は自らの下半身に目を向ける。
あろうことか、俺の愚息がテントを張っていた。
「ばっ!? これは、ちがっ!」
慌てて股間を隠すも、もう何もかも格好がつかない。
「素直になりなさい」
「うおっ!?」
彼女は俺をはっ倒し、腰のあたりにまたがってくる。
ま、まずい、俺の貞操が……!
「脱がすわよ」
「ちょっと落ち着いてくれ!」
「……なに?」
俺を見下ろす視線は、その深紅の瞳の色と対照的に――ひどく、冷たかった。
「君は、魔族が好きなんだろ?」
「そうよ、それがどうしたの? 守るためならなんだってやるわ」
だったら。
「君は生まれてくる家族……君の子どもにも、同じことがさせられるのか?」
「……」
いくら言いつけだからといって、好きでもない人……
それも父親を殺したようなやつと子どもを作る?
そんなのおかしいだろ。
「自分を大切にできない人に、他の誰かを大切には」
「もういい」
彼女は俺の言葉を遮ると、立ち上がって服を着直した。
「……だったらあなたが……惚れさせてみれば問題ないんじゃない?
……別にどうでもいいけど」
後ろを向き、表情を隠す彼女の声は震えていた。
*
「さっきはあんなこと言ったけど……気が向いたらいつでも私に種付けていいから」
しばらくすると再び彼女は話し出した。
声音から察するに、多少は冷静になったらしい。
「それよりあなた、魔王を名乗るなんて正気?」
「ああ、その話だが」
やっと茶番の理由を説明できる。
「俺は魔王になって、まずは魔族の誤解を解く」
「はあ? なんであなたがそんなことするわけ?」
確かに人間の俺としては、そんなことをしてもメリットなんてないのかもしれない。
しかしながら無双・ちやほや・ハーレムの全てを手に入れたい俺にとっては重要なことなのだ!
……なんていう訳にもいかないので伝えるに値するちゃんとした理由を説明しよう。
「別に魔族だけを思ってのことじゃない。人間としても大事なことだからだ」
「どういうこと?」
「本来、魔族は人間に害をなす種族じゃないんだろ? だったら、魔族を敵として捉えるよりも、協力した方が良いじゃないか」
敵対し合うよりも、互いに手を取ってより良い世界を目指す方が良いに決まってる。
「魔族も人間も皆自由に楽しく生きられる世界にしたい」
なぜなら、誰よりも俺自身が自由で楽しく生きていきたいから。
「……はあ」
呆れたようにため息を吐く彼女。
「人間の言う理想論なんて、言葉だけじゃ信じられない」
それもそうだ。
ラヴからすれば、俺も先ほどの王国騎士団と同じ人間だしな。
「だから、この先のあなたの行動を見て判断するわ」
「それで構わないよ」
彼女には彼女の哲学があるらしい。
表面だけを見て判断するのなら、彼女が忌み嫌う王国騎士団のような奴らと同じ。
そうありたくないからこその誠意なのだろう。
「とりあえず、まずは魔族の拠点に引き上げるわ。道中は危険な生物が多いけど、お父様を倒したあなたなら大丈夫よね?」
「大概の魔法を使えるから大丈夫だと思う」
「……魔法が効かない生物もいるけど?」
ラブの顔に不安の色が浮かぶ。
「それに大概の魔法を使えるのはすごいけど……今って案外皆使えるでしょ? ほぼ無詠唱で」
「え?」
案外、皆……無詠唱で?
「この戦いで魔法の技術も一般化してるわよ。知ってるでしょ?」
そう言って彼女は、目の前の地面を指さした。
「炎熱魔法(フレア)くらいなら魔力消費ほぼなしでもこれくらいは余裕だわ」
地面から爆炎が広がり、爆風が吹き荒れる。
まばゆい光と、身をちりちりと焼くような熱。土埃から目をかばい、爆風が収まってから目を開けると。
目の前の地面に、巨大なクレーターができていた。
その威力は、俺が魔王を倒した魔法をはるかに上回っていた。
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