第6話 ニト・ドラゴハート

「「「……は?」」」


 俺の自称魔王発言に対し、あっけにとられる一同。


「二度も言わせるな。俺が、新しい魔王だ」


 しかし突き通す俺。


「いや、貴様が魔王を倒したのではないのか?」


 困惑する騎士団長。


「ああ、それは間違いない。前魔王のギグ・ドラゴハートは、俺が殺した。魔王の座を奪うために」


 自信満々で言い放つ。

 無論、困惑しているのは王国騎士団だけではない。

 魔王の娘、ラヴ・ドラゴハートも俺の行動の意図が読めていない。


「いや、ちょっと……何言って」


 言いかけた彼女の言葉を、片手で遮る。


「……少し茶番に付き合え」


「……? は、はぁ……?」


 小声で彼女にささやき、とりあえず場を持たす。


「貴様、新しい魔王と言ったが、それをどう信じろというのだ?」


 当然のごとく騎士団長が聞いてくる。

 まあ聞いてきますよね。


「どう見ても人間ではないか。さすがに無理があるぞ!」


 ですよね~!

 どう見ても人間ですよね~。

 ここでは、それっぽいことを言っておくことにしよう。


「この娘と一緒にいることが何よりの証拠! だろう? ラヴ・ドラゴハートよ」


「……?」


 ぽかーんと口を開けている、ラヴ。

 どうしよう。もしかしてこの子、アドリブ効かないタイプ?


「おい、どうなんだ? まるで即興の演技を求められて固まってしまっているかのように見えるが……?」


 あら、さすが騎士団長、察しが良い!


「……おい、とりあえず話合わせろ!」


 小声で耳打つと、ハッとしたラヴは我を取り戻して。


「そうよ。このお方こそが新しい魔王、我ら魔族の頂点に立つ者!」


 なんとかそれらしい演技を繰り出してくれた。


「いや、まだ信用できん。魔王結界は? あれは魔王が死ぬと同時に、消える仕組みになっていると言われている。あれが無ければ、国民の誰も新しい魔王の再誕を信じぬ!」


 なんだよ、その設定!


「結界? フン、そんなもの、より強固なものをすぐに作り直してくれるわ!」


 いや、まあ、再現できるかわかんないけど。


「むう、判断に困るな……」


 何やら部下たちと話し始めた騎士団長。

 俺を魔王認定していいのか迷っているのか?


 ならば――


「その迷い、晴らしてやろう!」


 俺は右の手の平を天へと突き出した。

 上空に黒い炎が渦を巻き、巨大な球体となる。


「この黒炎こそ、今から貴様らを滅ぼす魔界の炎!!」


 いかにも強そうな魔法を見せつけて有無を言えなくしてやるぞ♪


 ……って、とっさに言っちゃったけど、魔界の炎ってなんだろうね。


「ま、魔界の炎だと!?」


 なんかイイ感じに驚いてくれてる!?

 よし、ここで名前とか言っておけば、さらにそれっぽくなるはずだ!


「そうだ、俺こそが魔王……」


 名乗ろうとして踏みとどまる。

 いや、ここで前世の名前とか嫌だな。

 えっと、えっと、ほぼ無職の状態になっちゃってるから――


「魔王、ニ、ニート・ドラゴハート!」


 かっこわる!

 どうしよう、やっぱ今の無しでお願いできませんか!?


「ニト・ドラゴハート!?」


 俺が噛んだのが幸いしたのか、なんかカッコイイ感じに聞き間違えてくれたらしい。

 よし、それでいこう!


「そう。俺こそが大魔王、ニト・ドラゴハートだ!!」


「大魔王、だと!?」


 しまった、調子に乗って大魔王とか言ってしまった。

 魔王とか大魔王とか、違いはよくわからんけど。


「ここは一旦、退却だ! 国王様に伝えなければ……!」


 そう騎士団長が呟くと、王国騎士団は俺たちに背を向けて走り去って行った。

 天にかかげていた手を降ろし、黒い炎でできた球体は、放つことも無く消滅させる。


「ふう……悪いな、茶番に付き合わせ――」


 そう言いながら振り向くと、視界に飛び込んだ光景に俺は絶句した。


「ええ。面白い茶番だったわ」


 ラヴが仁王立ちで腕を組み、立っていた。それも――


「それでは魔王様。さっそく私と交尾してもらえるかしら?」


 全裸で。

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