第51話 新魔王
「は!? なぜじゃ? そなたは新しい時代を築くと」
「言った。それは確かに俺が取り組む。だが――」
魔王となるべきなのは俺じゃない。
「魔王の座は、ラヴ・ドラゴハートが引き継ぐべきだ」
「なに!?」
ギグの表情が険しいものに変わる。
「魔王などという苦痛な仕事を我が娘にさせろと? 断じて」
「お父様!!」
俺たちの会話を断ち切るようにラヴが叫んだ。
「私、魔王になりたい!」
彼女は強気な表情で語りだす。
「私は魔族のみんなが好き。
妹みたいなリン、お兄ちゃんみたいなアルギルド、優しく見守ってくれるガリウス、やんちゃ坊主のライラック……。
みんなのためなら私、どんなことでも頑張れそうな気がするの」
「ラヴよ……」
うすうす感じていたことだ。
魔族を大切に想い、家族のように愛する気持ちがもっとも強いのは彼女。
「世界全体を見る俺よりも、魔族の長としては彼女が適任だろう。現魔王としても彼女を次期魔王に推薦したい」
「……」
俺たちの言葉にギグは観念したような様子。
「……大きくなったなあ、我が娘よ」
「お父様……!」
「我が娘、ラヴ・ドラゴハートよ。……魔王として頑張ってくれ」
「~~~~!!」
言葉にならないほど嬉しいのか、ラヴはしばらく顔を両手で覆ってうめいていた。
その後、
「……私、頑張ります」
嬉しそうな顔で微笑んだのだった。
「しかーし! それは認めてもお前らの結婚は認めん!!」
……ん?
「ちょ……お父様……!? まだ私、そういうこと一言も」
「何がじゃ! さっき言ってたじゃろ、『ここがあなたのお墓よ』と!」
え。
「あああ―――!! お父様のバカ! ニトもバカだけど、お父様も大概だわ! そろいもそろって、プロポーズはちゃんとしたいっていう私の乙女心が分かってないんだからっ!!」
ちょっ?
「何がバカじゃ淫乱娘! 全裸で仁王立ちして『私とセッ〇スなさい』などと淫らな発言をしおって! お父様は悲しいぞい!」
「いつから盗み見てたのよこのエロジジイ!? ていうかセ〇クスなんて言ってないわ!! 交尾しろって言ったの!! 大体、『ワシを倒すような猛者が現れれば、そやつと子を成して魔族を栄えさせろ』って言ったのお父様でしょう!?」
「ワシは見ての通りぴんぴんしておるわ!! ならばワシの言ったことに縛られる必要はないじゃろう!?」
「……」
入り込む隙間の無い言い合いの果て、ラヴは押し黙ると、
「いいわ。ここではっきりさせてあげる」
決意を固めた表情で俺の腕をがっしりと抱き寄せた。
や、柔らかい……。
「私はニトのことが好き。お父様が決めたからじゃない。私自身がそう想っていることなの」
ラヴははっきりとした口調で告げる。
「困っている人を見捨てられないところも、こう見えてすごく強い気持ちを持っているところも、ケンカしたら先に折れてくれるところも、私とうりふたつの
最後のはいらんだろ!!
「……」
ほら、お父様が俺のこと険しい目で見てるよ!? 大丈夫!?
「だから言うわ。ニト、私と……結婚して欲しい」
ラヴは俺の両手を取り、面と向き直り言った。
燃えるような深紅の瞳がまっすぐに俺を見つめている。
俺は嬉しさと不安がないまぜになりながらも、彼女を見つめ返した。
なんとも形容しがたい気持ちが身体の内側にあふれていく。
「……ありがとう」
それは押さえきれずに決壊して、熱い涙となって目からこぼれだした。
「え!? ニト!?」
「ううう……うわああああああん!!」
年甲斐もなく泣いた。
泣いて泣いて泣きまくった。
……
…………
………………
「うっ……えぐっ……ぐすっ……」
しばらくしてようやく落ち着いた。
「ニト、ご、ごめんね? なんか驚かせちゃった……?」
「い、いや……俺の方こそ……ごめんな?」
疑いようのない好意が、愛情が、こんなにも心地良いものだということを、初めて知った。
「……ゆっくりで、良いのよ?」
「……」
答えを待つラヴの表情をまじまじと見つめる。
この旅を通じて彼女を知った。
仲間を想う気持ち。
決して屈しない強い心。
どんなにつんとした態度をとっていても、隠しようの無い深い優しさ。
そんな彼女が俺に気持ちを伝えてくれた。
ならば、俺も全力で応えたい。
「……すまん、ラヴ」
「……」
俺の返答に彼女がうつむきそうになる、その刹那。
「まずはお付き合いからよろしくお願いします!!」
「!?」
そう言って俺は初めて自分から彼女を抱きしめた。
「俺はもっと、ラヴのことをたくさん知りたい。
強いところだけじゃなくて、弱いところももっと見せて欲しい。
ふたりで一緒に、いろんな場所に行こう。
いろんなものを食べよう。
いろんなことをしよう。
ケンカも仲直りも沢山しよう。
またいつか、とんでもない危機に見舞われても、ふたりで乗り越えよう」
自然と言葉が沸いて出たことに自分でも驚く。
……用意なんて何もしていなかったのに。
「もう……ニトったら、私よりプロポーズみたいなこと言うのね」
「すまん。……ちょっと重かったか?」
「ううん。そんなわけない」
ラヴの腕が俺の背に回り、強く抱きしめられる。
それから優しく――ゆっくりと俺たちはくちづけをかわした。
「……伝わったでしょ、私の気持ちも」
「……ああ」
互いに涙ぐみながら確かめ合う。
「……そういう訳でお父様?」
「ふふ……好きにせい」
こうして一人の男はとある世界でひとつの種族を救い、最愛の人と出会った。
それにしても出来過ぎたお話だ。まるで誰かが仕組んだみたいに。
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