第7章 それから
エピローグ
あれから数年。
「はあ、いよいよ明日か」
明日の準備を終えた俺は自宅にて一息ついている。
「
あれから……
大変だったんだよ!?
マジで大変だった。
まずは魔族と人間の間に立ち、世界を俯瞰するポジションに立った。
そんで、世界をいい方向へ導くために、あらゆる課題をリストアップすることから始めた。
そしたらその課題の多いこと多いこと。
そんでひたすら働きまくったんだけど……
解決していくうちに、次の課題が生まれている、というね(泣)
具体的に言うと、異国からの侵略者だったり、更なる異種族の出現だったり、とんでもない魔力災害が起こったりとてんやわんや。
正直、「もうダメじゃね?」と折れかけたことも何度もあったが――
その都度みんなで乗り越えてきて今がある。
魔族のみんなには引き続き世話になっている。
仕事の困りごとがあった時も、一番に頼るのは彼らだ。
そういえば最近、リンが人間の男と恋仲になった。
それによって父親のアルが情緒不安定になったり、ライラックが嫉妬したりと色々あった。が、人間の彼氏の方も気の良いヤツでなんだかんだ上手くいっている。
王政は国民からの信用を取り戻すべく大奮闘。
あの王様と家臣たちにやる気を出させるのは骨が折れたよ?
でも、やってることが軌道に乗ると「お前を信じて良かった」と言ってもらえた。今ではいい関係を築けている。
図書館の主、ネネには引き続き情報面でサポートしてもらうことが多い。
ここぞというときの神様・仏様・ネネ様! ってくらい頼りにさせてもらってる。
近頃は『ニト様についてもっと知りたいので、一夫多妻制を導入してお嫁さんにして欲しいっす』とかいう衝撃的な内容の手紙が届いたが……とりあえず返事は保留。
――ああ、変態銀髪勇者、ルルのことも忘れちゃいけない。
彼女には思いのほか役に立ってもらっている。
「これを何とかしたら一戦交えてもいいよ!」とお願いすれば即座に問題を片付けてくれる。まさに超ハイスペックなビジネスパートナー。
ただ、お願い一つと引き換えに、山ひとつが吹き飛ぶほどの激戦を強いられるのでそこらへんは何とかしたいところだが……。
そして、現魔王であり最愛の人であるラヴ・ドラゴハート。
彼女は父親である前魔王ギグのサポートを受けつつ外交やら内政やらに忙しい。
が、きっちりと成果を出している上に、その真摯な姿勢に魔族だけでなく人間たちからも多大な人気と信頼を得ている。
気になる俺との仲については上手くいっているのだが――
『ニト、明日は覚悟なさい? 容赦なくボッコボコにしてあげるんだから……!』
と、昼間会った時に脅迫めいたことを言われた。
「ふふ、俺も覚悟を決めなきゃな」
もちろん、彼女の言葉には理由がある。
ようやく色々なことがひと段落しそうな今日この頃。
明日は一段と、特別な日になりそうだ。
*
翌日、俺が主催するイベントの日。
国でもっとも栄えている街のとある酒場にて。
「みんな、今日はよく集まってくれた!」
俺の目の前にはたくさんの人たち。
魔族のみんな、ルル、ネネ、お忍びで来ている王宮の偉い奴ら、ラビリエルの商人……などなど。
「改めて言わせてもらうが、仮想現実構築事業はみんなの力が無ければここまで来ることは出来なかった。本当にありがとう!」
仮想現実構築。
ひとことでいうと、VRの魔法版である。
異空間魔法や幻影魔法、精神系の魔法を応用して仮想空間を構築するのだ。
様々な事業に応用することで文明の進化を飛躍させる可能性を秘めている。
今回、それを何に応用するかというと――
「今日はそのお礼として、存分に楽しんでくれたらうれしい。
このゲーム大会で優勝したヤツは、欲しいものをひとつ、何でもくれてやる!!」
「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」
エンターテイメントである。
「仮想現実構築の技術の応用で、自分のアバターを仮想空間で戦わせる格闘ゲームを開発した。
対戦の様子は特殊な装置によってこのモニターに映し出される」
軽く説明をすると、会場のみんながにぎわいだす。
「うふふ。ニト様をもらって、年中戦ってもらうわ……♡」
物騒な願いを言うのはルル・バーサーク。
こいつを優勝させるわけにはいかねえな……。
「一夫多妻制を通してもらいたいっすね」
深緑の瞳で俺を見るのはネネ・キュリオス。
先日の手紙の返事はまだか? といった目つきだ。
「ニト様をボッコボコにしてやるぜ~?」
「いいえ、私が勝ちます!」
「ゲームでこそ魔族の精鋭トップの力を披露して差し上げます……!」
魔族のみんなも燃えてやがる。
そして、彼女も。
「ニト!!」
その声に周囲が静まり返る。
「私が優勝したあかつきには……あなたの人生を貰うわ!!」
燃えるような深紅の瞳。
声の正体はラヴ・ドラゴハート。
「ふうう!!」
「おアツいねえ!」
「いよっ、我が国のベストカップル!」
ラヴのプロポーズ宣言にヤジが飛び交った。
「……いいぜ。受けて立とう!!」
かくしてゲーム大会は大いににぎわいを見せる。
*
「はあ~、楽しかった~!」
夜。ちょっとお高めの宿の最上階の部屋にて。
俺とラヴはベッドに腰かけ、まったりと過ごしていた。
「もうあれが結婚式で良くない?」
「確かに」
ゲーム大会の結果は、決勝で俺とラヴが戦い、彼女が勝利。宣言通り彼女はその場でプロポーズし、俺がそれを承諾すると飲めや踊れやの大騒ぎとなった。
「ほんと、用意してたみたいに出しものとかするからびっくりよね!」
「ははは……」
リンが歌ったり、ラビリエルの仲良いやつらが踊ったり、唐突に会場入りした前魔王ギグが『娘はやらん!』とか泣き出したり……
「最高だったな」
こんなに楽しいことが現実にあっていいのだろうか?
もしかしたら俺は、長い夢を見ているのかもしれない。
「っていうか、ニトが勝ったらどうするつもりだったの?」
「そんなの俺からプロポーズするに決まってるだろ……」
「! ……えへへ」
俺の言葉に照れ笑いをするラヴ。
照れながら……彼女は俺に、身体をぴたりと密着させる。
――この温もりは、まごうことなく現実だ。
「ニト。私、もうひとつ……いえ、ひとつと言わずに欲しいものがあるの……」
「……なんだ?」
彼女の柔らかな身体が、俺の腕に押し付けられる。
心臓が、高鳴る。
「……ニトの子どもが欲しいな」
そう言って熱っぽい上目づかいで俺を見つめるラヴ。
これはさすがに我慢できそうにない。
「ラヴ……」
「ニト……」
俺と彼女は向かい合い、目をまっすぐにみつめ、くちびるを寄せようと、
コン、コン!
……したところでノックの音が響いた。
実に間が悪い!
「……ラヴ、ちょっと待ってろ」
こくりとうなずく彼女を後ろに、扉へ向かう。
嫌な予感しかしないが、開けない訳にもいかない。
意を決して開いた瞬間――
どおおおおおん!!
爆風が部屋の中に入り込み、俺の身体は部屋の窓を突き破り宙へと投げ出された。
「くそ! やっぱりかよ!!」
転生してこのかた、何度ふっとばされてきたか分からない。
はあ。こんな時くらい幸せを噛みしめさせてくれよ……
などと脳内で不満を垂れていたら、
「……?」
落下していくはずの俺の身体がふわりと浮いた。
「ふふ。吹き飛ばされるのも悪くないわね」
上から聞こえたのはラヴの声。どうやら一緒に吹き飛ばされたらしい。
「よいしょっと」
彼女は俺の身体を抱きかかえると、翼を広げて滞空した。
「言ったでしょ? どんな困難も二人で乗り越えるって」
「ああ……」
それは今日の昼間、みんなの前で”誓いの言葉”の真似ごとをしたときのこと。
「神父役のアルギルドの前で言ったよな。健やかなるときも、病める時も、」
「側にいることを……ってね」
言うや俺たちは笑い合う。
そうだ。俺はもう一人じゃない。
支えてくれるみんながいる。
そして、一緒に歩むと言ってくれる、最高のパートナーがいる。
「君と一緒なら、どんな地獄でも楽しそうだ」
「……私も」
満月の下、澄み切った空気の中。
短い口づけを交わすと、俺たちの新しい戦いが幕を開けた。
<了>
チュートリアルで魔王を倒してしまった~代わりに魔王になって世界征服します。ただし、無双するのは俺以外~ こばなし @anima369
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