第39話 とある新図書館長の展望
あれから数十日後。
「館長、あの書類まだですか?」
「あれ? まだ渡してなかったすか?」
私は
『ワシの死後は孫に図書館長を引き継ぐ!』
……というのがじいちゃんの遺言だそうで。
「も~、あれ出さないと教育機関のお偉い方に怒られちゃうんですよ~!」
「ご、ごめんっす……」
じいちゃんが余裕そうだったから私にも余裕かな?
って感じで甘く見てたっす。
ふたを開けてみたらデスクワークが思いのほか多くてマジで大変っすよ~!
まあでも、事務仕事は私の管轄外だと思うんすよね。
私の本質は記者!
調べごとこそ我がライフワーク!
「ハンコ渡すから、押しといてほしいっす」
「えっ、館長……!? ちょ、どこ行くんですか!?」
「大丈夫っす、目はちゃんと通してあるっすから。あとは押すだけっすよ」
館長補佐の彼女は超有能なのでこれくらい大丈夫っす。
「さて、各方面の経過を見ないとっすね」
調べごとに勤しまねば。
私には私にしかできないことがあるっす。
*
「よーいしょっと」
自室に持ち込んだ資料の数々。
それらの広報誌や新聞、学会の書物等に目を通すと。
「……さすがにもちきりっすね」
この国と魔族に関しての話題が、どの資料にもいーっぱい!
それもそのはず。
ニトさんたちへのインタビューは記事になって国中に広まったっす。
私が調べてまとめ上げた真実と一緒に。
普通はこういう”国側に不利に働く内容”の記事を出版社に出すと検閲ではじかれるっす。
でも今回は出版社を通さず、ニトさんが自費で印刷屋さんに刷り出してもらったんすよ。
なんでも、ラビリエルの印刷屋さんがニトさんのことを気に入っているらしくて。
『ラヴの
今度会った時、要質問っすね。
さておき、広まった記事は嘘偽りなく彼の主張を世に広めたっす。
――魔族に人間への敵対意識は無い。今までもこれからも。
――人間と魔族が手を取り合って新しい時代を築くべきだ。
記事にはそういった彼の主張をしっかり書いたっす!
ついでに新しい魔王のパーソナリティについて書こうとしたんすけど、止められました。
『三度の飯よりエロが好き』って書きたかったのに……残念っす。
で、それからのことなんすけど。
記事発行から今日にいたるまで、あちらこちらで記事の内容を検証する活動が盛んになったっす。
魔族に害意は無いということがラビリエルの人たちによって証言されたり。
魔族に傷つけられたと言っていた人たちの発言が実は嘘だったことが判明したり。
もっとも大きかったのは、王国側の自作自演説が多くの人々の支持を得たことっすね。
何を隠そう、それこそ私が調べてまとめ上げたことっす。
前魔王のギグ・ドラゴハートの発言と、過去の文献による分析結果から導き出した説になるっす。
内容を簡単に説明すると、『魔族は人間に敵対する悪いヤツら!』みたいなイメージ操作を行うために、王国側が破壊工作をしたり、あることないことでっち上げて印象操作してたって話っすね。
すべては『魔王特需』によるこの国の発展のためだと思われるっすけど……そこらへんは王様に聞いてみないと分からないっす。
たぶん、目を付けられてる私が王宮へ出向いたら即死刑でしょうけど。あは!
そんなこんなで魔族に対する偏見は薄れつつあるっす。
『魔王特需』の恩恵なんて無くったって、これからの人類がいい方向に進んでいけるよう、私にできることをやっていきたいっす!
「ニトさんたち、ちゃんと元気してるかなあ……」
資料に目を通してひと段落。
ふと、彼らのことが頭に浮かんだっす。
じいちゃんと別れたあの日から。
インタビューやら記事作成やらを手伝ってもらって、数日後には新しい魔族の拠点に戻っていったっすね。
もちろん彼らが欲しがっていた情報は伝えたっすよ?
『魔王特需』や創世の賢者について。
前者についてはニトさんもラヴさんも大方予想通りだったみたいでしたけど、後者について知った時のニトさん、めちゃくちゃ残念そうでした。
『ああ、俺の異世界転生無双物語があッ……!』とかなんとか言ってたっすけど……異世界ってどこのことっすかね? 今度聞いてみたいっす。
もう一つの要求だった魔道具もたくさんプレゼントしたっすよ。
残念そうにしていたニトさんも、『これで俺もちゃんと無双できる!』って息を吹き返してたっす。まあ、攻撃魔法が使えないことに変わりはないんすけどね……。
「きっと、新しい世界に変わっていくんだろうなあ……」
***
後になって思えばこの時の私はのんきなものでした。
これからニトさんたちに訪れる、最大の危機なんて知る由もなしに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます