清瀧にて

part Kon 8/8 pm 8:17




「ご馳走様でしたー!」



 ホントに美味しいご飯。

 民宿やってたってだけあって 本格的なお料理が出た。

 鮎の姿焼きとか 天ぷらとか そーゆー感じ。

 

 民宿やってたってことなんだけど 中は 普通のお家。

 まあ うちは もちろん 桜台の亜樹の家より まだ広いんだけどさ。

 亜樹パパが 設計したらしいから 亜樹ん家に 似てるのは 当然ちゃー当然。

 ご飯は 食堂じゃなく 家族用のダイニングで。

  

 5日間も お世話になるし 宿泊代は 払うって言った。

 だけど 亜樹の友だちだからってことで 断られちゃった。

 なのに こんな豪華なご飯。


 例によって手土産は〈コメット〉のクッキー詰め合わせだけ。

 しかも おやつの時に あたしも一緒に食べたし。

 ホント 申し訳ない感じ。


 ……いや。

 美味しくて 山菜ご飯 お代わりしたけど…さ。

 運動して無いのに たくさん食べてるから ちょっと ヤバいかも。



「亜樹ちゃん 瞳ちゃん お風呂 行っといでな」



 おばあちゃんが お風呂を 勧めてくれる。

 亜樹のおばあちゃんは けっこう小柄。

 亜樹より低いかも 145㎝くらいかな?

 すっごい優しくて 気が回る感じが 亜樹とよく似てる。

 


「いえ あの あたし 洗い物します」



 いや ホント それぐらいは しないと…。

 申し訳なさ過ぎる。



「瞳 先 入ってきなよ。ボク 洗い物しとくし」



 と 笑顔で 亜樹。

 

 ハァ?

 おばあちゃんは ともかく 亜樹 なんで アンタが 風呂 勧めてんのよ?

 意味 ワカンナイんだけど?



「亜樹ちゃん 別に 構わないよ おばあちゃん やっとくから 一緒に 入っといでな…」


「いっ いや。……あ あの それは マズいってゆーか…さ。大丈夫だから…」



 亜樹は なんか ぎこちない感じで 言い訳して お風呂に行くのを 回避しようとしている。


 ナニそれ?

 カチンとくる。

 

 あんなに 男らしく『瞳のこと 抱きたい』とか カッコつけたクセに この期に及んで ビビってるワケ?

 あたしが どんな想いで この旅行に来たと思ってんのかしら?

 


「亜樹。ちょっと来て?」



 亜樹を 人のいない食堂の方へ呼び出す。



「亜樹。おばあちゃんも 言ってくれてんだし 一緒に入ろ?」



 そう。

 怒っちゃダメ。

 初デートのとき 怒っちゃって 前半戦 すったもんだした。

 今じゃ 笑い話だけど 初お泊まりも ドタバタ劇に したくは ない。


 ここは あくまでも 笑顔で。

 

 って 思うけど 自分でも 笑顔が 引き吊ってるのが わかる。


 

「そりゃ おばあちゃん ボクのこと〈女の子〉って 思ってるから」


「でしょ? 女の子同士だから 大丈夫じゃん」


「えっ? いや…。 …だって そりゃ 身体は 女の子だけど。……瞳まで 何 言ってるんだよ」



 なんか ゴニョゴニョ言って 会話が噛み合わない。

 


「ナニ? あたしと 入るの嫌なワケ?」



 ああ。

 ダメだ。

 結局 ケンカ腰。


 

「だって ボク〈男の子〉なんだよ? 瞳こそ 今さら 何 言ってんだよ!」


「今さらは そっちでしょ? あんな カッコつけてたクセに……この ヘタレ!」


  

 亜樹も 怒った顔で 言い返してくる。



「ヘタレって なんだよ!ボクのこと 男だって 知ってるクセに!男と女で お風呂とか 入れるワケないじゃん!」


「ハァ? あたし達 恋人同士でしょ!?」



 そこまで 言って ハッと気づく。

 もしかして…?


 案の定 亜樹は 少し赤い顔して 黙ってる。


 

「……もしかして 恋人同士が 一緒に お風呂入るって 知らなかった?」



 亜樹が 小さく頷く。


 そう。

 いつも カッコよくて 男らしい 亜樹。

 だけど 亜樹は ウブで オクテで その上 お嬢様育ち。

 恋人同士が お風呂で イチャイチャとか 知らなかったらしい…。


  

 カワイイ。

 超~カワイイ。


 ちょっと からかってみたくなる。



「ねぇ…。オトコとオンナで お風呂入ろ? いろいろ 教えて ア·ゲ·ル」



 耳元に 唇 寄せて できるだけ 妖しく。

 こないだの 仕返し。

 

 ……いや。

 実際は いろいろ教えてあげれるような 経験なんて ないけど…。


 でも 亜樹は あたしの発言が ハッタリだって わかんなかったみたい。

 真っ赤になって 身体を硬くしてる。


 熱々になってる 耳たぶを 甘噛みする。



「――ヒャッ」



 可愛い悲鳴。

 ゾクゾクする。



「……ほら? おばあちゃんに 一緒に お風呂行ってくるって 言ってきて?」

 


 亜樹は 真っ赤な顔で 頷くと 台所へともどっていった……。

 ………。

 ……。

 …。

 


  

 

  


 

 

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