part Kon 11/23 am 11:07



 


 けっこう冷たい北風が 前から吹き付けてくる。

 前髪が吹き上げられ まともに前が見れないくらいの強風。

 だけど あたしの心は ポカポカ。


 真っ赤に染まった紅葉葉楓の並木道を 亜樹と2人で歩く。

 あたしの左手と亜樹の右手は 恋人つなぎ中。

 しかも繋いだ手は 亜樹のコートのポケット。



 あたし 彼氏とデートしてる。



 そんな実感が湧いてきて ヤバい。

 嬉しくって 恥ずかしくって 足の裏がムズムズする。




 あたしが 妄想してた マフラー2人巻きは 実際 やってみると なかなかキビシかった。

 身長差が ありすぎて スゴく歩きにくい。

 しかも 改札機を通り抜けできないことが判明。

 残念な結果に終わったのだった……。


 電車の中では 一昨日の綾創戦の話をしてた。

 例によって あたしが一方的に。

 亜樹は 相変わらずの聞き上手。

 ニコニコ相槌を打ってくれてた。



 光岡中央を越え 列車は 六ヶ杜に。

 あたし的には バレーのハナシできて 機嫌よく 電車を降りた。


 

 いつも通り 手を繋ごうと 手を出すと なんだか いつもより ちょっと乱暴に 亜樹が 手を伸ばしてくる。


 なんだろ?って思ってると 指を絡めて 恋人つなぎ。


 そのまま 黙って コートの中に引き込まれた。

 強引な感じにドキッとする。

 照れてるのか 怒ってるのか なんかムスッとしてるし。


 

 急に 男の子っぽい貌。


 

 さっき電車で 話 聞いてくれてるときと ぜんぜん 違う。

 あきちゃんだった頃には 見せてくれなかった貌に惹かれる。


 まだまだ知らない貌が見たい。

 亜樹のこと もっと知りたいって思わせてくれる。



「なんか 怒ってる?」


「……別に」


「手 暖かいね」



 亜樹のコートのポケットに手を入れてるから いつもより 距離が近い。

 綺麗な栗色の髪が すぐ側。

 仄かに 体温を感じるほど。


 今日の亜樹は オリーブグリーンのエプロンドレスに モスグレーのダッフルコート。

 カラシ色とモカ色に白チェックのマフラー。



 相変わらずの 上品で 可憐で 可愛い。

 完璧な美少女。


 

 でも 滲み出る雰囲気は男の子。

 ムスッとしてるクセに 何度も ぎゅっと手を握ってくる。

 しゃべんないけど。


 亜樹なりに 甘えてるのか?

 それとも 甘えて欲しいのかな?


 ぎゅ~って 握り返して 右手を 亜樹の右腕に絡ませる。

 栗色の髪に 頬を寄せて 匂いを嗅ぐ。

 甘い薫り。



「……何?」


「ん。亜樹と一緒に歩けて 幸せだなぁって」



 右肩に おっぱい押し付けてやる。

 ぎゅ~っって。


 思った通り ちょっと赤い顔して 亜樹が こっちを見上げてくる。

 やっぱ 男の子。

 スケベ。


 でも 気づかないフリして 話す。



「好き」


「うん。ボクも好き」


「……で 何 怒ってるの?」


「……別に 怒ってないよ」


「なんか ムスッとしてんじゃん」

 

「……ボクの背が低くて 2人巻きできなかったから」



 ああ。

 それ。

 気にしてたのか。

 

 別に 腕 組んで 歩けたし。

 恋人つなぎできてるし。

 あたし的には 満足だけど。



「亜樹も したかった?」


「中学生のときからの夢だったんでしょ?」


「まあね。でも あたしの〈もし彼氏ができたら〉シリーズって い~っぱいあるんだよ? そんなの 一々 叶えてたら 毎日 デートしても ぜんぜん 間に合わないよ?」


 

 ……いや マジで。



「恋人つなぎもできたし。腕 組んで歩くもできた。一緒にポケットもできた。今日だけで 3つクリア。まだまだ あるけど 頑張ってくれる?」


「うん。がんばる」



 なんか 真面目な顔して 約束してくれる。

  


「ホントに~? 休みの日に 朝 公園でジョギングとかもあるんだけど 付き合ってくれる?」


「えっ……それは……」


「ホラね~。無理しなくていいよ。あたしのワガママ 全部 付き合うことないの。あたし 亜樹のこと 本気だから…さ。だから あたしのために無理しないで。嫌なことは 嫌って言ってね?」


「うん」


 

 ずっと一緒にいたい。

 あたしといて 疲れるとか そーゆーのがサイアク。

 自然体でいて お互い落ち着く。

 そんな関係が理想。


 亜樹って 無理しそうだから そーゆーとこ 心配。

 何でも いいよ いいよ じゃなくて 嫌なことは 嫌って 言って欲しい。

 

 これは自分にも 当てはまる。

 亜樹に言われたら 何でもしてあげたい。

 

 だけど やっぱ 見栄 張ったらダメ。

 きっと 後でボロが出る。

 できないことは できないって ちゃんと 言わなきゃね。



「で 朝 一緒に 公園で ジョギングしたいんだけど?」


「……嫌だ」


「うん。それでいいよ。あたしも 嫌なことは嫌って言うようにするから」



 まあ 冗談は さておき ちょっとジョギングでもすればいいのにって思うけど。

 こないだも ちょっとの距離 走っただけで ハァハァ 言ってたし…。

 

 体力無さ過ぎ。

 すぐ 熱 出すし。

 

 細身で 身体も小さくて 手足長いから 長距離とか 速そうなタイプだと思うんだけどな。

 まあ きっぱり嫌って言い切ってたし 無理強いは できないけど。




 

「この角 曲がったら もうすぐ市立美術館」



 紅葉葉楓の並木道の終わり。

 十字路になったところで 亜樹が言う。

 

 六ヶ杜緑地の中には 市立美術館だけじゃなくて 文化ホールとか 県立中央図書館とか そーゆー感じの文化施設が集まってる。

 亜樹が 目指してる 市立美大も この近所みたいで 十字路に置かれた案内標識に 名前がある。



「市立美大も ここら辺なんだ?」


「あー うん。あの木の向こうに レンガ造りの塔 見えるじゃん。アレが市立美大」


「せっかくだし 見学しとく?」


「あー いや。今は いいや。美術館 終わったあと 弁天町行くから その時 前 通るし ちょっと見てもいいかもだけど」


「わかった。じゃあ 美術館の方 早く行こ?」



 ………。

 ……。

 …。



            to be continued in “part Aki 11/23 am 11:22”






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る