part Aki 11/23 am 9:17




 桜橋駅の改札前。

 辺りをぐるっと見回すけど 瞳の姿は見えない。念のため もう一度見回すけど 背の高い女の子の姿も見つからない。大丈夫だ。今日は 初デート。男としては 絶対に遅刻するワケにはいかない。〈学校帰りのお茶〉とは ワケが違う。念には念を入れて 15分前に待ち合わせ場所にきた。


 今日の デートコースで 瞳は喜んでくれるんだろうか?


 かなりの不安がある。初めは プレアデスに行って マイアタワーにある水族館『アクア・プラテネス』に行こうと思ってた。夜景は無理でも 星空風に演出された水槽とプラネタリウム。ロマンチックな感じで いいんじゃないかと思ったんだ。ボクは 前に行ったこともあるし 案内だってしてあげられる。ただ 入館料は けっこう高い。プラネタリウム付きのチケットは なかなかの値段。食事代なんかを考えると お小遣いが足りなかった。仕方ないから ママに お小遣いの前借りを 頼んだ。

 

 で そこで 口を滑らせて デートって言ったせいで デートプランを白状させられるハメに。そしてダメ出し。曰く『見栄張り過ぎ』『借金してデートするような男は 愛想尽かされる』……図星過ぎて ぐうの音も出ない。そして『自転車かバスで 菊野井モールでも 行って来たら?』って言われた。初デートだから 思い出に残るような所に行きたいって 抵抗すると 市立美術館の招待券を返してきた。『これは 亜樹ちゃんが もらったモノなんだから 一番大切な人に あげたらいいのよ。パパとママは また 自分達でお金出して行くから』『いいじゃない。晩秋の六ヶ杜。モミジバフウの並木道 きっと綺麗よ。十分 ロマンチックだと思うけど?』。


 

 なんのことは無い。

 ボクも こーちゃんのこと嘲えない。結局 ママにデートコース考えてもらってる。さすがに 今日のコーディネートは 自分で考えたけど…。さらにダメ押し『火曜日 お天気いいみたいだし お弁当 作って持っていったら? お金もかからないし お料理できる男の子だってアピールもできるし 一石二鳥よ?』。聖心館は いまだに校則の第一条に〈良き妻 賢き母として…〉とか 時代錯誤な文言が残ってるような 古風な女子校で 家庭科の授業に異様に熱心。普通の教科書以外に聖心大の先生が書いたってゆー 分厚い副読本も使って授業をしてる。そんな学校に5年も通ってるおかげで ボクは けっこう色々 料理が作れるようになっている。こないだの実習では 一から茶碗蒸しとか作らされた。それに比べれば お弁当のオカズくらい どーってことは無い。

 どーってことは無いけど ママの言いなりは 嫌だし なんと言っても面倒臭い。瞳には 近くのファーストフード店で テイクアウトして 公園で食べようって 提案した。そしたら 瞳が『あたし お弁当 作ってく』って。瞳の手料理食べられるのは 嬉しかったけど なんか ママの掌の上で踊らされてる気がして ちょっと微妙……。


 

 ……あとは 市立美術館。

 1Fのギャラリー。ここが 一応 目的地。こっちは 瞳もある程度は 興味を持って 観てくれるハズ。それはいい…。……問題は招待券のある〈はばたきのある風景~グリームスバーグとその時代~〉の方。グリームスバーグって 聞いたことのない作家で チラシを見た範囲じゃ 平面とインスタレーションとどっちも展示されてる。ワザワザ展覧会するような作家なんだから 善かれ悪しかれ ボクには学びがあるだろうと思うけど 瞳にとってはどーだろう? けっこう不安……。


 

 ツマンナかったときに備えて 公園西側の弁天町にある〈ノエル〉ってゆー喫茶店を調べておいた。チーズケーキが美味しいらしい。ただ この店は 今まで 行ったことのない店。口コミは よかったけど アテになんないときもあるからな…。



 初デートなのに ひどく後ろ向きだって?

 根暗で悪かったね。

 

 …いつものヤツは どーしたって?

 ……こないだも全然 当たってなかったし あーゆーのに 振り回されるのは もう止めたんだよ! 

 …………。。。



 ………わかった。正直に言うよ。

 10月17日生まれ 天秤座のボクの 今日の運勢は 総合運 12位。恋愛運 星1つ。要するに最悪ってこと。でも 星占いって 月に2回くらい 最下位の日もあるワケで そんなこと気に病む必要はない。たまたま その日が 初デートの日と重なっただけ。大丈夫。…大丈夫のハズ。

 5月19日生まれ 牡牛座の瞳は 総合運 6位。恋愛運 星2つ。まあまあってとこ。2人でデートするんだし 悲惨なことにはならない……たぶん。




 

 

「ゴメン。亜樹。けっこう待った?」



 突然 背後から声をかけられる。



「ひっ!? あっ 瞳 おはよう。ううん。大丈夫 ボクも 今 来たとこ」



 チラッと 電光掲示板の時計を見る。

 9:26

 不覚。待ち合わせ5分前になってるんだから 当然 周りの様子気にしてなきゃいけなかった。瞳の方から 声 かけられるとか 油断だな。減点1。でも ちゃんと『ボク』って言えた。それは オッケー。桜橋にいると 周りの目を気にして〈あき〉喋りになっちゃう。だけど 今日は デート。2人で思い出を作るんだ。瞳は ボクに会いにきてくれてる。〈あき〉にじゃない。


 今日の瞳は 約束通り臙脂のエプロンドレス。アウターは いつもの黒いジャンパー。首には 長い暗紅色の毛糸マフラー。今日は いい天気だけど 風が強くて かなりの寒さ。防寒しっかりしてないと けっこう辛い。外で食べようなんて提案が そもそも間違ってた気がする。星光市は 12月になると雪が降る。11月中に初雪って年も たまにある。今日が そうならなきゃいいけど…。


 

「今日 寒いね~」


「ホントに。外で食べようなんて言ってゴメン。お弁当は 楽しみだけど」


「ぜんぜん 大したことないから そんなに期待しないでよ~。でも ポテトフライは 入れといた。好きなんでしょ?」



 昨日の朝 『亜樹は何が好物?』って 聞かれて つい『ポテトフライ』って答えてしまった。だけど お弁当に入れちゃうと冷え冷えだよね…。冷えたポテトフライって 美味しくないものの代表選手。自業自得だけど …。デートへの不安がさらに高まる。



「…亜樹 そのチェックのマフラー 可愛いね」



 今日は 特別寒いから ママのカシミアのマフラーを借りてきた。海外の有名ブランドのヤツ。今日のコートに色もよく合うし。高級品だけあって 確かに 毎年 使ってるヤツより断然 暖かい。クリスマスプレゼントに ねだってみようかな? 瞳がマフラーしてるのは 初めて見た。運動してるせいだと思うけど 瞳はいつも けっこう薄着。そんな瞳がマフラーするんだから 今日の寒さがよくわかる。よく見たら 長いどころか かなり長くて グルグル巻きに 首に巻いてる。



「ボクのじゃなくって ママの借りたんだけどね……今日は寒いから。瞳も マフラーグルグル巻きじゃん?」


「あ。うん。寒いしね」



 あれ? なんか元気ない? やっぱり デートコース いまいちって思われてるのかな…?



「……あの デート 寒いし どっか違うところに行く?」


「えっ? 大丈夫。そんなに寒くないし」


「いや でも なんか長いマフラー グルグル巻きにしてるし…。それに元気ないみたいじゃん」


「えっ?そんなことないよ。元気が取り柄の瞳ちゃんだし。この程度の寒さぐらい ぜんぜん 平気」



 ニッコリ微笑んでくれるけど なんか 引っ掛かってる感じがする。じっと瞳の顔を見る。怒ったりしてるワケじゃなさそうだけど。ボクの視線に気づいて 瞳がちょっと視線を逸らす。少しむくれた顔して モジモジしてる。ボクのカワイイ彼女だ。

 


「……いやさぁ。笑わない?」


「うん。何でも話して」


「このマフラーさぁ 中学生のときに編んだヤツなんだけど……」



 そう言えば 手編み感 溢れるシンプルなデザイン。



「ホントに笑わない?」



 ……そこまで言われると 自信 失くなってくるけど。でも ここで笑っちゃ 彼氏 失格だよね。

 


「うん。約束する」


「コレさ。彼氏ができたら 2人巻きしたいなぁって思って……めっちゃ長く編んじゃったの」



 2人巻きって 恋人同士で1本のマフラーってアレか……。イラストとかでは見かけるけど 実際 やってる人は 見たことないかも。



「ホラ やっぱり笑った。ゴメン。忘れて…」


「笑ってないよ。瞳ってカワイイなって思っただけ。やってみよ」

 


 そう言いながら ママのマフラーを外して トートバッグにしまう。そう。他の人が どー思うとか ママの思惑通りとか ホント どーでもいい。初めてのデート。ボク達2人の世界。ボクと瞳が やりたいことを やりたいようにやるだけ。デートプランも どーでもいいや。上手くいかなきゃ その時 2人で考えよう。ボクと瞳だ きっと 楽しいこと思いつく。大丈夫だ。


 ……ただ マフラー2人巻きはどーだろう? 気持ちは嬉しいけど 身長差がな……。

 ………。

 ……。

 …。

 


            to be continued in “part Kon 11/23 am 11:07”






 

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