part Aki 12/24 pm 5:04



 

 「どこか 行きたいとこある?」



 さっき 地下鉄の中で聞いたときは 瞳に意味 伝わってなかったみたい。でも 2回目は ちゃんと伝わってたハズ。だって 『ご飯食べて帰る』って 家に連絡の電話してたし。瞳は ボクが 聞いてることの意味 解ってるハズ……。


 なのに『どこか 行きたいとこある?』への 返答は 突然のハグとキス。

 ……なんでだよ? ワケわかんないし。しかも こんな みんな 見てるような場所でキスとか 絶対 ダメ。抗議の気持ちで 身を捩るけど 力で敵うハズもない…。ぎゅっと抱きしめられて 唇を塞がれる。温かくて優しいキス。長い腕で包み込まれてる感じも 温かい。コレ ヤバい…。めっちゃ女の子気分になる。……暖かくって 柔らかくって ホント 幸せ。アタマの片隅で『ヤバい ヤバい…』って 警報が 鳴り続いてるけど こんな 気持ちいいキス 止められるハズもない…。もっと欲しくて 瞳の背中に手を回す。暖かさと幸せに包まれる。永遠に続くような幸せな時間。って思てるのに ホンの一瞬 キスが途切れる。


 一瞬 瞳の気が逸れた。ちょっとイラッとする。ボクだけ見てて欲しいのに…。……でも その瞬間 麻痺していた理性が甦る。何 考えてんだ ボク。ここは ルミナスのイルミネーションツリー前。TV中継だって来てるかも しれない場所。噂じゃ 生徒指導の先生達が 見廻りするって…。アタマの中の警報がガンガン鳴る。『不純性異性交遊禁止』の校則違反すると 親と一緒に反省文 提出しなきゃなんないらしい…。ママの頃だと 最悪 退学もあり得たってゆーし。そうそう引っ掛かる違反じゃないけど 制服姿でキスしてるとこTVに映ったら さすがに言い逃れできない。……ヤバ過ぎる事態だ。


 唇を離し 瞳の手を曳いて 下りエスカレーターへと向かう。ツリーの真ん前じゃ なかったし 声とかも掛けられてないから 大丈夫のハズだけど できるだけ この場から遠ざかっておきたい。



「……あんなの 気にすること無いって。あたし達『恋人同士』でしょ?」



 瞳は 急に 移動始めたから ちょっと困惑気味。

 

 

「あー まぁ それは そうなんだけど……」


「いーじゃん。恋人同士なんだし 堂々としてようよ」



 ボクが なんか聞こえてきたこと 気にしてると思ったみたい。『恋人同士』ってことに拘ってる。……でも そこじゃない。


 

「あー いや。そっちじゃなくて。ほら ボク 今日は制服着てるでしょ? 噂だとさ クリスマスの夕方って 生徒指導の先生達が 繁華街をパトロールしてるらしいんだって…。目立つ場所で キスは ちょっとヤバかったかも……」



 生徒指導って聞いて 瞳は 怪訝な顔。まぁ 藤工は ウチほど 校則 意味不明ってこと無いだろうしな……。ただ ボクの心配そうな顔見て 心配そうな顔して 寄り添ってくれる。



「……ヤバい?」


「たぶん 大丈夫だとは思うけど…。……ちょっとドキドキした」



 長い下りエレベーターの上で もう一度訊く。



「で ご飯 何処がいい?」


「ん。あたし ルミナスって あんま来ないから お店知らないんだよね…。亜樹のオススメで 大丈夫 大丈夫」


「ボクも そんなに知らないけど GWに来たときは イタリアンのお店行ったんだ。けっこう美味しかった。……たしか 5Fだったような 気がする」


「イタリアン いいじゃん。ピザ 食べたい」


「じゃ そこ 行ってみよ。あっちにエレベーターあるハズ…」



 ……。

 …。



「……ダメみたい。予約で 9時まで いっぱいだって…」


「そーなんだ…。……ルミナスって 他にも イロイロお店あるんでしょ? ウロウロ面白そうなお店 見ながら どっか 入れそうなとこ 探してみよ?」



 思ってたお店に入れなくて 焦るボク。さっさと次の方針決めて 歩き始める瞳。まぁ いつも通りって言えば いつも通り。焦ることないな…。



「亜樹は よく来るの?」


「あー 5Fは けっこう 久しぶりかも…。GW以来かな? 地下1Fの本屋さんとか 3Fの画材屋さんとかは 学校帰りによく行くんだけど…」


「1人で?」


「GWは 5人で来て 服 見たりした。学校帰りは たいてい 1人かな。たまに なっちゃんと一緒って感じ」


「ふーん」



 『なっちゃん』って聞いた瞬間 瞳の顔が曇る。やっぱり さっきの『女の子同士とか絶対ダメ』発言が気になるんだろうな…。『恋人同士だからいい』ってゆーのに拘ってたのも『女の子同士』って見られてること 気にしてるからだろうし…。



「……あのさ。もし 気になるんだったら 髪 切って ズボン穿いて もうちょっと男の子っぽい格好しようか? 学校 行く日はムリだけど デートのときとか…さ」


「えっ? なんで?」


「……だって『女の子同士』って見られてるの 気になるんでしょ?」


「ううん。ぜんぜん」



 瞳は 即答してくれるどけど ボクはまだ 不安。瞳の顔を 見つめてしまう。ボクの視線に気づいたのか 瞳は 小さくタメ息をついて 口を開く。



「……まあ『ぜんぜん』って言ったら ウソになるかも。正直 ちょっとは 気になるよ。さっき キスしてたときも『アレって 女の子同士だよね?』みたいなこと言ってる人いたし…。でも あたし達『男の子』『女の子』の前に『恋人同士』だって思ってるの……あたしは」


「うん」


「まあ 亜樹がしたいんだったら 男の子っぽい格好してくれても ぜんぜん いいけど。これは 前にも言ったけど 亜樹が 亜樹らしいと思える格好してくれたらいいし」


「うん。ありがと」


「だから あたしのために着るんだったら止めといてね。あたしは 亜樹の男っぽい性格が好きだけど そのカワイイ見た目も大好きだし」



 『カワイイ』って言ってもらえるのは 嫌な気分じゃないけど 相変わらず 微妙な感じ。まぁ『マッチョで男らしい』って言われたいワケでもない。ボク自身も ボクの見た目には フェミニンな格好が似合うとは思うしな…。……ただ それが〈ボク〉らしいのか どーかは よくわかんない。



「前さ エプロンドレス考えてくれたじゃん。他にも ボクに着て欲しい服とかある?」



 雑談がてら 瞳に話題を振ってみる。瞳は『自分らしく』って言ってくれてるけど 自分で決めれないんだったら 瞳 好みの格好しといたら いい気もするし…。

 あれ? なんか 眼をキラキラさせてる。



「なんかさ 亜樹が男の子ってわかってからさ… 可愛い服 着て欲しいとか 思っちゃ悪いのかなぁ…って 思ってたんだ。だから 自分から そんなこと 聞いてくれて ちょっと嬉しいかも。亜樹って 見てると 夢 膨らむんだよね~。部活 忙しくて 最近 なかなか イメージラフとか 描けてないんだけど ホントは イロイロ作って 亜樹に着て欲しいって思ってるの」


「あー そーなんだ」



 エプロンドレスのラフ見せてくれたときも スゴい嬉しそうだったもんな。瞳のデザインって けっこう少女趣味。でも 瞳が着てる服は 大抵 ボーイッシュな感じ。自分で着れなさそうって思うようなデザインを ボクに着て欲しいんだな。けど 瞳って 背は高いけど 女性的な体型だし エプロンドレスのときみたいに 女の子っぽい格好も そこそこ似合うと思うんだけどね…。


 

「うん。さっきも ゴスロリとか いいかもって思ったんだけど…… どう? ピンク系でピンクロリータとかも 絶対 似合うと思うし。ヒラヒラ フワフワ 着てみたくない?」



 ゴスロリに ピンクロリータ……。体型的に 着れなくは ない。確かに 少なくとも 瞳よりは 似合うとは 思う。けど ロリータ系って 好みじゃない。背が低いせいかな? ちっちゃくて可愛いってゆーよりは もうちょい大人っぽく見られるファッションの方が 好み。瞳には 申し訳ないけど。



「……ゴメン。悪いけど 趣味じゃない。女の子っぽい格好は いいんだけど もうちょい大人っぽく見られるファッションがいいかな」


「……そっか。残念」


 

 瞳は けっこう残念そう。……なんか 悪いことしたかな。瞳の笑顔のために 全力って思ってたハズでは あるけど…。『彼女の笑顔のためにピンクロリータを着る』って ボクの思い描いてた彼氏像とは 程遠い感じではある。

 


「亜樹は あたしに着て欲しい服とかある?」



 えっ? なんだろ? 瞳は スタイル抜群だしな。露出高めのセクシーな格好とか してくれたら ドキドキしそうだけど…。学校行くときは ミニスカだしな。アレも 毎日 見てるけど 相変わらずドキドキする。告白した日に はじめ着てた ニットワンピースも けっこう身体のラインが出てて いい感じだったし……。


 

「……エロいこと 考えてるでしょ? 顔に出てる」



 ハッと 気がつくと 瞳が ジト目で睨んでた。



「えっ!? そっ そんなこと…ないよ?」


「な~んか そーゆーとこ やっぱ 男子だよね~。これも さっき言ったけど 亜樹が 女子校に通ってるのって 心配なんだよね。どーしよーもないと思うし 他の子の着替え見ちゃうとかは 我慢するけど 浮気は 絶対 許さないからね?」


「そんなこと 絶対しないから…」


「絶対だよ? 亜樹からいくことは もちろんだけど 告白されたときとか キッチリ断ってよね? 亜樹 優しいから スッゴく心配……」



 ……瞳が また 面倒臭いモードに なってる。ボクが浮気するんじゃないかって心配してる。するワケ無いのに。自分に自信持てなくて不安になっちゃうみたい。前から そーゆーとこあるのは知ってたけど 付き合うようになってからは ちょっと面倒臭い。『ボクだけの瞳』『瞳だけのボク』って 安心させてあげる方法って なんか無いのかな? 何回 口で説明しても すぐに不安になっちゃうみたいだし。

 ………。

 ……。

 …。


 

  



 

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