【完結】その瞳には アキが来ない

part Kon 12/24 pm 7:20

「さて 次は ４枚目 ５枚目 ６枚目っと…」

　七海さんが ３枚続けて カードをめくる。

　４枚目が 左側 ２枚目の上。

　片足立ちした 男の人。

　……いや。

　ローマ数字がこっち側だから 正位置ってこと。

　ってことは ひっくり返った男。

　よく見ると 左足がロープで木に縛られている。

　よくわかんないけど あんま 縁起いい感じじゃない…。

　５枚目は 右側 ３枚目の上。

　白い帽子の髭の男の人。

　僧侶って感じ。

　これも 正位置。

　６枚目。

　六角形の下の頂点。

　死神。

　大鎌持った骸骨。

　絶対 死神。

　Deathって書いてあるし……。

　１００% 縁起悪い。

　占いなんて アテには ならないけど かなりイヤな感じ……。

　チラッと横見ると 亜樹の顔も 引き吊り気味。

　お互い 握り合った手に力を入れる。

　２人が しっかりしてれば なんだって乗り越えられるハズ。

　大丈夫 大丈夫だ…。

「あらあら？ 『死神』（デス）出ちゃって ちょ～っと不安なのね？ タロット 初めてだと あるあるだけど そんなに心配しなくても いいのよ～。色んな意味があるし。出たらいきなり死ぬとか そ～ゆ～のじゃないから。正位置だしね」

　七海さんは 笑って言うけど やっぱ 不安。

　そりゃ いきなり死ぬとか 思ってないけど 亜樹と別れることになったりしたら やっぱ 死んじゃう気がする…。

「はいはい。心配なんだったら 読み解いていこうね～。意味が解れば そんなに不安じゃなくなるハズよ。まずは ４枚目。慈悲（ケセド）これは 物事の解決法を示すの。で タロットが『吊られた男』（ハングドマン）意味は『自己犠牲』『身動きのできない状態』。これだけじゃ ちょっと解んないから ５枚目。苛烈（ゲブラー）こっちは 障害ね。タロットは『教皇』（ハイエロファント）意味は『良き助言』『目上の人の援助』って感じかしら」

　２人の愛の障害が『目上の人の援助』？

　なんで？

　意味わかんない。

　で 次が 例の『死神』。

「６枚目が 美（ティフェレト）。貴女が手に入れるもの。タロットが『死神』（デス）。意味は『事故』や『災難』ってゆ～のもあるんだけど『新しい自分に出会う』なんてのもあるわ。生まれ変わるってことね。ちょっと難しい並びだけど ど～ゆ～意味かしらね……」

　七海さんは 人差し指を 唇の横に当てて 思案顔。

　そして おもむろに 口を開いた。

「とりあえず 障害が『良き助言』ってゆ～のが ポイントね。『教皇』には『年上の男性』みたいなイメージもあるから 学校の先生とかかしら？ もしかしたらお父さん お祖父さんかもしれないけど。それは たぶん 貴女にとって かなり『いい話』なんだと思う。姫様達２人にとっては 障害なんだけど 貴女１人にとっては『いい話』。だから 板挟みになる。『身動きのできない状態』ね。でも それが解決法。苦しい時期がやってくると思うけど 焦らないこと。ある日 突然 解決するわ。『事故』や『災難』って思うかもしれないけど 貴女は『新しい自分』に生まれ変わるのね」

「それって 他の人 好きになっちゃうってことですか？」

「……ど～かしら？ そ～とも 限らないと思うけど…。まぁ 続きを開いてみましょ」

　ずっと一緒にって約束したんだ。

　この気持ちは本物。

　突然 変わったりはしない……絶対に。

「７枚目。勝利（ネツァク）成り行きでの結果が『月』（ムーン）の逆位置」

　７枚目は 左側 ４枚目の上。

　三日月の前に立つ女の人が あたしの方を向いている。

「意味は『悪い誘惑の打破』『徐々に好転する』。いい感じじゃない？ 次 ８枚目が 栄光（ホド）。考え方が変化するか？ってこと。タロットは『女帝』（エンプレス）の正位置」

　８枚目が右側 ５枚目の上。

　王冠に赤いマントの女王様。

「『女帝』（エンプレス）のイメージは〈女性原理〉ね。母性愛とか安定した家庭とか。『愛に生きる』って感じかしら…」

　そこで 一旦 間をおいて 七海さんは あたしの目を覗き込む。

　いつもの 悪戯っぽい笑みはなく 黒い大きな瞳に吸い込まれるような錯覚。

「姫様は 愛に生きる女？」

「……えっ？ どーなんでしょう…。あたし やりたいこととか 夢とか いっぱいあるんです…。愛だけに生きるって感じじゃない気がします。……でも 亜樹への この気持ちは 本物だと思います」

「……そっか。もしかしたら そういう『愛に生きる部分』が もっと表に出てくるのかもしれないし『変わらずに愛に生きる』って暗示なのかもしれないわ。まぁ『新しい恋人が…』ってワケじゃなさそうよ～。良かったわね」

　七海さんは またいつもの悪戯っぽい笑顔。

「さて 最後まで 読んでみましょうね。残りは ２枚。……９枚目っと。そして これが最後の１枚」

　９枚目は『死神』の上。

　鎧を着て槍を持った男の人。

　１０枚目は その上。

　黄色い円の前に立つ背中合わせの男女。

「ああ。いい感じじゃない」

　七海さんが 明るい声を出す。

　そーなの？

　確かに カードの色味も明るくて『死神』なんかよりは 縁起良さそうではあるけど。

「９枚目が基盤（イェソド）運命の流れ。これが『戦車』（チャリオット）の正位置。『大勝利』とか『試練に打ち克つ』とかそんな感じ。で １０枚目が王国（マルクト）最終結果。『太陽』（サン）の正位置。『ハッピーエンド』『幸せな家庭』。文句無しね」

　１０枚のカードが 全部 表になる。

　めくる度に 色々言われたけど 結局 どんな結果なんだろ？

「そろそろ チキンも焼ける頃だし サッとまとめるわね～。まずは この縦の列を見てちょうだい。姫様の願いは『２人で ずっと一緒に』よね？ 王冠（ケテル）は『力』。その想いは 本当に強い願い。でも その想いは もしかしたら強すぎるのかも……。美（ティフェレト）は『死神』。いずれ困難に突き当たる。だけど そこで 貴女は 一皮剥けるのよ。それが『死神』の暗示。そこを越えれば 基盤（イェソド）は『戦車』。周囲の反対も 乗り越えていける。そして王国（マルクト）が『太陽』。『ハッピーエンド』。２人は いつまでも いつまでも幸せに暮らしましたとさ…。チャンチャンって感じ」

「いい結果ってことですか？」

「この上なくね。ただ まっ さっきも言ったけど 占いは地図だから。あくまで そんな可能性もあるってハナシ。歩くのは 貴女だからね。貴女の選択次第では 全然 違う未来も 十分 あり得るの。ただ『２人で一緒に』って思うのなら ポイントは やっぱり『良き助言』ね。きっと悩むと思うけど バタバタしないこと。『身動きできない』『災難』って状態が 貴女を『ハッピーエンド』に導くわ…」

「その『災難』ってゆーのを 防ぐ方法は 無いんですか？ 災難って判ってるのに 待ってるてゆーのは ちょっと……」

　亜樹が質問する。

　あたしの身に災難がってゆーのを 心配してくれてる…。

　ホント 優しい。

「ん～。現れ方が『災難』とか『不慮の事故』って感じになるって暗示だからね～。いまの時点で 具体的に判るワケじゃないから…。ただ 運命的なことって『災難』とか『試練』とか そんな形をしてるのよ。考えてみて？ もしお姫様が 悪者に襲われなかったら 王子様には お姫様を助けるチャンスは 巡ってこないんじゃないかしら？ お姫様が 襲われたのは『災難』だけど それがあるからこそ 運命の輪は 廻るのよ」

　確かに あたしが痴漢されてなかったら 亜樹と恋人になれてなかったかも…。

　だからって 痴漢にありがとうとは 思わないけど。

　運命って 自分で掴み獲るモノって思ってたけど それだけじゃないところもある。

「姫様は 占いの結果とか 何か質問あるかしら？」

「いえ。あの スゴくいい結果だったし 信じてみようかなぁって。ありがとうございました」

「アハハハ。そうそう。占いなんて 良いときだけ信じるっていうのも 正しいわね。悪い結果だったときも 貴女の選択次第で 運命なんて変わるんだから。でも 七海の占いは当たるから。１５００円の値打ちは あるハズよ？」

　そう言って 七海さんは ウィンク。

「さ～て ちょうど時間だわ。ハーブチキン盛り付けてくるから ちょっと待っててね」

　そう言うと 七海さんは エプロンを身につけ キッチンへと戻っていった…。

　………。

　……。

　…。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　to be continued in “part Aki 12/24 pm 7:53”