part Aki 12/24 pm 7:53



 

 占いの結果に 瞳は満足したみたい。七海さんも『この上なく いい結果』って言ってた…。ボク的には『死神』が出て『災難』とか『不慮の事故』とか 怖い言葉が 何回も出てきたから かなりビビった。タロット占いは 普段 ボクが愛用してる TVやアプリの星占いの総合運 星3つみたいな世界とは 別物。瞳の未来を具体的に予言するって感じで 生々しくて 安易な気持ちで占って欲しいなんて 言うんじゃなかったって後悔した。


 ……気にし過ぎなのかな?


 占いなんて 当たる日もあれば ハズれる日もある。理性では もちろん解ってる。でも 運気高い日は 気分いいし 低い日は 逆。ラッキーアイテムとかも カバンに入ってたりすると ちょっと安心。入ってなかったからって わざわざコンビニで買い足したりは しないけど…。ボクが占ってもらってて『年上の男性から〈良い助言〉があって それが〈障害〉』とか言われたら パパや 先生が話す度に 気になって気になってしょうがないと思う。『運命は 自分で掴むもの』『占いは 地図みたいなもの』とか言うけど 地図あったら その道順通り歩きたくなる。心配ごとは できるだけ減らしたいって思うじゃないか。占いとはいえ 未来がわかってたら 変えるとか 難しそうって思っちゃうもんな。七海さんに ボクを占ってくれなかったのも そーゆー性格見抜いてのことなのかも……。

 瞳は『ずっと一緒に』って言ってくれてて 占いでも『ハッピーエンド』って出たんだから 瞳みたいに 前向きに捉えられたら いいんだけど……。瞳は いつものことながら ボクより 速く食べ終わって 七海さんと話してる。



「へー。春高バレーって 冬休みにあるんだ~。全然 春じゃないのね~」


「なんか 昔は 春だったらしいですよ」



 これは ボク。

 


「えっ? そーなんだ? あたしが 子どもの頃から 1月にやってるよ?」


「ネットで調べたら そんなこと 書いてあった」

 


 話題は バレーボール。今日の練習試合の話とか 春高バレーとか。ご飯食べながら お店の人と話すって 変な感じだけど カウンターのお店って そーゆーのが普通なのかも。烈風伝とか そんな雰囲気だもんな。瞳は ニコニコしながら モリモリ食べて いっぱい喋ってる。ボクも ハーブチキンの最後の一口を食べ終える。一口ごとに 香りが広がって最後まで楽しめる。パリッと芳ばしく焼かれたチキンの中に 色んな香草がたっぷり詰められていて とっても美味しかった。けっこう量もあったんだけど ボクでも完食。ってゆーかまだ食べれそうな勢い。



「ごちそうさまです。美味しかったです」


「はい。お皿下げるわね~。2人とも 紅茶よね。ちょっと 待ってて」



 七海さんが お皿を持って 厨房に下がる。



「美味しかったね」


「うん。ボク おかわりしたいくらい」


「確かに。でも 亜樹が そんなこと言うなんて 珍しいよねー」


「そうかも。でも ホント まだまだ 食べれそうなんだ」



 そんなこと話してたら 七海さんが お盆に ティーポットを載せて帰ってくる。あれ? ケーキも載ってるような? 確か ケーキ無しのセットにしたハズ…。案の定 瞳が 抗議の声をあげる。



「あの あたし達 ケーキ無しで お願いしたんですけど」


「大丈夫。わかってるわよ。このケーキは サービス。どうせ もう お客さん来ないし 残っちゃうから」


「えっ? でも……」


「今 まだまだ 食べれるみたいなこと 喋ってたじゃない? 若いんだから 遠慮しないで いいのよ~。大丈夫だから。お金 取ったりしないわよ」



 そう笑いながら テーブルの上に ケーキと ティーセットを 手際よく並べていく。相変わらずのマイペース。お皿の上のケーキは チョコクリームのロールケーキと 小さなティラミス。パウダーシュガーが かかって とっても美味しそう…。チラッと 瞳の方を見ると 目があった。瞳は 微かに肩をすくめて しょうがないって表情。……確かに。ホント 美味しそうだもん。しょうがないよね。



「すみません。ありがとうございます」


「いいのよ~。カワイイお2人に 七海からのプレゼント。ちょっとだけ リキュールが入ってるんだけど もう 高校生だもん。大丈夫よね~?」



 ……お酒か。お菓子に入ってるの けっこう 好きかも。ママも 料理やお菓子によく入れてるし。瞳は どーだろ? なんとなく 強そうなイメージだけど…。



「お酒 大丈夫かな?」


「瞳 お酒 苦手?」


「わかんない。飲んだことないし…。ただ 春高 近いからバレたらヤバいかなって…」



 飲んだことないのか…。ちょっと意外かも。ボクは もちろん 缶ビール飲んだりは しないけど お正月とか 旅行のときとか 食前酒で 少しだけワイン飲ませてもらったりする。けっこう美味しいって いつも思う。両親も兄さん達も そこそこ強いみたいだし たぶん ボクも いけるクチ。


 

「ケーキの香りつけぐらいなら 酔っぱらったりしないと思うよ?」 


「だよね」


「いただきまーす」



 チョコロールケーキは ほろ苦さと甘さのバランスが絶妙。そして ティラミスは 口に入れると お酒の香りが広がった後に 蕩ける甘さ。2つとも 大人のデザートって感じ。スッゴく美味しい。



「このティラミス 食べると ちょっとフワッとする」


「嫌な感じ?」


「ううん。美味しいけど。……これが お酒の味かぁ」



 〈お酒の味〉ってゆーほど でもないと思うけど…。意外とお酒に弱いのかな? まぁ 初めてみたいだしね……。

 ………。

 ……。

 …。



「ありがとうございました~」


「ごちそうさまでした。美味しかったです」


「七海も 色々 話せて楽しかったわ。またね~。よいクリスマスを」



 支払いを済ませて 店の外に出る。隣を歩く瞳の腕に 腕を巻きつける。ちょっと 女の子っぽい仕草かな? でも 気にしない。そんなことより 少しでも 瞳の温もりを 近くで感じたい。腕 絡めて歩くのって 身長差があるから どーしても ボクが寄り添う形にはなっちゃうけど『恋人同士』って感じ。『男の子らしく』ってことより『瞳と寄り添って』の方が 今のボクには 大事なこと。夏に 稲荷町の七海堂に行ったとき 身を寄せて歩いたら おっぱいに 肩が当たるんじゃないかってドキドキした。今 本当に歩いたら やっぱり 当たってるんだけど やましい気持ちより 触れても許してもらえる関係になれてることに 喜びを感じる。……いや。まぁ 調子乗ってると また『スケベ』って 怒られるかも…だけど。


 今 8時過ぎ。瞳は 9時には帰らなきゃいけないから 一緒に過ごせる時間は あとちょっと。


 もう どっかお店に寄るような時間は ない。でも もう少しだけでも 一緒に過ごしたい。この腕の温もりを 離したくないって 切に思う。ぎゅっと絡めた腕に力を込める。



「亜樹?」

 

「……もう少し こうしてたい」


「うん」



 瞳は 駅の方へ戻ろうとするけど ボクは 動かない。駅に戻ったら 自転車 取りに行って 瞳と腕が組めなくなる。それに……。



「亜樹?」


「……ずっと こうしてたい」


「そんなこと言って……。動けないじゃん?」


「うん。それでも いい…」


「もしかして 占い 気にしてる?『身動きできない』ように?」



 小さく首を振る。でも 瞳に掴まる腕に さらに 力を込める。


 

「大丈夫 大丈夫。当たっても外れても あたしは 亜樹と ずっと一緒。約束したじゃん?」


「うん」


 

 瞳は 明るく笑ってくれる。『ずっと一緒に』もちろん そのつもりだけど そのために 瞳が 怖い目に合うんだったら…って 思うと不安で しょうがなくて 瞳の腕に ぎゅっと掴まる。



「大丈夫 大丈夫。9時まで もう少しあるし ちょっとでも 一緒にいよ?」


「うん」



 そう返事して 瞳と一緒に 桜橋のアーケードを 駅に向かって歩き出した……。 

 ………。

 ……。

 …。



                        to be continued in “part Kon 12/24 pm 8:12”







 

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