part Aki 11/21 am 10:48






 神楽さんのサーブから 第二セット スタート。

 続けて2本エース。相変わらずの 切れ味抜群のサーブ。3本目で カットされて ラリーの応酬。これを綾創が取って 2対1。相手サーブから またもや 長いラリーに。今度は 日菜乃さんが決めて 3対1。藤工ペースで ローテーション。神楽さんが 前衛に。

 

 こっちのサーブを 上手に捌いて 綾創の3球目攻撃。

 こちらも巧みに処理して レシーブが 瞳に返る。瞳は こちらに背を向けてトス。コート左側にいる 神楽さんへのトスだ。『あっ!』 って思った。ボクも もう何試合もバレーの試合見たから オープンサイドにどんなトス上げればいいか だいたいは 見当がつく。瞳のトスは 明らかに 強くて高い。このままじゃ コートの外に飛び出してしまう。トスミスだ…。膝の裏側が崩れるような感覚に襲われる。自分のミスも嫌だけど 恋人のミスは 自分が何の手出しもできないだけに より一層 辛い。思わず下を向き 目を伏せそうになるボクの瞳に あり得ない光景が映る。コート左端のネット際 信じられない高さのところに神楽さんがいた。


 

 時間が凍りつく。

 


 ズバンッ!



  県立中央体育館のセンターコートに ボールが叩きつけられる炸裂音が 鳴り響く。そして 得点を告げる 主審の笛。そして時間が動き始める。何が起きたか 理解して 全身に鳥肌が立つ。天才っているんだ。瞳の言葉の意味が 今になって解る。


 

 もう一度 藤工のサーブ。

 敵のアタック。瞳にレシーブが返る。さっきと全く同じ 速く強いトス。トスミスじゃなくデザインされたプレーだってゆーのがよくわかる。もちろん 綾創も バカじゃない。今度は しっかり2枚ブロックが跳ぶ。だけど そんなもの意にも介さない。2枚のブロックの間をすり抜け 神楽さんのスパイクが相手コートに刺さる。5対1。

 

 タイムアウトを取るかなって思ったけど続行。

 リプレイを見るように 瞳にレシーブが返る。神楽さんは 左サイドで助走を始めている。瞳がトスを上げようとジャンプ。そのタイミングで 綾創の前衛3人が 神楽さんのアタックコースを防ぐべく 左サイドに駆け寄る。3枚ブロックだ……って思った瞬間 ボールが床に叩きつけられる音。小たまちゃんが クイックでスパイクを決めていた。6対1。5点差だ。


 

 ここで 相手チームのタイムアウト。

 綾創側は円陣を組んで 監督が檄を飛ばしている。逆に藤工側は 和気藹々とした雰囲気。瞳は 小たまちゃんの背中をポンポンって叩いて労ってあげてるし 日菜乃さんは 神楽さんに 抱きついてる。神楽さんの ちょっと引いたような半笑いが 印象的だ。スキンシップとか苦手なタイプなのかも。


 

 タイムアウト終了。

 綾創は リベロの選手を入れてきた。第一セット 松嶋先輩の強烈なアタックを 再三 好レシーブしてた人だ。ただ 松嶋先輩とのマッチアップで 彼女もだいぶ疲れてるハズ。さっきみたいな活躍は 難しいんじゃないだろうか…。でも さすがは インターハイ ベスト8の実力校。2枚ブロックを抜けてきた神楽さんのスパイクを レシーブして攻撃につないでみせる。浮き足だっていた相手チームも 少し落ち着きを取り戻す。取ったり取られたりで 得点は11対7。神楽さんが後衛に下がったタイミングで リベロさんは ベンチに戻っていった。



 ところが 綾創が恐慌をきたすのは ここからだった。

 相手のサーブを藤工が捌く。レシーブは 瞳の真上へ。瞳は 左側の日菜乃さんでは なく 右後ろにトス。そこへ走り込んでくる神楽さん。

 


 今日2回目の時間凍結。

 


 神楽さんのバックアタックは 吸い込まれるように 相手コートの左奥に落ちる。12対7。後衛に下がっても 神楽さんの攻撃力は 落ちない。ブロックの対応が乱れ始める。ブロックの隙をついて オープン攻撃やクイックが決まる。点差が開き始める。16対9。完全な藤工のペース。


 

 綾創が2回目のタイムアウト。

 最後のタイムアウトを使いきって 呼吸を整え直す。綾創には 後がない。リベロさんも もう一度 コートに戻ってくる。敵の強烈なジャンプサーブで リスタート。強力なラリーの応酬になる。流れを取り戻したい綾創と 渡すワケにはいかない藤工。意地のぶつかり合い。17対10。

 

 一進一退の長いラリー。強烈なアタックを かろうじて止めるけど レシーブは 乱れてる。瞳が 素早く落下点に回り込んでトス。それを日菜乃さんが必殺の気迫を込めて敵陣に打ち込む。だけど レシーブ トス アタックまでに時間がかかり過ぎてる。その僅かな時間で レシーバーが 落下点に なんとかたどり着く。レシーブ トス アタック。相手の攻撃も 組み立てが不十分。神楽さんがギリギリのところでレシーブに成功する。レシーブは かなり山なりになってるけど ネット際のいい位置に飛ぶ。これなら 瞳は ジャンプトスできる。そう見て取った 日菜乃さんは オープンサイドで 助走を開始。体勢を素早く立て直した神楽さんも アタックラインに向けて猛然とダッシュ。綾創は 日菜乃さんにブロック2人 神楽さんのアタックコースに1人。リベロさんも 日菜乃さん対応の位置に ポジション取りを変える。オープンか? バックか? 瞳の判断に 体育館中の注目が 集まる。瞳は ボールの落下点に入り 高くジャンプ。空中でオーバーハンドトスの姿勢。……から サッと右手を翻す。



 トトンっ。



 軽い音を立てて ボールが 相手セッターの後ろに落ちる。まさかのツーアタック。



「ナイッ キー」



 日菜乃さんのかけ声が 体育館中に響き渡る。まさに『kill』。瞳の一撃が 致命傷になる。ローテーションして 次のサーバーは 神楽さん。エースにこそならなかったものの 破壊力抜群のサーブで 陣形を崩し チームは2連続得点。次のサーブはエース。最後の1本は サーブミスになって20対11。ここで 選手交代。神楽さんと小たまちゃんが 下がって 松嶋先輩と東先輩が出てきた。

 でも 交代の必要なんてなかったのかも。綾創の選手達は 心が折れた様子で その後 1点しか返せず 25対12でゲームセット。瞳の春高バレー全国大会出場が決まった。試合中は ハラハラドキドキする場面が多かったけど 終わってみれば 第二セットは 一度のリードも許すことなく ダブルスコアの快勝。時間は20分弱。ゲーム全体で見ても2セット連取 試合時間50分ちょっとの圧勝だった。


 ………。

 ……。

 …。



             to be continued in “part Aki 11/21 pm 9:46”




 



 

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