part Kon 11/23 am 11:47



 


「……あきちゃん 大好き。あたしと付き合って」



 

 人生初彼氏と初デート中。

 初ケンカ中に 人生2度目の告白。

 人生 初の浮気?


 ってゆーか あたしが 好きになったのは いつも颯爽としてて 賢くて 優しくて 可愛い あきちゃん。

 間違っても 一人でドツボに嵌まって グジグジと繰事を言ってるヘタレの亜樹では 無いと思う。

 しかも 口答えが 啓吾レベルの幼稚さとか マジにアリエナイ。

 激オコって感じ。


 思いっきりバカ バカ 言いまくってしまった。

 

 真面目な顔して ちゃんと謝ってくれたけど まだ あたしの怒りは治まらない。

 あきちゃんの方がよかったって 強烈な嫌味を言ってしまった。

 嫌味ってゆーか ある意味 あたしの正直な気持ち。

 あたし 女の子のあきちゃんとでも ぜんぜん 付き合えるし。

 


「ごめん 瞳。ホントに謝るから…。ボクは男の子。悪いけど 女の子の〈あきちゃん〉は いないんだ。ヘタレで頼んないかもだけど 精一杯 瞳のこと 守るから ボクと付き合ってください」



 でも 亜樹は あたしなんかより やっぱ ぜんぜん 大人。

 そこで 逆ギレしたりせず 謝りながらも あたしのこと たしなめてくれる。

 自分でも ちょっと言い過ぎたって思うし ここら辺にしとく方がいい。

 

 ……でもな。

 いいよって許してあげるのも 癪にさわるしな…。

 



「お弁当 食べよっか…。お腹 空いたし」



 

 とりあえず 許してあげないまま もともとの話題に戻す。

 何事もなかったように デイバッグから 弁当の包みを取り出し ベンチの中央に並べる。


 おにぎりと 揚げ物と 彩りおかずの3つのタッパー。



「うわぁ 美味しそう」



 亜樹が 歓声をあげてくれるけど ケンカしたばっかだから 白々しく聞こえる。


 

 ……もう。

 なんで こうなっちゃったのか…。


 

 亜樹に 褒めて欲しくて 朝 頑張ったハズなんだけど。



 お互い 無言のまま お弁当を食べる。

 亜樹の好物だってゆーから入れといた ポテトフライも 冷え冷えで 美味しくない…。



 さっきから 日差しも翳って 寒いって思ってたら 小雪まで降ってきた。


 

 ……こんなハズじゃなかった感が ハンパない。


 

 初デートなんだし 素敵な思い出にしたかった。

 2人巻きマフラーがいけなかったのかな?


 あれが 亜樹に変なプレッシャー与えちゃったみたい。

 背が低いとか 女の子の身体とか ホント どーでもいいんだ……あたし的には。

 あたしのこと 女の子扱いしてくれて 勇敢で 守ろうとしてくれてる。

 それだけで十分。


 でも 亜樹にとっては やっぱ 気になるポイントなんだろう。

 あたしの半分冗談みたいな おねだりが 亜樹の敏感な部分に触れちゃった。


 たぶん そのせいで ドツボに嵌まってんだと思う。

 それは 分かるんだ。



 でもさ。

 初デートだよ?

 暗い顔して 落ち込んでるってどーよ?


 

 って思って ケンカしちゃって 結局 2人とも暗い顔。

 このまま 別れ話には なんないと思うけど『あ~あ』って感じ。

 タメ息出そう……。


 


 北風に飛ばされてきた 粉雪がお箸を持つ右手に落ちる。


 

「……寒っ」



 反射的に 呟く。



「……あのさ 瞳。さっきは ごめん。今 少し考えてたんだけど お弁当 食べ終わったら やっぱり マフラーの2人巻きしようよ。歩くのはさ ちょっと難しかったけど 座ったままだったら 大丈夫だと 思うし。きっと暖かいと思うしさ…」


「……いいよ 亜樹。もう怒ってないから。無理しないで いいって」


「ううん。無理させて欲しい。ボク 男の子だから。やっぱり 好きな女の子の前で カッコつけたいんだ。無様に転ぶかも知れないけど それでも やっぱ 瞳にカッコいいって 思ってて欲しい」



 何それ?

 無理して あたしと一緒にいるとか 疲れるとか ヤダし。


 

「そーゆーのって 疲れるでしょ?」


「うん。そーかも。でも 瞳に ヘタレとか カッコ悪いとか思われる方が もっと 辛いから…。前にさ〈あき〉のこと 颯爽としてて カッコいいって言ってくれたじゃん? その〈あき〉は…さ こんのさんに そう思ってもらえるようにって 見栄張って 痩せ我慢して 無理してたんだ」


「そーゆーのしんどいじゃん。……あたしの前でくらい 自然体でいてよ」


「逆だよ。ボクは ホント ヘタレで平凡な男の子だから……。好きな女の子の前でくらい カッコつけてたいんだ」


「何よ それ? カッコつけとか バカみたいじゃん」


「うん。でも それが 瞳が好きになってくれた〈あき〉。カッコつけ過ぎて 後悔して それでも見栄張って ちょっとでも 瞳にカッコいい 好きって思ってもらいたい。そのためなら 何でもする。それが〈あき〉。で〈あき〉は ボクだから」



 ホント 何それ?

 大真面目な顔して カッコつけ宣言。



「……バカ」


「うん。自分でも そー思う」


「……朝 一緒に 走ってくれる?」


「うん。きっと ってゆーか 絶対 追い付けないと思うけど カッコいいって思ってくれるなら 走る」



 ああ。

 もう。

 ホント 腹立つ。



 こいつ ヘタレな上に カッコつけときた。

 マジに サイテー。


 

 なのに そんな亜樹のこと カッコいいって思っちゃってる あたし。

 ホントに バカなのは あたしの方……悔しいけど。

 

 なんで こんなの 好きになっちゃったんだ…。

 トホホって感じ。


 ………。

 ……。

 …。



 お弁当 片付けたあと ベンチに腰を下ろしたまま 2人巻きする。

 歩くよりは 身長差が緩和されて 身を寄せあってる感は ある。

 確かに 恋人同士って感じ。

 

 ……ただ 肩越しに 亜樹の温もりは 感じるけど やっぱ 寒い。

 今は 雪は降ってないけど 北風は まだキツい。



「……寒くない?」


「寒い」


「そろそろ 中に 入ろっか?」


「まだ もうちょっと こうしてたい」



 何それ?

 2人巻きしたいって言った あたしへの 当て付け?

 さっき ケンカしたばっかなのに また ケンカ売られてるのかしら?



「……今日が 寒い日でよかった」



 亜樹が ポツリと言う。

 


「?」


「だって これからさ 毎年 寒くなる度に 今日のこと 思い出すよ。初デート スゴく寒い日だったねって…」


「ケンカして 冷たいポテト食べたよねって?」



 素直に受け入れられず 少しトゲのある返し。

 でも 亜樹は にっこり天使の笑顔で 受けてくれる。

 


「そうそう。来年の今頃は きっと笑い話になってる。10年経ったら 大笑いだよ……きっと」



 確かに 1年経ったら笑い話かも…。

 10年経って こないだの亜樹のお母さんみたいに 面白おかしく 話せたらいい。

 


「来年も 一緒にいてくれるの?」


「うん。そのつもり」


「10年経っても?」


「もちろん」



 10年後か…。

 あたし 何してるんだろ?

 

 27歳。

 Vリーガーになれてるだろうか?

 それとも 他の仕事してるのかな?



 そのとき やっぱり 隣に亜樹がいて こうやって 2人巻きしてる。

 ……そうなったらいいな とは思う。


 でも そうなっても 結婚もしてないし 子どももいない。

 10年後の未来なんて ぜんぜん イメージできないけど。

 たぶん それは確か。

 


 肩越しに感じる 亜樹の温もり。

 その微かな感じが 儚くて 切なくなる。

 今の この『好き 』の気持ちを 10年 積み重ねていけるのかな?

 あたしの温もりが 少しでも亜樹に届くように もう少しだけ 身体を擦り寄せる。


 大丈夫 大丈夫。

 10年後も きっと 一緒にいれる。

 今の この気持ちは 本物だもん…。

 ………。

 ……。

 …。

 


 

            to be continued in “part Kon 11/23 pm 12:23”


 





 

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