part Kon 7/18 am 9:48


 

 ノートに書かれた文字を 目で追うけど ぜんぜん 頭に入ってこない。

 意識を 集中させようと 息を 深く吸ってみるけど やっぱ ダメ。

 頭に 浮かぶのは 亜樹のことばかり。

 


 あたしの東京進学のハナシが不安って ちゃんと亜樹が伝えてくれた。

 それに対して『やるだけ やってみたい』って返した。


 その時は 亜樹 一応『応援する』って言ってくれた。

 だけど スゴく不安そうな顔してた。


 でも やっぱ 亜樹は あたしより ずっと大人。

 それから 2~3日は 不安そうな顔してたけど 次の週には いつもの 落ち着いた雰囲気に…。

 きっと 賢いから 自分を ちゃんと納得させてくれたんだ。

  


 ……ただ あの時以来 進学のハナシは 一切しない。


 たぶん 色々思うことが あるんだろうけど グッと飲み込んでくれてる。

 だから あたしは この2ヶ月 バレーに全力集中できた。

 

 GWに 亜樹の部屋に行ったときは 課題のアイデアスケッチについて あーだ こーだ意見交換した。

 中間試験前も そう。

 期末前も そう。

 お互い 進学のハナシは 一切しない。


 

 だって 遠く離れてても あたし達は 大丈夫だから。


 

 そう思ってたのに…。

 今は 亜樹のことが アタマから 離れない。

 

 

 ……ダメだ。

 そうじゃない。

 今 考えなきゃいけないのは バレーボール。


 体育館の中央にある時計をチラッと見る。

 試合開始まで あと10分。

 スタメンのみんなは 思い思いの方法で 集中力を高めてる。


 日菜乃は 入念にストレッチ。

 神楽は ジャンプサーブのイメトレ。

 小たまは 頬っぺたをバシバシ叩いては スタンディングジャンプ。

 

 でも あたしは……。

 

 藤工側の 応援席を見るけど 栗色のツインテールの姿は 見えない。

 清栄側の応援席にも いない…。


 髪型が違ってるワケでもない。

 栗色の髪の姿が 見えない。


 

 ……言い様の無い不安。



 違う。

 バレーボールだ。

 亜樹が いなくても あたしは やれる。


 今日から インターハイN県予選の決勝リーグ。

 大事な初戦の相手は 清栄女子。

 もちろん 全国制覇を目指す あたし達が負けていい相手じゃない。


 できる限りの 研究をした。

 相手のオポジットの得意なコース。

 セッターの組み立てのパターン。

 ブロッカーのクセ…。

 

 だけど あたしの10冊目のノートの内容は あたしのアタマを素通り。


 なんの精神安定剤にもなりは しない。

 


 昨日の電話で ちょっとケンカした。

 また クラスの女の子のハナシなんかするから…。

 今日 大事な試合だって 知ってるハズなのに。



 でも 試合に来てくれなくなるほど 怒ると思ってなかった。


 

 ……いや。

 亜樹 優しいし そんな怒り方しないと思う。

 電車 遅れたとか 体調 悪いとか そーゆーのかもしれない。

 だけど スマホは ロッカールーム。

 確かめようもない。



 試合前なのに 全く 集中できてない。

 前 だったら 松嶋先輩に笑わしてもらったり 東先輩に蹴り入れられたり。

 今日は 助けてくれる先輩も いない。


 

 誰か…。 

 誰か助けて……。



 下腹の辺りがキリキリ痛む。

  

 それでも あたしは キャプテン。

 自分で 自分で なんとか しなきゃ……。

 喉が ガラガラで 声が出ない。


 試合開始 5分前。

 もう 集合かけて みんなに気合い入れなきゃ……。

 こんな精神状態なのに そんなことできるのかな…?


 

 亜樹。


  

 亜樹が いなきゃ あたし 何にもできやしない。


 怖い…。

 怖いけど……前に 進まなきゃ。



「……しっ 集合ーっ!」



 

 ………。

 ……。

 …。


 

 

 

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