part Kon 12/24 pm 4:05



 


「ううん。ゆっくりで いいよ。友だちと 話も あるだろうし…。待ってるから ゆっくりで 大丈夫。大丈夫」



 

 亜樹からの電話を切って 校門への坂道を少し戻る。

 電話 掛かってきたときは 自分でも 情けないほど 狼狽した。


 

 そこまで スッゴい モヤモヤして

 でも そんな自分が嫌で

 頭の中 グルグルしてて

 亜樹が 電話してきてくれたらいいのに…


 

 って 妄想して スマホ握り締めながら校門を出た。


 

 そのタイミングで 着信。

 『君を想うとき』のメロディー。

 ……亜樹からだ。


 

 スマホ操作する手が 震える。

 予想通り 亜樹は『一緒に帰ろ』って言ってくれる。

 嬉しくって やっぱり 涙が出そうになる。


 

 ホント 情けない。

 亜樹は あたしのこと こんなに大事にしてくれてるのに…。


 


 コンサート終わって ちょっと話したいなって思った。

 ホント 素敵だったし お疲れ様って 言ってあげたかった。


 でも 舞台から降りてきた 亜樹の周りには 他の子が いっぱい。

 さっきの 入り口にいた 大人っぽい子も 話し掛けてた。

 亜樹の友だちが 亜樹と楽しくおしゃべり。

 

 何も悪くない。


 他の子たちだって 亜樹の頑張りに 感動して お疲れ様と ありがとうを伝えたい。

 当たり前のこと。


 美人の女の子ばっかりだったとしても。

 

 あたしみたいにデカくて しかもジャージ姿の子なんて もちろんいない。

 可愛いカッコした子ばっか。


 亜樹も楽しそうに話してる。

 それも 当たり前のこと。

 あたしも 試合後 部活の友達と 盛り上がって いっぱい しゃべる。

 

 ……別に 浮気とか 思わない。


 手を握ったりしてるワケじゃない。

 ってゆーか 手を握ったとしても 亜樹は ともかく その子にとっては〈女の子同士〉。



 理性では ぜんぜん 解ってるけど ホント もう モヤモヤする。

 だって 亜樹 男の子だし。

 

 あたし以外の女の子と 仲良くして欲しくない。

 どーしても そう思っちゃう。

 

 あたしは 亜樹の彼女。

 毎日 手を繋いで 学校に行くし 電話もする。

 キスだってしたし Hもした。


 

 それでも 不安になる。

 


 亜樹の誠実さを疑ってるワケじゃない。

 どっちかってゆーと 自分に自信が持てないんだ。

 お化粧するようになったし 亜樹にキレイって 言っても もらえる。


 ……でも あたしより キレイで可愛い子って いっぱいいる。


 それに 亜樹は優しいから 他の子にも キレイって言ったり お化粧してあげたりしてるに違いない。

 そう思ったら 涙が出そうになってきた。



 亜樹の周りの人垣は まだ 崩れない。

 背の高い ハーフっぽい女の子も 加わって 亜樹は 楽しそう。

 そして あたしの 醜い嫉妬心は ブスブスと燻るばかり…。


 さっき 亜樹のあとで 舞台で曲紹介してた 黒髪ボブの女の子も 亜樹の側に やってくる。

 たぶん あの子が『なっちゃん』。


 もう 限界。

 これ以上 見てたら 涙腺 決壊する。


 亜樹に背を向けて 教会を出る。

 頑張ったねは 夜 電話で言おう。


 亜樹も『なっちゃん』 も悪くない。

 ただ あたしが 自分の嫉妬心に負けただけ…。


 そう。

 わかってる。

 けど 悔しくて 悔しくて 周りの景色が 滲んで見える。


 なんで こんな性格なんだろ…。

 ホント 嫌な女だな……あたし。



 


 雪の残る 正門への緩い上り坂。

 あたしの試合 亜樹が見にきてくれたときだって 亜樹は 1人で 帰ってた。

 夜 電話くれたときも 寂しかったなんて 一言も言わなかった。

 

 あたしは 亜樹の彼女。

 亜樹が できるんだもん。

 あたしも それくらいできなくちゃ 恥ずかしい。


 そう思いながらも もしかしたら 亜樹が追いかけてきてくれるかもって 思って 何度も 後ろを振り返る。

 正門を出て 錦坂を バス停 ……いや 帰るんなら 地下鉄か…の方へと下り始める。

 もう 後ろは 振り返らないけど 今度は メッセージくるかも…って スマホを握ってる。

 ホント 弱い女。


 

 で いざ 電話きたら 嬉し涙 流しそうになってるし。


 

 亜樹が絡むと 全然 自分がコントロールできなくなる。


 

 バレーやってる あたしは こうじゃない。

 今日の 県商との練習試合。

 午前1試合 午後1試合。

 自分を完璧にコントロールして ミリ単位の正確さのドンピシャトスを 何本も上げることが できた。


 身体捌きは もちろん メンタルも しっかりコントロールできてた。

 ところが たった 2時間前 完璧だった あたしが 今は グダグダ。

 

 人間 誰でも表の顔と裏の顔があるってゆーけど こんなに極端なのって あたしぐらいじゃなかろーか…。

 ……自分でも 疲れるし。



 正門まで戻り 守衛詰所の壁にもたれながら そんなことを考える。

 中庭の方を眺める あたしの前を 制服の子や私服の子 保護者っぽい大人。

 コンサート帰りの人たちが ゆっくりと 通り過ぎていく。


 あたしの視線の先に 5~6人の女の子のグループが 歩いてくるのが 見え始める。

 中心は 栗色のツインテールと黒髪ボブ。


 少し離れて 背の高い眼鏡のお兄さん。

 幸樹さんのハズ。


 そこから もう少し離れて 夫婦連れ。

 女の人は 亜樹のお母さんだから もう1人の スラッとしたおじさんが たぶん 亜樹のお父さん。



「……ふーん。そーなんだ。で なんで 知り合ったの?」


「あー だから さっきも 言ったかもですけど 通学電車が一緒だったんで……」



 亜樹は 色黒ポニテの子に なんか色々 質問されている。


 こっちに気づいた 亜樹が 小走りに駆け寄ってくる。



「瞳 ゴメンです。友だちが紹介して欲しいって ついてきちゃって…」


「ううん。ぜんぜん。それより コンサート お疲れ。スゴい綺麗な声で 感動したよ」


「あー ありがとです。……あの みんな。 こちら 友だちの紺野 瞳さん」



 亜樹は〈あきちゃん〉喋り。

 で 紹介は『友だち』。


 まあ そーだよね。

 『恋人』って 紹介できないよね……。


 亜樹と付き合ってても 周りからは『友だち』にしか 見えないんだよね。

 恋人同士だって 周りから 冷やかされたり イジられたり…。

 ……されたいワケじゃないけど。

 でも 寂しい気もする。


 みんなに恋人同士だって認めてもらう。

 そんなことすら 亜樹との間では 難しい。



「はじめまして。……あの 紺野 瞳です。藤浜工業の2年生です」



 でもな。

 ここで 意地 張っても亜樹が困るだけ。

 この場は 亜樹の『友だち』。



「こっちが 細川 菜摘さん。あの…時々話したことある『なっちゃん』です。で こっちが……」



 亜樹が 次々 紹介してくれる。

 予想通り 黒髪ボブが なっちゃん。

 色白のいかにもお嬢様って感じの 日本美人。

 思ってたより 背が高い。

 162~3㎝って感じかな?


 なっちゃん気にしてて あとの子の紹介は うろ覚え。

 さっきの 黒髪眼鏡さんは はるなさんってゆーみたい。

 名字は 聞き逃した…。

 スゴい大人っぽいけど どーやら同い年。



 亜樹の友だちの子たちは みんな美人揃い。

 しかも オシャレしてて お化粧も バッチリ。


 あたしは 朝 例によって ちょっとだけシャドウ入れてきたけど 試合で汗かいて 顔 何回も拭いたし ほぼ ノーメイク状態。

 そして 部活ジャージに 部活カバン。


 みんな お金持ちのお嬢様。

 あたしは ヤンキー校の 頭の悪いブサイク。

 

 きっと そんなこと 思われてる…。

 強烈なアウェー感。


 


 でも スッと 心の強張りが解ける。



 亜樹が あたしの手を握ってくれていた。

 お互いの手袋を挟んで 伝わってくる 仄かな温もり。

 その熱が あたしの心の氷を融かしてくれる。


 うん。

 そう。

 亜樹は いつだって あたしのこと 大事にしてくれてる。

 例え みんなに恋人だって言えなくても あたし達は恋人同士。


 大丈夫 大丈夫。

 何も怖がることはない。

 あたしには 亜樹がいる。

 それだけで十分。



「紺野さんって『はじめまして』ですかぁ? 文化祭とかで 会ってません?」


「あたし 文化祭は 来れなかったんで…」



 いかにもハーフって子が 話し掛けてくる。

 ダークブラウンの髪。

 身長は けっこう高い。

 あたしより ちょっと低い程度。

 171~2㎝ってとこ。

 そして 女のあたしでも ちょっと息が詰まりそうになるような巨乳。



「美優姉 ウカツ。紺野さんが アキの文化祭の絵のモデルなんだと思うけど」



 と眼鏡さん。

 


「Model? Surely yes! あの カッコいい眼 ソックリ!」


「題名も『瞳』だったしね。あたし 名前聞いたとき ピンときたよー」



 色黒ポニテちゃんも あたしの眼を覗き込んでくる。

 この子は けっこう低い。

 亜樹よりは 高いけど。

 157~8㎝。


 この子は あたしと同じ運動部系の臭いがする。

 陸上か ソフトボール。

 ……陸上な気がするな。



「普通 解るわよ。美優姉がニブイだけ」



 眼鏡さん 毒舌。

 


「いやぁ あの絵 凄かったし 誰が model なんだろうって 言ってたけど 他校の子だったんだねぇ」



 美優さんは 眼鏡さんのセリフを完全にスルーして 話を続ける。


 黒髪眼鏡さんは 身長165㎝くらい。

 スキニーなジーンズに 白のフェイクファーのコート。

 あんま 笑わないけど 凄い美人。


 

「いやー あの絵の眼って スッゴい綺麗だったけど 瞳さんの眼って ホントにキレイだよー」



 色黒ポニテちゃんが まじまじと あたしの眼を見ながら言う。

 この子は いっつもニコニコしてて 親しみ易い雰囲気。

 クルクル回る 愛らしい目玉が 印象的。

 ちょっと 落ち着かない雰囲気では あるけど。


 その彼女が ニッコリ微笑みながら 言った。



「あきに 聞いたんですけど 2人って 付き合ってるんですよね?」



 えっ!? ウソっ? なんで?

 思わず 亜樹の方を向いて 尋ねる。



「えっ? 亜樹 しゃべったの?」



 ………。

 ……。

 …。



                        to be continued in “part Aki 12/24 pm 4:05”

 





 

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