part Kon 4/6 am 6:17



 


 今日も 桜橋のホームで 亜樹と手を繋ぐ。

 3年生になって 初の登校日。


 久しぶりに 亜樹と一緒に 列車を待ってる。


 桜橋駅の周りは その名の通り 水天宮から 商店街 亜樹の住む桜ヶ丘まで 膨大な数の桜が植えられている。

 他の季節は あまり気にすることも無いけど 4月の初めの この時期は 街全体が 淡い桜色の光に包まれる。


 その淡い光の中で あたしの王子様は 黄金色の髪を 風にたなびかせている。

 今日の亜樹は いつものツインテールじゃなく ハーフアップ。

 お化粧も 少しだけ しっかりアイライン。


 ちょっと気合い入ってる。


 3年生になったし 少し大人っぽく。

 ……たぶん 違うな。


 亜樹は マメで凝り性。

 今日が あたしに出逢った1周年記念って思って 気合い入れてきた。

 きっと こっち。


 記念日とか イベントとか 気にするタイプだもんな。


 バレンタインも あたしが作ったのより気合い入った 手作りチョコくれたし ホワイトデーも ちゃんと プレゼント用意しててくれた。

 基本 男の子なんだけど 時々 女の子っぽかったり。

 その曖昧な感じも亜樹なんだと思う。

 この間 亜樹自身が チラッとそんな感じのこと言ってた。


 知り合って1年。

 付き合って半年。

 

 色々 悩んだし 今も 悩んだり イラッとしたりするけど やっぱ 一緒にいれて よかったって 心の底から思う。



 風に巻き上げられてきた 桜の花びらが 絹糸の栗毛に落ちる。

 その薄紅色の 花びらを左手を伸ばして取ってあげる。

 


「瞳?」


「……ん。髪に 花びらついてた」


「あ ゴメンなさい。ありがとうございます」



 今日も 駅のホームだと 敬語でしゃべる…。

 亜樹じゃない……〈あきちゃん〉だ。

 


「ううん。……あのさ。1年前の あたしって 何してた?」



 話の継穂に 出逢ったときのことを聞いてみる。


 ぱっちりとした 少しタレ目気味の二重瞼の大きな眼は 1年前と変わらずスゴく優しそうなまま。

 その眼を 少し上目遣いにして 亜樹が ポツポツと話す。



「あの時のこと…? あの特は ちょうど 今と同じで……瞳は 髪についた 桜の花びらを 手にとってて。その時の ポーズも 構図も 光の加減も もうホント 完璧って……思った。この世界に こんな綺麗な人がいるんだって思った……マジで。 ホントに 女神様かと思ったくらい」



 相変わらず 亜樹は あたしのこと これでもかってゆーくらい褒めてくれる。

 ちゃんと 男の子しゃべりで。

  

 でも 言い終わると 亜樹は 眼を伏せて 少し 横を向いてる。

 そこで 会話が また 途切れてしまう。



 そう。

 あたし達の間には 今 ちょっとした問題が いくつか横たわってる。

 冬頃は 駅でも 亜樹しゃべりだったのに 敬語に戻っちゃったのも たぶん そのせい……。

 

 ってゆーか あたしは ちょっとした問題って思ってる。

 だけど 亜樹は 結構 深刻に 受け止めてるみたい。



 


 そもそもは あたし達 藤工バレー部が 春高で ベスト4の快進撃を見せたってゆーのが ひとつの原因。

 試合結果は 運がよかったって部分もあるし 力不足だったって部分もある。

 でも それ自体は 大した問題じゃなくて バレーとは 直接 関係無い部分で 問題が起こった。


 N県勢が 春高ベスト4ってゆーのは 12年ぶり。

 藤工としては 初めての快挙。


 そんなこんなで 星光市が けっこう盛り上がったみたい。

 試合前も試合後も TVや新聞·雑誌の取材受けたし 市役所に表敬訪問したりもした。

 SNSでも『#藤工美少女軍団』とかで 神楽や日菜乃あたりなら ともかく あたしのことまで けっこうバズったらしい……。


 バレンタイン前に プレアデスでデートしてたときのことだった。

 例によって 練習試合から直接デートで ジャージ姿だったのも マズかったんだけど 3階のイートインで 亜樹と お茶してたら『藤工の紺野選手ですか?』って 見ず知らずの 女の子達に声 掛けられた。

 聞けば 南区の方でバレーやってる中学生の子たちだった。

 

『サインしてもらっていいですか?』とか言われちゃったんだけど そんなの書けないし 断った。


 けど それで終わりじゃなかった。

 メローペガーデンでも 別の子達に声掛けられた。


 夏に キスしてる人達 見たし あたし達も…って 思ってたけど 亜樹は かなり 警戒しちゃったみたい。


 あれ以来 人前では 絶対 キスさせてくれない。

 かろうじて うちの裏ぐらい。



 あたし達が 付き合ってるってゆーのも クリスマスのときは 友だちに 話してたのに 今は できるだけ 隠そうとしてるみたい。

 亜樹的には あたしに変な噂が立ったらマズいって思ってるみたいなんだけど……。


 でも あたし的には 不満。

 別に あたし 有名人じゃないし。

 もし 有名人だったとしても 彼氏が 性同一性障害で 何が悪い?

 あたしに気を使ってるフリして 亜樹が自分の問題から 逃げてる気がするんだよね。

 確かに デリケートな問題だし 亜樹の気持ちも わからなくは ないから モヤモヤしてるって感じ。


 まあ 人前で イチャイチャするのは ちょっと控えた方がいいのかも しれないけど……まだ 高校生だし。



 

 イチャイチャと言えば クリスマス以来 そっちの方も 進展無し。

 ……いや デートで ホントに 2人きりのときは 触りっことかしてるけど。


 でも 付き合って 半年も経つのに『まだ』って どーなんだろ?

 

 確かに 互いの家は 親とかいるし こそこそ イチャラブぐらいは できるけど 思い切り愛し合うってのは 難しい…。

 じゃあ ラブホで…って あたしは 思うんだけど『万が一でも 見られたらヤバいだろ?』って。

 どーやら ラブホ自体が ちょっと恥ずかしいみたい。

 

 ……まあ なんだかんだ お嬢様育ちだからな~。




 付き合って半年。

 別に 大きなケンカしたワケじゃない。

 相変わらず 亜樹は スゴく優しい。


 あたしも 浮気なんかしない。

 ずっと亜樹が好き。



 でも なんか モヤモヤする。

 ネットの恋愛相談には『お互いのことが 分かりはじめて 甘えも出る時期 コミュニケーションを大切に』って 書いてあった。


 言いたいこと 言ってないワケじゃないんだけど でも 亜樹が 何考えてるか解るし あんまり強く言うのもな……って思ったりもする。



 

 付き合い始めた頃は ホントに 夢見てるみたいな感じ。

 でも 今は 亜樹と一緒にいるのが当たり前。

 良くも悪くも。


 亜樹のことは 何より大事。

 だけど 他のことも大事にしたい……バレーとか。


 亜樹にも あたしのこと 大事にして欲しい。

 でも 絵とか 自分のことも 大事にして欲しい。



 お互いの生活とか 夢とかと 恋人でいることの 折り合いをつけなきゃって思ったりする。

 亜樹は ホントに 優しいから けっこう あたしのこと最優先にしてくれる。

 嬉しいけど 自分のことも大事にして欲しいって思ってる。


 

 ……それに あたしは 亜樹を最優先には できて無い。


 やっぱ バレーの予定が 優先になる。

 キャプテンとしての 責任もあるし。


 申し訳ないって思ったり しょーがないじゃんって思ったり。

   

 今年の藤工は 日本一を 本気で目指してる。

 もしかしたら 去年の今頃 思ってたみたいに 恋なんてしてるヒマなんて ないのかも しれない……。


 もちろん 亜樹がいなきゃ あたしは ここまで来れなかったって思うし バレーを理由に 別れようなんて これっぽっちも 思わない。


 でも バレーに全力集中したいって 思ってる部分があるのも事実。

 

 そーゆー気持ちが 亜樹にも伝わっちゃってるのか なんとなく ギクシャクしてる 最近のあたし達。


 

 そんな あたし達に 新たな問題が 発生した。

 ちょうど 1週間前のことだった……。

 ………。

 ……。

 …。



              to be continued in “part Aki 4/6 am 6:17”

 

 


 


 


 

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