エピローグ

part Kon 10/24 am 7:27




「ほらっ 亜樹っ!あと 1周!もっと ペース上げてっ!」



 恨めしそうな 目付きで あたしを睨んだあと 亜樹は前を向き直し ほんの少しだけペースを上げて あたしの前を 駆け抜けていく。

 灰色のジャージの背中で栗色のポニーテールが揺れてる。


 ホントにヘバってきてるのか 結構 身体の上下動が激しい。

 相変わらず 体力無い男。

 まあ 身体は女の子なワケだけど。



 今日は 土曜日。

 初デートした思い出の六ヶ杜緑地で 休日恒例の朝ジョグ。

 ここ1年くらい 週2回走ってるのに 亜樹ときたら 1周500mをあたしが 8周する間に 周回遅れになる。

 毎回 嫌そうな顔はするけど ちゃんと あたしと同じ距離走るのは エライけど…さ。



 先週の土曜日 亜樹は 20歳になった。

 同棲始めて1年のお祝いも兼ねて アパートでちょっとしたパーティーをした。

 お互いの大学の友だちとか呼んで楽しかった。


 えっ?

 あっ うん。

 そーなの。


 結局 あたしは 藤工卒業したあと 大学に進学した。

 もちろん 高3の実績が無いから Aリーグで戦うような強豪大学じゃあ無い。

 高3の夏休み明け 就職希望って書いて進路指導室に持って行ったんだけど その日の放課後 もう一度 呼び出された。

 部屋には柏木監督もいて『春高バレー4強は 立派な実績だから AO入試で大学目指してバレーボール続けなさい』って。


 そんなワケで あたしは学校推薦もらって 大学に進学することになった。

 万年Bリーグ下位の弱小大学だ。

 秋からあたしが正セッターになったし ちょっとは順位上げていきたいところだけど。

 そうは言ってみても 神楽みたいな天才がいるわけじゃなし 藤工みたいに みんながみんな部活命ってワケでもない。

『真面目にやるけど まずは楽しく』

 そんな感じの部活。

 あたしのライフスタイルも部活最優先ってゆーのからは ずいぶん変わった。

 

 部活と授業とバイト。

 3つのバランスを取りながらって感じ。

 忙しいのは忙しいけど 高校の頃に比べれば 意識的には 結構ユルい。

  

 ある意味 フツーの女子大生生活をしてる。

 髪もちょっと伸ばして メッシュ入れてみたり…。

 ピアス穴も開けたし。

 

 ただ まあ ウチの親が文句ゆーようなことは まったく 無かった。

 バレー弱々とはいえ 名門大学だったし。


 そう。

 あたしの進学先は 聖心館。


 聖心館女子大学 家政学部 被服学科 2年生。

 体育会 女子バレーボール部所属。

 これが 今の あたしの肩書き。


 ちなみに 亜樹は 市立美大ダメで 七軒茶屋にある紅梅美術大学 ソーシャルデザイン創造学部 グラフィックデザイン学科 2Dアート専攻の 2年生。

 何なの?

 その長い 学部名……。


 長いのは 学部名だけじゃなくて 通学も長かった。

 桜橋から2時間半もかかる。

 亜樹も下宿はダメって言われてた。

 けど 一緒に学校行けなくなるのは 嫌だった。

 だから 高3の終わり頃から 2人で計画を立てた。

 夏休み 2人で一生懸命バイトして 敷金礼金 貯めて ここ六ヶ杜にアパートを借りた。

 昔 市立美大の学生さんも住んでたってゆー油絵可の2DK。


 2人で バイト頑張って 生活費 節約したら何とかやっていける。

 あたし達18超してるし契約も問題なくできた。

 学費は ともかく あとのことは自分達でって思ってた。

 

 そしたら 亜樹ママが『アルバイトばっかりして 学業に支障が出たらいけないから』ってことで 仕送りしてもらえることに。

 ウチからは 仕送りは無いけど ママが月1くらいで お米とか缶詰めとかの食材を届けてくれる。

 両方の実家のお陰で バイト掛け持ちしなくても 何とかやっていけてる。

 あたしが 大学生になって学んだこと。

 

『聖心館にだって 貧乏学生は いる』


 部活にバイトに もちろん授業。

 2人暮らしだし家事もある。

 高校の時と同じか それ以上の忙しい毎日。 

  

 あたしは 週4で 本町にある居酒屋でバイト。

 実家のお好み焼屋と似たような雰囲気だし気楽にやれてはいるけど。

 

 亜樹は 週3で七軒茶屋の画材屋さん。

 あと 週2で六ヶ杜駅前の個別指導塾。

 聖心館に通ってる女子高生の担当らしいんだけど『素直で 可愛い子だよ~』とか 言ってて モヤっとする。

 相変わらず 余裕なくて 嫌な女のあたし。



 そんなこと考えてたら 色づき始めた紅葉葉楓の向こうに ジョギングコースを回って来た 亜樹の姿が見える。



「ラスト100mッ!気合い入れてッ!ダッシュッ!!」



 右手をメガホンにして 亜樹に檄を飛ばす。

 今日の午前中は 亜樹の手続きにお付き合いして市役所と法務局。

 その後 2人で亜樹のお誕生日のお祝いをする。

 

 久々のプレアデスデート。

 アクアプラテネスでお魚とプラネタリウム見る予定。

 あと どーやら マイアタワーホテルの部屋 取ってくれてるみたい。

 サプライズのつもりで隠してるみたいだから 気づいて無いフリしてるけど。


 亜樹が勢いよく駆け込んできて ゴール。

 と同時に あたしの足元の芝生の上にヘタリこむ。

 ホント 体力無い男。

 たかが4㎞で そこまで ヘバる?

 フルマラソン走ったワケじゃなし。

 

 でも まあ 頑張ってくれてるしな。

 褒めてあげなきゃね……彼女として。



「ナイスラン 亜樹。今日もカッコよかったよ!」



 亜樹は 顔を上げて 嬉しそうな笑顔。

 やっぱ 可愛い あたしの王子様。

 相変わらずのカッコつけ。

 でも そこが 好き。

 ………。

 ……。

 …。

 

 


 

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