part Aki 12/24 pm 7:07


 


「注文は 以上でい~い?」


「はい」


「オーブンで焼くから ちょっと時間かかるけど ゆっくりしていってね~」



 そう言い残して 七海さんは 厨房の方へと入って行った。

 静かな店内に お客は ボクと瞳だけ。何回か 桜橋の七海堂には 来てるけど 他にお客さんがいないってゆーのは 初めて。入り口 入って正面に 4人掛けのカウンター。カウンターの上にレトロなレジスター。後ろの棚には 各種のハーブティーの袋。それから 水晶やダウンジング それからタロットカードといった 呪物の類。カウンター右側のガラスケースには アンティークのアクセサリー。もう少し安い アクセサリーなんかは 近くのテーブルの上に飾られている。カウンターの左側には 古びたデザインのアップライトピアノ。小ぢんまりとした外見とは 裏腹に意外と広い店内に 4人掛けのテーブルが4つ。アクセサリー並べたテーブル合わせたら テーブルは6つもある。



「おっと BGM流すの忘れてたわ~。クリスマスソングお願い~」



 七海さんが 厨房から顔を出して 声をかけると アップライトピアノの鍵が ひとりでに動きだし ジングルベルを奏で出す。一瞬 ぎょっとするけど 自動演奏ピアノだ。前に 見たことある。



「アレって 中にロボットが入ってんの?」



 瞳も 驚いた顔。


 

「あー たぶん そんな感じだと思う。前 プレアデスの楽器屋さんで見たことあるよ。そのときはUSBとかでデータ入れてたみたいだったけど。コレは きっとAIスピーカーと連動してるんだと思う……」


「……ねぇ。七海さんがやると マジで魔法なんじゃ…って 思わなかった?」


「……思った」



 瞳も同じこと思ってたみたい。

 夏に稲荷町で初めて会ったときも そうだったけど 魔女って思わせるような セルフプロデュースしてくるからな。雰囲気に呑まれて うかつなこと しゃべっちゃわないように 気をつけなきゃね。とか言いながら ボクが さっきから 気になってるのは『魔女の恋占い タロットやホロスコープで運命を覗いて見ませんか? 店長まで お気軽に』ってゆー 手書きのPOP。『占い』『運命』ってキーワードに弱い上に タロットカードって スゴく気になる。神秘的な感じがして トランプ占いより 断然 当たりそうな気がする……なんとなくだけど。今日は お客さん ボク達しかいないし 占ってもらえないかな?『お気軽に』って書いてあるけど『ヒマなとき 占ってあげる』って意味じゃないよね…。お金 いるんだと思うんだけど どれくらい必要なんだろう?



「オーブンに入れて来たから あと20分くらいで できるわよ~。時間 かかってごめんなさいね~」



 エプロン姿の七海さんが 厨房から戻ってくる。



「……あの あそこに書いてある 占いって どれくらい かかります?」


「どれくらいって 時間? お金?」



 やっぱり お金 いるんだ。まぁ 予想は してたけど。

 

 

「あー えっと どっちもです…」


「タロットでもホロスコープでも 小1時間で 5000円からって感じね~」


「5000円!? 占いって そんなに するんですか!?」



 ……5000円か。

 やっぱり 高いな。ちょっと高校生に出せる額じゃあ……って 思ってたら 瞳が 大きな声をあげる。 



「あら? 運命が覗けるのよ~? 安いもんじゃない?」


「えっ でも 当たるかどうか わかんないものに 5000円って……」


「貴女 美容室 行ったら 高校生でも 5000円くらい 払うじゃない? プロに1時間 仕事してもらって 5000円。相場より 安いくらいなんじゃない? 決して 高くはないと思うけど~?」



 ……確かに。

 ボクは 髪の毛 ママの店で 切ってもらってるけど ちゃんとお金 払ってたら 10000円 越えるハズ……。まぁ ヘアアイロンとかしてもらって 2時間越えるんだけど。



「あたし 1500円の店で 切ってもらってます」



 瞳が 喰い下がる。

 ってゆーか 1500円の店で切ってもらってるんだ? なんか そーゆー店って スゴく仕事 雑そうな 偏見があるんだけど…。いや 瞳の髪型って カワイイけど…さ。……意外と 悪くないのかな? いやいや 瞳が カワイイから そー見えるだけか?



「……貴女 本当に 面白い娘ね~」



 ホンの一瞬 瞳を値踏みするような 表情を浮かべた後 七海さんは いつもの悪戯っぽい笑顔に戻る。



「ちょっと 興味出てきたわ~。今日は 占う気 無かったんだけど 気が変わったわ。貴女 占ってあげようか?」



 あれ? なんか 瞳が占ってもらうってハナシになってるんだけど? ボクは 占い 気になる方だけど 瞳って どーなんだろ?



「貴女 運命って 信じるタイプ?」


「どーでしょ? なんかあるのかなぁ…って 思ったりもしますけど 基本は自分で掴むモノって感じですね」


「いいわね~。占いってのは 貴女みたいな子のためにあるの。占いっていうのは 地図なの。貴女が 掴みたいモノにたどり着くための地図。『ここは 危ないから 気をつけて』とか『今は 時期じゃないから 慌てずに』とか そんなアドバイスは してあげられる。でも 歩くのは 貴女自身。地図通りに歩かなきゃなんない訳じゃないし 掴みたいモノが 変わることもある。危ないってわかってたのに 転んじゃうこともある。それが人生。それが未来」



 歌うような声で 七海さんは 言葉を紡ぐ。



「2人の 未来に どんな光景が広がってるか 覗いてみたくはない?」



 えっ? ボク達 付き合ってるって言ってないハズ……。思わず 瞳の方を見る。瞳も 同じこと思ったみたいで お互いの目が合う。



「フフッ。仲良しさんね~。でも こんなのは 占いでも 魔法でもないわよ~? お嬢さん達 夏に会ったときと 距離感も 雰囲気も 全然 違うもの。顔 見たら『あら~ そ~なんだ~』って 思っちゃった」


 

 七海さんは 悪戯っぽく笑う。こないだは うちのママに バレバレだったらしいし 全然 隠せてないみたい。いや 別に 隠すことも ないんだけど…ね。……でも 見るからにラブラブって思われてるってゆーのは どーだろう。ちょっと バカップルっぽくって嫌かも……。



「さ~ ど~する? 特別に 1500円で いいわよ? 1500円 持ってる?」



 5000円は ともかく 1500円なら 出せる額。



「瞳。ボクも興味あるし ボクが 1500円出そうか?」


「ダメよ~。七海は お姫様を 占いたいの。姫様 貴女に 1500円出して欲しいの。ねぇ ど~するの?」



 七海さんは そう言いながら 瞳の目を覗き込む。いつものことながら マイペース。ボクが出しても 瞳が出しても 同じ1500円だと 思うんだけど…?



「……じゃあ お願いします。亜樹も 気になってるみたいだし…」



 瞳が ボクの方をチラッと見ながら 返事をする。

 ……なんか 悪いことしちゃったな。ボクが『興味ある』なんて 言っちゃったから 瞳が 1500円出すハメに。この1500円は ボクへのクリスマスプレゼントってことに してもらおうかな…? とにかく ボクも 何かプレゼントしなきゃなんない。1500円くらいで アクセサリーコーナーに いいものあるといいけど。後で 覗いてみなくちゃね……。



「商談成立ね。今回も現金のみよ。あと 占いは 先払いでお願いね~」



 瞳が 財布から 500円玉3枚を 取り出して 七海さんに手渡す。



「はい。確かに。コイン3枚で 支払いとか ちょっと古風でいいわね~」



 七海さんは 何が楽しいのか さっきより 明らかに上機嫌。いつものことながら ペースが掴めない人。



「チキンが 焼き上がるまで もう少し時間があるから その間に 占ってあげるわ。お嬢さん達 こっちのテーブルに いらっしゃいな」



 七海さんは 隣のテーブルの上を片付けて 座るように促してくる。



「タロットでいいわよね? メジャーだけ使うけど いいかしら?」


「えっ? あっ ハイ なんでも…」



 瞳が頷く。ボクは タロットが よかったから ちょっと嬉しいかも。でも メジャーってなんだろう?



「あの メジャーって何です?」


「ああ メジャーっていうのは『大アルカナ』のこと。タロットカードは全部で74枚あるんだけど その内の22枚が絵札なの。それが『大アルカナ』。ほら『世界ワールド』とか『スター』とか 聞いたことない?」


「あっ あります。『死神』とか『皇帝』とか そういうヤツですよね?」


「そ~ そ~ それのこと」



 ってゆーか タロットって74枚も あるんだな…。てっきり『世界』とか『死神』とか そーゆーカードばっかりなのかと思ってたけど。

 

 

「さ~て そろそろ 始めましょうね」



 七海さんは エプロンを脱ぎ ボク達の正面に座る。いつものことながら 年齢不詳系美人。ボクって 肌の感じとか お化粧の仕方とかで 女の人の年齢って だいたい見当がつくんだけど 七海さんは まったくダメ。20代って言われたら そうかって思うし 40代って言われたら なるほどって感じ。夏のときと一緒で 長そうな黒髪を お団子にして 後ろに纏めている。



「さて 改めて。貴女 何が掴みたいの? 言霊ってあるから ちゃんと 言葉にしてくれる?」


「……えっと あたしは 亜樹とずっと一緒にいたいです。だから 2人のこれからを 占ってもらえますか?」



 ずっと一緒にいたいってゆーのは ボクも一緒。七海さんは『占いは地図』って言った。ボク達のこれからに どんなことが待ち受けているんだろう? ちょっと怖い気もするけど ボクと瞳なら 越えて行ける。ボクが 瞳を支えるんだ。そんな気持ちを込めて テーブルの下で 瞳の手を握る…。

 ………。

 ……。

 …。


 


                        to be continued in “part Kon 12/24 pm 7:15”


 

 


 


  

 

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