「集合ーッ！」

　瞳のかけ声で藤工のメンバーがベンチの前に集まってくる。監督さんが何か指示を出したあと瞳を中心に円陣。

「元気だしてッ！」

「「ハイッ！」」

「声出してッ！」

「「ハイッ！！」」

「勝つぞッ！」

「「ハイッッ！！」」

「行くぞ！藤工ーーーーッ！」

「「「オーーーーーーーーッッッ！！」」」

　瞳と他のメンバーで掛け合いして士気を高める藤工の試合前のセレモニー。ちょっと前のボクだったらいかにもな運動部ノリに引いてたかもだけど瞳がリードしてるせいでめっちゃカッコよく感じる。超熱いよねっ。とはいえ聖歌隊の公演前の円陣では絶対やらないノリではある……。

　１１月に入ってからの土日春高バレー予選の藤工の試合には全部足を運んでる。今日みたいに中央体育館なら通学定期で行けるからお金もかからないしありがたい。先々週は星崎体育館へ行った。ついでに紅葉の星崎神社で少しスケッチして帰ってきた。屋外写生ってあんまりやってこなかったから練習しとかないとね。先週の準々決勝は七軒茶屋の東部体育館へ２時間半かけて行ってきて帰りに紅梅美大を見学した。綺麗な大学だったけどあまりにも遠すぎる。……やっぱ市立美大がいいなぁ。六ヶ杜なら光岡中央から３駅で今とそう変わんないし……それでも遠いけど。

　瞳の試合見に来るのも今日で４回目。

　チームのメンバーも個別認識できる人が増えてきて瞳の話に出てきてた人が具体的にわかってきた。イメージ通りの人もいるし全然違ってる人もいてその答え合わせ感がちょっと面白い。

　第一セット瞳からオープンサイドのトスを何度ももらって果敢に攻めてるのがＯＰの松嶋聡美３年生。『松嶋先輩』だ。たぶん藤浜駅で会ったことあると思う。瞳のこと『王子』って呼んでた豪快なお姉さん。『藤工の絶対的エース』って瞳が言うだけあって凄いアタック。すでに６点目。しかもそのうち一回は相手のブロック吹き飛ばしてた。これまでの試合でも一番の得点元だったけど今日はペースが早い。逆にあんなに飛ばしてて第三セットまで持つのかな？素人ながら心配になる。

　今クイックでスパイク決めた人がＭＢの東珠稀３年生。『東先輩』。この人も会ったことあるハズ。『瞳の姉です』って冗談言ってた人。同期とか上には冗談いっぱい言う面白い人らしいけど下級生には超キビシくて超怖いらしい。すぐに蹴りがでるとか…。…やっぱボクには運動系の部活は無理だな。今時体罰とか絶対アリエナイって思うんだけど…。瞳は『やることはちゃんとやってる人だからしょうがないよ～』とか言ってたけど。……そーゆー感覚自体についてけない気がする。ただプレイヤーとしての東先輩はホント頼りになる感じ。相手のどんなアタックにもしっかり反応してブロック跳んでいる。スパイクはさっきのが１点目だけどブロック合わせると３得点。

　会ったことある先輩ってゆーと前キャプテンの黒髪さん『明日香先輩』とボクにいろいろ話しかけてくれてた標準身長の人『田村先輩』。この２人は夏で引退して試合には出ていない。だけどちょうどボクの目の前にいる。ボクは藤工側の応援席の最上段に座ってるんだけど最前列の中央には藤工のジャージを着た集団が大きな声援を送ってる。バレー部メンバーの応援団。男の子も何人か混じってるから男バレの子も入ってるのかも。そしてその横ちょうどボクの目の前の位置に私服姿の女の子が６人ほど座って応援している。その中に２人の姿を見つけた。ＯＧも駆けつけてるんだな。決勝だもんな。

　応援席には娘の活躍を見にきたお家の人らしい夫婦連れも何組かいる。ちなみに瞳の両親はお店があるから今日は応援に来ないらしい。こないだの件があるからあんまり顔合わせたくなかったしありがたいと言えばありがたい。だけど付き合ってるんだしいい関係作っていかないとマズいよね…。……どーしたらいいんだろう？悩むところだ。

　藤工応援団の歓声がひときわ大きく上がる。

　鮮やかなジャンプサーブが決まったんだ。打ったのはＯＨの神楽まひろ２年生。通称『神楽』。サウスポー。この子が一番瞳の話と印象が違った。瞳の話だと『挨拶できない。声小さい。愛想は悪い。空気も読めない。その上赤点だらけの補習の女王。バレー部１の問題児』って散々な悪口。なんとなく目付きの悪い不美人を想像してたんだけどけっこうな美人。……もちろん瞳ほどじゃないけどね。確かにサーブ前とか凄く鋭い目付きになってるときあるけどカッコいいって感じだし。

『ホント不器用でどうしよーもないヤツなんだけどでも天才っているんだって思うよ。神楽見てるとさ』呼吸を整えた神楽さんが前方高くにボールを投げると同時に勢いよく助走をつけエンドラインを飛び出していく。緩く弧を描いて落ちてくるボールと弓なりに反り返った神楽さんの最高到達点が重なる。次の瞬間バンッ！という破裂音と共にボールは相手チームのコートの右奥深くに突き刺さっていた。誰一人一歩も動けない刹那のできごと。

「ナイッサッ！」

　瞳が駆け寄りハイタッチ。次々仲間とハイタッチをかさねる。祝福を受ける笑顔は瞳みたいに快活ってことはないにしても十分魅力的。愛想悪いはヒドイと思う。まぁ彼氏さんができてだいぶ雰囲気変わったらしいけど。

　『その上付き合ってる男ってゆーのがまたサイテーのヘタレなの。しかもさ神楽のヤツボソボソってなんか喋ってんなって思ってよく聞いてみたらノロケ話だったりすんのよ。ホントサイアクって感じ』瞳はほとんど他人の悪口なんて言わないけど神楽さんとその彼氏さんは数少ない例外。彼氏さんはともかく神楽さんのことは悪口言ってても大好きだってのは雰囲気で判るけど。

　『アイツにトス上げるとなんか時間が止まるみたいな感覚になってで相手コートにズバンッ！そっから鳥肌立つの。松嶋先輩も凄いけど神楽はその上』バレーに関してはベタ誉めベタ惚れ。でもここ何試合か見ててスパイク打ってるとこも見たけどそこまで凄いかな？ジャンプサーブはスゴいのわかるけど。今も３本連続決めて相手はたまらずタイムアウト。スパイクは今日は１本も打って無いんじゃないかな…？

　守備の上手なメンバーを投入して綾創も立て直してくる。松嶋先輩がローテーションで後ろに下がって藤工は我慢の時間帯。この時間帯を支えてるのがＯＨの穴戸日菜乃２年生。副キャプテン。相手の強烈なアタックをガッチリ受け止めて瞳に返す。攻撃でもオープンサイドで力強いスパイク。でも松嶋先輩に比べるとブロックされることが多い気がする。日菜乃さんも瞳の話によく出てくるキャラクター。気の合う仲良しらしい。カワイイ子ってハナシなんだけどボクの印象では逞しい感じ。一本決まったりすると『ナイッキー』とかかけ声かけるんだけどそれも相手チームに向かって言ってて攻撃的な感じ。気の強い子なんだろうなって思う。ちなみに『ナイッキー』は『ナイスキル』の略って瞳が言ってた。『kill』って…。もともと威嚇なんだから別にいいのか？

　あとよく出てくるのは麗奈さん。控えのセッターで標準身長らしい。たぶんベンチにいるあの子だろうと思うけどこれはあくまでも推測。でその隣に座ってるとびきり背の高い子がたぶん玉木有加１年生。通称『小たま』。なんでも今年入学のＮ県のバレー女子の中で１番の高身長らしい。１８６㎝。瑞樹兄さんと同身長。ボクと並んだら大人と子ども。

　苦しい時間帯。藤工が１点取る間に綾創が２点３点と取ってきてジワジワっと差が縮まってきた。一旦逆転を許すけどここで日菜乃さんが１本決めてローテーション。松嶋先輩が前衛に戻ってくる。もう一度松嶋先輩にボールを集中して怒涛の攻撃。再逆転して２５対２２で藤工が第一セットを獲った。ただ全力攻撃してた松嶋先輩は肩で息をしてる。明らかにオーバーワークだと思うんだけど……。なんだか不安な感じだけど試合は第二セットへと進む……。

　………。

　……。

　…。

　　　　　　　　　　　　to be continued in “part Kon 11/21 am 10:33”