メロメロ メリークリスマス

part Aki 12/24 pm 10:32




 ゆっくりと 眠りから意識が 浮き上がってくる。

 

 なんだか 寝床が硬い…。ちょっと寝苦しい…。目の中も バシバシする。どうやら コンタクトを外さずに寝ちゃったらしい。何時か 確かめようと 読書灯のところにあるスマホに手を伸ばす…。……っと 手が空を切る。ん? スマホどころか ベッドのサイドボードにも 触われない。あれ? 今 触れたのって畳? ってゆーか なんか 色々 おかしい…。だんだん 意識が覚醒してくる。


 薄ボンヤリ見える景色は 見慣れたボクの部屋…。……じゃあ ない。吊り蛍光灯に木目の天井。昭和の香りのする四畳半。



 ……瞳の部屋!?


 

 意識が 一気に覚醒し 跳ね起きる。慌てて周りを見渡すと すぐ傍の作業机のところに 瞳が座ってる。


 

「おはよ。亜樹。目 覚めた?」

 


 作業机にノートを広げ なにやら 書き込みながら 瞳が声をかけてくる。

 


「ゴメン。ボク 寝ちゃってた?」


「うん。国道 歩いてるときから フニャフニャ。で 部屋に着いたら コテンって感じ」



 ノートから 目を上げず シャーペンを動かしながら 瞳が答える。

 ……マジか。確か 七海堂 出たあと 瞳の部屋に行くことになって……。その後の記憶が 残ってない。まさか ケーキのお酒で酔っ払ったってワケじゃないと思うけど……。


 

「……ゴメン」


「ぜ~んぜん。寝顔 超~可愛かったし イロイロ 悪戯させてもらったし……」


「ウソ!?」


「冗談 冗談。大丈夫 大丈夫~。……っと 今日の振り返り終了~」



 ノートを閉じて 瞳がボクの方を見てニヤリ。

 どうやら バレーの振り返りを書いてたらしい。今日も 練習試合だったんだよな。疲れてるハズなのに クリスマスコンサート来てくれて その後 ルミナスと七海堂も 付き合ってくれた。その上 寝落ちした ボクの面倒まで見てくれて…。申し訳なさ過ぎる……。頼りないヤツって 思われたんじゃないだろうか? って不安なんだけど 瞳は ニコニコの笑顔。



「ゴメン。カッコ悪いとこ 見せちゃって…」


「ううん。カッコつけてる亜樹も好きだけど 眠くて甘えてくれてる亜樹も 可愛かった」



 甘えてた? ……な なにしたんだろ? 記憶ないから スゴく不安…。



「……なんか 変なことしちゃった?」


「いやぁ 別に 変ってことはないよ。腕 あたしの腕に ぎゅって絡めて 何回も頬 寄せてきてくれて なんか 甘えてくれてるなぁって感じで 嬉しかっただけ」



 ……ああ。それは 覚えてる。自分的には 寄り添って守ってるようなつもりだったんだけど…。甘えてるって思われたんだな。まぁ こないだみたいに 暗黒面が暴走したとかじゃなくて 一安心ってとこか。



「それよりさ。もう遅いから ママが『泊まってもらったら』って言ってんだけど どーする? 亜樹のお母さんに 連絡した方が いいのかなぁって 思ったんだけど スマホのロック掛かってたから 連絡できてなくて…。とりあえず 寝てる間に着信とかは なかったけど…」


「えっ? あっ そうだ。今 何時?」


「10時半 過ぎたとこ」



 ……10時半。本町のお鮨屋さんに行ったとしたら たぶん 帰ってくるのは11時は 回るハズだから 今んとこ まだセーフ。ただ 確かに 連絡 入れといた方がいい。で 『泊まっていい』って? マジで? それって まさか あの……。妄想が暴走する。

 ……いや 隣の部屋には啓吾くんいるし 下の階には お父さん お母さんもいる。そんな トンでもないことは できないけど…。……けど 瞳と 一晩 同じ部屋で過ごすとか マジで ヤバ過ぎる。頭に 血が昇って いまいち 思考がまとまらない…。



「……お母さん 泊まっていいって?」


「うん。『遅いのに 起こして1人で帰すワケにも いかねぇだろ』って…」



 瞳も ちょっと視線外して はにかんだ様子。たぶん 瞳も ボクと同じようなこと考えてくれてる。……喉の奥が ゴクリと鳴る。なんにせよ まずは ママに 連絡とらなきゃ。まずは そこから……。ママは けっこうレス速い方だから SNSでもいいんだけど ここは やっぱり 電話の方がいい。



 プルルルルッ プルルルルッ


 

『はい。亜樹ちゃん 何かあった? ママ達 あと1時間くらいで 帰るけど…』


「あのさ ママ。実は ボク 今 まだ 瞳の家にいるんだ。それで 瞳のお母さんが『もう遅いから泊まっていったら?』って 言ってくれてるんだけど 泊まっても 大丈夫?」



 できるだけ自然に。〈女の子同士のお泊まり会〉って雰囲気で。しばらくの沈黙。やっぱりダメかな?



『……あのさ。亜樹ちゃんは 男の子? 女の子? 女の子なんだったら お友達の家に泊まるくらい もう高校生なんだから 別に 構わないけど……』



 ママの一言で 浮わっついた気分が 一気に鎮まる。

 ……そう。ボクは男の子。高校生男子が 彼女の家に泊まってもいいか 母親に相談するなんて あり得ない。都合のいい時だけ『女の子』のフリするなんて それは 卑怯だ。周りの信頼も得られない。ボクは 瞳のこと本気なんだから ちゃんと家族にも応援してもらえるような形で 付き合っていかないと……。



「ゴメン。やっぱり 帰る」


『……うん。それが賢明ね。でも 確かに遅いから タクシー乗って帰ってらっしゃい。タクシー代は 後で ママが出してあげるから…』


「うん。わかった」


『ちゃんと お家の方に お礼 言うのよ?』


「うん。わかってる」



 そう言うと ボクは電話を切った……。

 ………。

 ……。

 …。



「お母さん ダメって?」


「ううん。『亜樹ちゃんは 男の子?女の子?』って聞かれたんだ。……ボクは 男の子だから…さ。 やっぱり 泊まるワケにはいかないな…って 自分で思った」

 

「……そっか」


「うん。なんか 都合のいい時だけ 女の子のフリするのは ダメだなぁ……って 思ってさ。せっかく 言ってくれたのに ゴメン」


「ちょっと 残念かも…」



 瞳は 寂しそうな顔。でも 怒ってる顔じゃ なかった。

 


「うん。ゴメン。ホントは 一緒にいたいけど 痩せ我慢して帰るよ…」


「痩せ我慢なんだ?」


「……そりゃそうだよ。ボクだって 瞳と一緒に過ごしたい。……でも ボク 瞳のこと 本気だから。だから 親にウソついて 周りの人 騙してとか できない。ちゃんと 認めてもらって 正々堂々 瞳と過ごしたい」


「カッコつけてるの?」


「うん。精一杯…ね」



 瞳は タメ息をついて 諦めたような笑顔。



「どうやって帰るの? 七海堂から 歩いて来ちゃったし 自転車 駐輪場のままでしょ?」


「ママが タクシー呼びなさいって…。タクシー代 出してくれるって」


「……そっか。わかった」


 

 スマホで タクシー会社を調べ 配車を頼む。


 

「……20分くらいで 迎えにくるって」


「うん」



 あと 20分でお別れ。瞳は ちょっと俯いて 唇を噛んでいる。瞳にしては 珍しい表情。それから おもむろに 顔を上げて 言った。



「ねぇ 20分 キスしてても いい?」



 20分も?って 一瞬 思うけど 今日は いっぱい喋ったし 手も繋いで ご飯も食べた。でも キスは ちょっとだけしたけど 中断しちゃった。ホントは もっとスゴいことしたかったけど カッコつけて『帰る』って言っちゃった ボクには 叶わぬ夢。そう思うと 確かに お別れの瞬間まで 瞳と唇を合わせていたい……。



「……うん。キスしよ」



 そう言って 膝立ちで 瞳に近づく。いつものことながら 瞳と同じ姿勢だと 身長差の関係で下からのキスになってしまう。そうなると どうしても女の子気分になっちゃうからな…。ところが ボクの思惑とは 裏腹に 瞳も膝立ちになり ボクのこと グッと抱き寄せると 上から唇を塞いできた。ちょうど ルミナスのときと 同じような体勢。瞳の腕に包まれて 唇の柔らかな感触を味わう。何回か 唇を触れあわせては 離し その度に 愛の言葉を囁き合う。

 瞳の舌が チロッと ボクの唇を舐める。お誘いに応えて ボクも舌で 瞳の舌を舐め返す。そこから ディープキス。やっぱり体勢が下だと 瞳に攻め込まれちゃう…。立ち上がって 体勢を入れ換えようとするけど ぎゅっと抱き締められて 阻止される。どうやら 今日は 瞳は この姿勢が いいみたい。諦めて 瞳の首に腕を回し もっと 濃厚なキスをせがむ。ちょっと 女の子っぽい気分になっちゃうけど 瞳に愛してもらえるなら それも悪くは ない……。

 ………。

 ……。

 …。


 


           to be continued in “part Kon 12/24 pm 10:38”

  



 

  


 

 


 

 

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