part Aki 12/24 pm 4:11






「へー。あきが 痴漢から? カッコいいじゃん」



 ここは 学校前の坂道の麓にある喫茶店。その名も『純喫茶 坂』。毎日のように 前を通ってたけど 入るのは初めて。その店内の一番大きな10人掛けのテーブルのお誕生日席に 瞳と2人で座らされる。



「そうなんです。メッチャ カッコよくて! 惚れた~って感じで」



 なんでか知らないけど 瞳は ニコニコで ボクとの馴れ初めを みんなに話してる。



「じゃあ 4月から 付き合ってたんですかぁ?」


「いや~ それから しばらくは友だちって感じで。付き合ったのは 10月からなんです」


「……告白は どっちから?」



 えっ? なに? はるなも参戦するの? 『アタシ 興味ない。付き合いでいるだけだし…』みたいな いつものスタイルじゃないの?



「亜樹の方からだったんですけど なんか 催促したみたいになっちゃって……。ちょっとイマイチな感じでしたね~」



 そんなこと言いながら 瞳が ボクの方を覗き込んでくる。怒ってるかなって思ったら かなりノリノリ。ボク こーゆー話 みんなにするの ちょっとってゆーか けっこう恥ずかしんだけど……。



「あきって なんて告白したの?」


「それなんですけど…」



 慌てて 瞳の口を押さえにいく。

 

 

「あー ダメ。ダメです。それは アタシ達のプライベート。瞳も ベラベラしゃべっちゃダメ」


「あき 真っ赤ー。かわいー」



 ボク こーゆーイジられキャラの立ち位置に 慣れてないから 超焦る。瞳は 一緒になって ケラケラ笑ってる。瞳は 明らかに このシチュエーションを楽しんでる。そう思うと 無下に 怒ったりもできない。試練の時間帯だ……。



「もう kissしましたぁ?」


「そりゃー もちろんでしょー。恋人同士だもん。付き合って3ヶ月とか 最高に楽しい時期よねー。そりゃもー 顔見るたびに ぶちゅーって感じよね。ねぇ? はるな?」


「……知らないわよ。ただ みんなが みんな アンタみたいに 盛ってるワケじゃないと思うけど?」



 みんな 口々に好きなこと しゃべり散らしてる。


 と それまで ずっと黙ってたなっちゃんが 口を開く。



「……あの わたし あんまり よく解ってなかったんだけど あきちゃんが紺野さんのこと『好き』って言ってるのは『お友達として好き』ってことじゃなくて『恋人として好き』ってことなの?」



 なにを今更って 感じだけど なっちゃん的には よくあること。ニコニコして聞いてたけど 半歩一歩 遅れてたり ズレてたり あるいは 全然 わかってなかったり。一対一で話してるときは あんま ないけど こんな感じでみんなんで話してると けっこうズレてる。ボクも 慣れたもんだから もう一回 整理してあげる。



「あー そうです。あの アタシ こないだから 瞳と 付き合ってて…。黙ってたのは ゴメンなさいですけど…」


「ぶちゅーよ ぶちゅー」


 

 はるなが サクヤの頭をはたいて 黙らせてくれる。

 


「でっ でもっ あきちゃんは 女の子で 紺野さんも 女の人でしょ? 女の子なのに 女の子 好きになるなんて 変だよね?」


「そーでも ないっしょ? アリだと思うけど?」


「百合って けっこう 流行ってますよぉ?」


「だっ だって そんなの 女の子同士なんて 変だよ!そんなの 絶対 変!」



 いつも 穏やかな なっちゃんが 顔を真っ赤にして 大声を出す。今まで 見たことないような 怖い顔。普段の姿からは想像もつかない怒り方だから けっこうビビるし 何でそこまで怒ってるの?って疑問も湧く。でも いくら なっちゃんが怒ったところで ボクが瞳を 愛してることを変えることは できない。そのことは 伝えなきゃなんない。友だちの中で なっちゃんが 一番 ボクのこと 解ってくれてるって思ってたから 動揺するけど ここは 感情的にならずに 落ち着いて話そう。



「なっちゃん。確かに なっちゃんが言う通り ボク達 端から見たら女の子同士だし 変に見えるかも。けど ボクは 瞳のこと 好きになっちゃった。変かも しれないけど それでも ボクは 瞳が好き」



 そう言いながら テーブルの下で 瞳の手を握る。瞳も しっかりと握り返してくれる。そう。ボクらのこと 誰もが祝福してくれるワケじゃない。それはツラいことだけど 誰にも気づかれない場所で 1人で泣いてるよりは ずっといい。隣に瞳がいてくれるし。もしかしたら 応援してくれる人がいるかもしれない。


 

「そんなの 間違ってるよ! あきちゃんが 女の人好きとか 絶対 駄目っ!絶対 駄目なのに……っ」



 なっちゃんの眼に 涙が溜まってる。その涙が零れるのを 隠すように 顔を覆いながら なっちゃんは 席を立ち 店から跳び出していった…。こーちゃんは 一瞬 呆気にとられたような顔してたけど 慌てて立ち上がる。



「亜樹。コレ。足りなかったら 家で返す」



 そう言いながら 千円札をボクに押しつけて なっちゃんの後を追って 道に跳び出していった。やっぱ 付き合ってるんだな…。

 ………。

 ……。

 …。




                        to be continued in “part Kon 12/24 pm 4:17”


 


   



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る