熱血!藤浜工業高校 女子バレー部

part Aki 11/21 am 9:43





 まぁ みんな 予想は ついてると思うけど 瞳に告白した次の日 ボクは 熱を出して 学校を休んだ。笑っちゃうほどの体力の無さ。ってゆーか知恵熱だよね…。幼児期から 成長してないってことか。さすがに 今回は 3日も寝込んだりはせず 次の日には 熱も下がり 登校することができたけど……。

 

 

 桜橋の改札を抜けたところで 手を繋ぎ 一緒に階段を上り そのまま 6時23分の列車を待つ。付き合う前より ちょっとだけ 手を繋いでる距離が伸びた。痴漢から守ってあげるって気持ちもあるけど 恋人同士だから 手を繋いで電車に乗るんだと思う。好きだって確かめ合ってる感じ。付き合い始めて1ヶ月。実は これが唯一のスキンシップ。瞳とは 朝しか会えないし 朝っぱらから 駅のホームで キスするワケにもいかない。


 

 あと 変化があったことと言えば 夜 電話するようになった。

 啓吾くんが お風呂に入ってる30分ほどの時間 瞳と電話する。瞳が お風呂から上がって 啓吾くんが2階に降り 部屋に戻ってくるまでの短い時間。色々 話せる日もあるし 全然の日もある。ちょっと声 聞けて安心するだけの日もあるし 相談事 聞いてもらったり聞いてあげたりって日もある。だいたい いつも時間が足りないから もっとゆっくり話したいって思うけど なかなか時間が取れない。理由は単純で お互い 忙しいから。特に 瞳は 春の高校バレーの県予選の真っ最中。土日は全部 試合と練習で潰れて デートなんてしてるヒマは無い。


 ボクの生活リズムも 少し変わった。

 保育園時代から 通っていたピアノをやめて 美大受験の塾に週2回 通うことになった。きっかけは 瞳の一言だった。朝 一緒に歩いてるとき 唐突に『美大行くからって 絵描きさんにならなくてもいいんじゃない?』って。そのココロは こういうこと。瞳は 藤工で服のデザインの勉強してるワケだけど 別にパリコレとか目指してるワケじゃない。そーゆーのじゃなくて 型紙を描く技術とか 縫製の技術とかを学んだ上で 普段使いの服のデザインを勉強してる。絵の世界も一緒じゃないの?って。

 

 目からウロコだった。

 今 頼まれてやってるイラストやポスターの仕事を職業にする。グラフィックデザイナーってヤツだ。自己表現としての油絵をお金に替えるってゆーのは いまいち釈然としなかったし 誰かが買ってくれるとも 思い難かったけど 初めから 誰かのために描いて それでお金を貰うってゆーのは 悪くない。もちろん 今の力じゃプロになんてなれない。だから そのための技術を大学で学ぶ。『そこで勉強したことって きっと 亜樹が描きたい絵を 描くときにも活かせると思うし』ホント 瞳の言う通りだと思う。


 ネットで調べたら 広告デザインやグラフィックデザイナーの養成やってる大学 いっぱいあった。まぁ いかにボクが現実から目を背けていたのかってゆーハナシなんだけど。もちろん 星光市内にもある。六ヶ杜にある市立美大のグラフィックデザイン科。定員5名。公立だから 恐ろしく倍率が高い上に レベルも高い。3浪4浪 当たり前ってゆー世界らしい。マジか?って思うけど 一応 ここが第一志望。第二志望は 七軒茶屋の紅梅美大のソーシャルデザイン創造学部の2Dアート専攻。こっちは定員30名。こっちも市立美大に比べれば だいぶマシだけど それでも けっこうな倍率。

 

 東京とか 他府県にもあるんだけど ママが下宿はダメって言うから この2つが志望校。パパも 反対は しなかった。『亜樹は亜樹の思うように生きたらいい』って。ボクが男の子だって伝えたときと 同じような反応。瞳と一緒に考えたプレゼンの仕方が良かったのか それとも 跡取りで長男の陽樹兄さんと 末っ子のボクとじゃ 思い入れが違うのか…。とりあえず 最後までゆっくり話を聞いてくれて 出された条件は1つだけ。浪人は しないこと。もちろん ボクだって浪人なんてしたくは 無い。美大受験だからってズルズル浪人生活するのは ダメってゆーのは もっともだと思う。だから 美大受験は現役の一回だけ。第三志望に スベリ止めの大学の英文科の名前を書いて 進路指導室に持っていった。


 夏には内部進学で聖心大の英米科って言ってたのに 突然 全然 違うこと言い出したから 進路指導の先生と担任の2人がかりで こってり搾られたけど 付き合ってるのがバレたときの 瞳のお母さんの迫力に比べたら 何のことはない。『自分で決めたことです。親も納得してます』の一点張りで 押し通した。


 自分で決めたことなら 頑張れる。

 この一年は 全力で絵の勉強をする。習い事2つ掛け持ちするのは キビシイから ピアノは やめた。聖歌隊は どーしようか真剣に悩んだけど 続けることにした。ボクが 今 抜けると ホントに回らなくなると思うし。ただ 事務的な仕事とかは 学年上がるまでに 後輩の子達に引き継ぐことにした。ボクも高1から 全体リーダーやってきたし なっちゃんもいるから 大丈夫だろう……たぶん。



 まぁ そんなワケで 毎週 月曜日と木曜日の放課後6時から 光岡中央の星光ゼミナール別館で 美大受験コースってゆーのを受け始めた。毎回の宿題も多いし 添削も厳しいけど なんとか やりきりってみせようと思う。瞳が 全国を見据えて 頑張ってるんだ。ボクだって 少しは できるとこ 見せないとね。




 瞳の方は 春高バレーの県大会突破に全力集中。

 春高バレーって 大会は 1月に東京であって 県大会は 11月にあるんだな。てっきり 春休みにあるもんだと思ってたけど 春休みにやってたのは大昔のことらしい。とりあえず N県の代表は インターハイと違って1校だけ。だから県大会突破しようと思うと 綾創大付属を倒さないといけない。綾創大付属は N県の女子バレーの絶対王者。インターハイは 7年連続出場。春高バレーは この10年で 出られなかったのは たったの1回。他県からも 推薦で優秀な選手を集めてるエリート集団。しかも 内部進学で綾創大に行く子ばっかだから インターハイベスト8のメンバーが ほとんど残ってる。『春高バレーは 今年も綾創』ってゆーのが前評判らしい。まぁ 全部 瞳からの受け売りだけど。


 

 

 でも 柏木監督と瞳は 今の藤工なら 綾創に勝てるって思ってる。



『まあ 見ててよ。絶対勝つ!とまでは言わないけど 面白い勝負には なるよ。約束する』



 昨日の電話で 瞳は自信ありげに そう言ってた。


 地下鉄公園東口から 歩いて7分。中央体育館の黒い丸屋根が見えてくる。女子の決勝開始時刻は午前10時。もうすぐだ……。

 ………。

 ……。

 …。



            to be continued in “part Kon 11/21 am 9:52”







 

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