第27話
「何があったか知らないけど、ちゃんとしなさい悠太。昼休憩とっていいから早くあっちいきな」
お昼時を過ぎ、お客さんが閑散としたところで母さんが俺にそう言った。
その理由は、まあ、冬咲だ。
ちょうど忙しくなった時間帯に突然、富永と共に店に来た冬咲は、奥のボックス席に座っていた。
そして富永はパスタを注文したが冬咲は飲み物だけ。
まだ体調が優れないのかと心配だったが、忙しくて話しかけたりはできず。
しばらくは二人の様子を確かめることもなく仕事をこなしていて。
ようやく落ち着いたところで二人のところに行くと、なんと冬咲が泣いていたのだ。
で、母さんもその様子を見て心配して、なぜか俺には少し怒り気味に休憩しろと言ってから奥へ引っ込んだ。
「……あの、冬咲? なんかあった?」
やっぱり体調が悪いのか、それともここに来るまでに嫌なことでもあったのか。
しくしくと目を擦りながら悲しむ冬咲に声をかけると、対面の富永が呆れたように笑った。
「あはは、気にしなくていいよ。いつものことだから」
「いつもの、こと?」
「あー、まあこっちの話。おばさんにもあとでちゃんと説明しとくから。上山君も気にせず仕事続けて」
「気にするなって言われても……」
「こんなんでオロオロしてたらダメよ。ま、その辺もおいおいね。とにかく、大丈夫だから」
富永に言われて俺は、渋々席を離れる。
冬咲は俺に気づいていない様子だし、何が原因かもわからない俺より、ずっと一緒にいる富永に任せた方が賢明だろう。
でも、気になる。
それに、少し辛くなる。
冬咲が悲しんでるとこをみると、胸が苦しい。
……大丈夫なのかな。
♡
「ほら泣かない泣かない。上山君に会えて嬉しすぎて泣いてるとか、頭おかしいって思われるでしょ」
「だ、だって……かっこいいもん」
「んー、いよいよ病的が行き過ぎなとこにきてるわね。早く付き合ってしまいなさいよ」
「ぜ、絶対変なやつだって思われた。嫌われた、死ぬ」
「嫌われると思うならなんで泣くかねえ。ほんとこの手のタイプってわかんないわ」
「上山君、好き。早く一緒に住みたい。早く仕事終わらないかなあ」
「ほんと、早く終わってくれないかしらねえ」
さくらが呆れ笑う。
でも私は、まだ笑えない。
嬉しいはずなのに、涙がでてくる。
ダメダメ、なんとかしないと。
「……さくら、楽しい話して」
「お、ようやく頑張る気になった? んー、それじゃ来月の文化祭で何するか、なんてどお?」
「上山君とたこ焼き食べたい」
「いいねいいね、それじゃまずは文化祭一緒に回ろうって誘わないと」
「あ、でももしたこ焼き焼いてる人が美人な先輩とかだったら却下かなあ。んー、やっぱり二人で一緒にお店したい」
「だったら早く申請書ださないと。出店申し込みの期限来週よ?」
「だ、だけど美人な女の子が買いにきたらやっぱり売りたくないかも」
「……ちなみに私には売ってくれるの?」
「ダメ。上山君が作ってくれたものは私が全部食べるの」
「商売向いてないわあんた」
「ひゃうっ」
ピシッとデコピンされた。
「もー、さくら痛いよ」
「あはは、ごめんごめん。でも、文化祭楽しみよね。中学の時はパッとしなかったけど高校のは結構盛大にやるみたいだし」
「上山君とじゃなきゃ楽しくないもん」
「はいはい。で、今日は買い物なんでしょ? 何買いに行くの?」
「……決めてない」
「いやいや、誘っておいてノープランはやばいでしょ。それなら服とかは? 一緒に服選ぶとか、いかにもカップルっぽいじゃん」
「でも、さくらに昨日選んでもらったばっかだし」
「んー、それもそっか。じゃあ、雪乃が欲しいものにしたら? 何がほしいの?」
「子供……」
「アホか。他」
「上山君の苗字……」
「買えるものにしなさい」
「お、お金で解決するものなんて私欲しくないもん」
「何の話よこれ。いや、まじで欲しいものないの?」
「上山君の着てたジャージ?」
「ダメだこりゃ」
さくらにこの後、もういちどデコピンされた。
でも、気づいたら涙は止まっていて。
時間も午後二時を回っていた。
そして、私が泣き止んでほどなくして。
上山君が私のところに来てくれた。
「冬咲、もう大丈夫なのか?」
「……うん」
「そっか。ええと、この後はまだ富永とどこか行く? それなら」
「いかない。さくら、お疲れ様」
さくらに遠慮して、上山君がまた席を離れようとするので私はギロッとさくらを睨んだ。
ゴーホームだよ、さくら。
「うわ、こっわ雪乃。はいはい、私は先にいくからあとはごゆっくりねー」
さくらはいつものように呆れながら席を立って、先に店を出て行った。
「……よかったのか?」
「いい。さくら、忙しいから」
「そ、そう。じゃあ、とりあえず俺たちも店出る?」
「うん。買い物、だったね」
そう、買い物だ。
私は今日、これから上山君に買い物に付き合って……あれ?
「で、何買いにいくの?」
「それは……」
何も考えてなかった。
店を出て、どっちへ向かえばいいかもわからない。
うう、カムバックさくら!
調子に乗ってごめんなさい。
どうしよう、上山君が不審な目で私を見てる。
ど、どうしよう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます