第21話

「あー、疲れた」


 今日は特に忙しかった。

 冬咲と富永は店が混んでくると席を空けるように店を出ていったけど、それに構う暇もないほどにひっきりなしにお客さんがきた。


 そして時間は夕方四時を回り、片付けが終わってひと段落ついたところで母さんから声をかけられた。


「お疲れ様悠太。これ、今日のバイト代ね。もうあがっていいわよ」

「お疲れ母さん。着替えたら出掛けてくるよ」

「早くしなさいよ。ほら、外で彼女待ってるわ」

「え?」


 店の窓から外を見ると、白いワンピース姿の小柄な女の子が俯き加減でじっと立っていた。

 冬咲が俺を待っていた。


「は、早く言ってくれよ母さん」

「中で待っててって言ったんだけど。早くあんたと出掛けたいみたいよ」

「……行ってきます」


 母さんが言ってることが冬咲の口から出た本音なのかただの推測かはわからないが、どちらにせよ早くから俺を待っててくれてる冬咲を見ると俺も気持ちが昂ってくる。


 エプロンを脱ぎ捨てて上着を替えて、ちょっとだけ髪を整えてから店を出る。


「お待たせ冬咲」

「あ、うん。お疲れ様」

「早速だけど、商店街の方に行かない? あの辺ご飯屋さん多いし」

「うん、任せる」


 二人で一緒に、学校とは反対側へ歩き始める。

 俺たちが目指すのは、海沿いの田舎町の象徴的な商店街。

 昔は港も栄えてて、もっと多くの店と人で溢れていたと親世代の人からよく聞くけど、今はポツポツと店があって人もまばらな場所。


 それでも役所や駅が近く、一応この町の中心ではあるので週末なんかはそれなりに家族連れの人なんかがぶらぶらしている。


 俺が今日、冬咲を連れていきたい店はそこにある「暁」というオシャレなカフェだ。


 最近できたところで、リーズナブルな上に夜はお酒も飲めるとか。

 もちろん俺たちは高校生なのでご飯を食べるだけだが、デートにはうってつけの場所だと拓真に教えてもらった。


「暁って店、知ってる? 俺も行ったことないんだけどなんかオシャレなんだって」

「さくらに聞いたことある。楽しみ」

「ほんと富永と仲良いんだな。休みの日はいつも一緒なの?」

「んーん、だいたいは一人。上山君こそ、斎藤君と仲良いみたいだけどいつも遊んでるの?」

「んー、あいつは基本部活だし俺はいつも店だからなあ。案外あいつと遊ぶことは少ないかな」


 そんな何気ない会話をしていると、商店街が見えてきた。


 初めて女の子と外食。

 考えるだけで、緊張で言葉が出てこなくなる。

 冬咲も会話が途切れてからずっと黙ったまま。

 緊張、してるのかな?

 それとも、やっぱり俺とのデートなんて楽しくないのかな……いや、今は余計なことは考えないようにしなきゃな。


 冬咲とのせっかくの食事なんだから楽しんでもらえるように頑張らないと。



 ……さくらと私がいつも一緒かどうか聞いてきた。


 これってつまり……さくらの休みの日の予定が気になってるの?

 ど、どうしよう! さくらに上山君が取られちゃう!


 そ、それに斎藤君とはいつも一緒じゃないってことは……誰といるの?

 

 ……んー、ダメダメまた変なこと考えがえてる。

 せっかくのデートなのに。

 それに、もし上山君が他の人に目移りしてるなら私がもっと頑張らないと。


 毎日お店にもいかないと。

 もっといっぱい話さないと。


 さくらに借りたお金は五千円。

 今日は全部上山君に捧げます。


 さくら、ありがと。

 でも、上山君惑わしたら殺しちゃうから。


 私、本気だからね。

 

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